第十九話 再会したのは
第三章 泥沼
第十九話 再会したのは
「先輩、昼飯どうします? うまい昆布パンが売ってるところ知ってるんすよ、俺!」
「そうだな、もうこんな時間か……」
街に設置された時計を目にして、カイが呟く。
「じゃあ、そこに行こ――」
そのときだった。
カイの目が、一人の人物を捉えた。
「あれは……」
淡い黄色の髪を靡かせている。
そして――緑色の瞳。
「マール?」
「まーる?」
「悪い、ポート。先に行っててくれ!」
「ちょ、先輩!」
ポートの声を背に、カイはマールを追って走り出した。
「マール、待って!」
マールは人気のない路地裏へ入っていく。
違和感を抱きながらも、カイは無我夢中で後を追った。
「待って! マール!」
やがてマールは足を止め、振り返った。
「カイ⁉︎ どうしてこんなところに?」
「ハァ……マール、久しぶりだね……」
息を切らしながら言う。
――ゼェゼェと喘ぎながらでは、どうにも格好がつかない。
「パトロールで来たの?」
「うん。偶然、君を見かけて……」
カイにとって、これほど嬉しい再会はなかった。
ただ――。
「あの、それで……」
ダメだ。
話したいことが多すぎる。
何から話せばいいのか、わからない。
「落ち着いて、カイ。ゆっくり深呼吸して」
マールに言われ、カイはゆっくりと深呼吸する。
呼吸を整え、改めてマールと顔を合わせた。
久しぶりに見るマールの顔は、なんだか――。
なんだか……。
「?」
「どうしたの、カイ?」
「……れだ」
「えっ?」
「誰だ! お前」
マールは硬直した。
「誰って、マールよ。忘れちゃったの? 私、悲しいわ」
そう言いながら、くすくすと笑い出す。
「やっぱり、本物の愛には敵わないな。なるほど、そうか。これが愛ってやつなんだね」
マール――いや、何者かの口調が変わった。
そして――。
「⁉︎」
マールの顔が、ゆっくりと解け始める。
その奥から、赤い瞳が覗いた。
――これは、やばい。
直感的にそう思った。
カイはすぐさま路地の出口へ向き直る。
しかし――もう遅かった。
グググ……。
地面から土の壁がせり上がり、路地の出口を塞いでいく。
そのまま土の壁はグニャリと形を変え、カイへ覆い被さった。
「せんぱーい! 先輩、どこっすか?」
遠くからポートの声が聞こえる。
しかし――カイの声がポートに届くことはなかった。
その夜。
いつもの三人で夕食を囲んでいた。
「いやー、びっくりしたっすよ。いきなりいなくなるから、何事かと」
「ごめんごめん。懐かしい人に会ったんだ」
「まったく、ポートを困らせるなよ」
ノースはカイを見つめる。
ここ最近、カイの様子がおかしい。
夕食を終えると、すぐに一人でどこかへ行ってしまう。
それに――どこか無理をしているような……。
「ふう、ご馳走様」
カイは食事を終えた。
しかし、席を立とうとはしない。
「行かないのか?」
「え? どこに?」
「いつも食後にどこかへ行ってるだろ。いい加減、どこへ行っているのか教えてくれよ」
「お前、言ったじゃないか。俺を応援してくれるって」
ノースはカイを真っ直ぐに見つめる。
「俺もカイの助けになりたいんだ」
カイは少し考えてから、口を開いた。
「大丈夫だよ。ありがとう、ノース」
そう笑いかけると、席を立つ。
そして、そのままどこかへ行ってしまった。
「ポート」
「ふぁい?」
鱈の昆布巻きを口いっぱいに頬張りながら、ポートが反応する。
「パトロール中、カイの様子をよく見てやってくれ」
「ひょうふぁいふぇふ」
(了解です)
「俺たちも、そろそろ部屋に戻ろう」
そう言って、ノースも席から立ち上がった。
同時刻。
王室にて。
「最近は地底人が活発になりつつある。作戦決行は、まだ先になりそうだな」
王室の窓から外を眺めながら、プロテウスが呟く。
「左様でございますか」
プロテウスの前で膝をついているのは、細長いバッグを肩に掛けた男だった。
胸元の徽章は、緑色に輝いている。
「どうだ、カイの様子は?」
「配下によると、アスターン氏と夜な夜な稽古をしているようです」
「そうか、そうか」
プロテウスは満足そうに頷く。
「カギの方は、順調だな」
そう言うと、プロテウスは不敵な笑みを浮かべた。




