第十八話 この霧を晴らすには
第三章 泥沼
第十八話 この霧を晴らすには
「ごめんね、気をつけて行くんだよ」
「うん。お兄ちゃんもね」
赤い瞳の少年はそう頷くと、歩き出そうとした。
しかし、ふと振り返り、こちらを見る。
「僕の名前はテラ。また会おうね、お兄ちゃん!」
「うん」
テラの背中を見送りながら、カイは手を振った。
「なんだか懐かれちゃいましたね」
隣で一部始終を見ていたポートが口を開く。
「そうだな」
結局、マールには会えないまま、王城まで戻ってきていた。
「初日のパトロール、ご苦労だった。明日の朝からは、少し範囲を広げてパトロールしてもらう」
デニズが、パトロール終了時のミーティングで再び皆の前に立つ。
「少々地味な仕事だが、真剣に取り組んだ者や、成果を上げた者から部隊の移動を考える。気を抜かず、頑張るように」
そう言い残し、今日のミーティングは解散となった。
初仕事を終えたカイは、いつもの三人で夕食を囲んでいた。
「こっちは成果なしっすよ~」
「こっちも同じだ。やはり昇格のためには、デニズさんの言う通り、真面目に取り組んでいくしかないか」
二人の会話を聞きながら、カイは今日の出来事を思い返していた。
デニズとの再会。
デニズには、聞きたいことが山ほどある。
それに――少年、テラとの出会い。
テラは、他の人とはどこか違う、異質な雰囲気を放っていた。
説明するのは難しい。
けれど、何かが引っかかる。
「どうかしたのか?」
「先輩、今日は一段と変でしたからね」
「一段とってどういう意味だよ!」
「げっ、心ここにあらずって感じだったのに、しっかり聞いてた。……冗談ですって、先輩」
じゃれ合う二人を見つめながら、ノースはカイの様子に違和感を抱いていた。
――次の日。
そのまた次の日。
何の進展もないまま、日々は過ぎていった。
デニズも、最近は顔を見せなくなっている。
第四部隊に入団して、一週間が経った頃だった。
カイは一人、廊下を歩きながら考えていた。
デニズの言葉。
地底人の全貌。
それに――マール。
彼女も、何かを隠しているような様子だった。
この海底王国を取り巻く謎は多いのに解決への進展はしていない。
そのせいか、カイはどうにも釈然としない気持ちでいた。
俺だって、プロテウスとかにストレートに聞けるならそうしている。
だが、今の生活が崩壊してしまうことが怖くて、なかなか一歩を踏み出せない。
そこまで考えたところで、カイは足を止めた。
――何を悩んでいたんだろうか。
全てを解決する方法?
そんなもの、決まっている。
俺がもっと強くなって、昇格すればいいだけだろう?
もっと鍛錬が必要だ。
善は急げ。
そう考えたカイは、方向を変えた。
「ってなわけで、俺に強くなる方法を教えてください!」
カイは床に頭を擦り付けた。
「まったく、この間言ったじゃろ? 訓練終了って……もう儂が教えることは何もない」
カイの前には、緑茶を飲むアスターンが座っている。
「そう言わずに、お願いします、師匠!」
「誰が師匠じゃ! だから、教えることはもう……」
「水面の術」
「……」
「教えてくれませんでしたよね?」
「ノースが気づかなければ、どうするつもりだったんですか?」
「……」
アスターンは口を閉ざし、俯いている。
「ねえ? なんとか言ってください!」
「儂は……」
そう言うと、アスターンはポツリ、ポツリと話し始めた。
「君たちには、危険な目に遭ってほしくなかった」
「この海衛団に入団してくる者のほとんどが、地底人討伐を目的としている。君やノース君もそうじゃろ?」
「だが、厄介なことに、地底人の勢力は日を追うごとに増大している」
「奴らはアクアエネルギーとはまた別の力を使ってくる。そのため、初見の技もかなり増えるだろう」
「だから、俺たちを試した?」
「まさか、攻略されてしまうとはな……。君らにとっての初見の技というのを手札に残しておきたかったのだが……」
アクアエネルギーと似たものが存在するのか……。
カイは、知らず知らずのうちに拳を握っていた。
「だったら尚更、俺は強くならなければいけません」
「そうかもしれないの……」
アスターンは白い眉をひそめる。
「よし」
しばらく考えた後、アスターンは口を開いた。
「明日から、夕食が済んだらすぐここに来るのじゃ」
「じゃあ!」
「一から鍛え直したるわ」
こうして、夕方までパトロール。
そして夜からは、特訓の日々が始まった。
「ごちそうさま!」
そう言って、カイはそそくさと訓練場へ向かっていく。
その様子を、ポートとノースは呆然と眺めていた。
やがて二人は目を見合わせる。
そんな日々が、また一週間ほど続いた。
しかし、どれだけ鍛錬を重ねても、めでたく昇進――というわけにはいかなかった。
それでもカイは、諦めなかった。
パトロールをこなし、夜には特訓をする。
そんな日々を、ひたすら繰り返していく。
――そして、ある日のパトロール。
事件は、始まった




