第十六話 攻略
第二章 海衛団
第十六話 攻略
ダン! ダン!
水の弾丸が飛び交う中、アスターンは援護射撃を防ぎながら、カイとノースの相手をしていた。
「連携が形になってきたな」
満足げな顔を浮かべている。
どうやら、まだまだ余裕があるらしい。
吹き飛ばされては突進し、また吹き飛ばされれば突進する。
そんな攻防を繰り返しているうちに――
「そろそろ訓練終了の時間じゃな」
アスターンが時計へ目を向ける。
どうやら、戦闘を切り上げるつもりらしい。
「待ってください!」
カイとノースが、ほぼ同時にアスターンへ掴みかかる。
しかし――
次の瞬間、アスターンの足元から大量の水が噴き出した。
「なっ――!」
水はそのまま上昇し、二人の身体を押し退ける。
攻撃を見事にかわしたアスターンは、そのまま波に乗るようにして移動すると、周囲の仲間たちを次々と薙ぎ倒していく。
「爽快、爽快」
楽しげに笑いながら、訓練場の入り口へ向かっていく。
このまま出られてしまえば、今日の訓練は終わってしまう。
「くそっ……!」
カイは焦る気持ちを抑えながら、必死に水球を作った。
そして、それをアスターンへ向かって投げつける。
しかし――
ドォン!
水球は暴発した。
「……!」
それでもアスターンは、難なく攻撃を防いでしまう。
「それじゃぁ、諸君。また明日」
そう言い残すと、アスターンは訓練場を後にした。
「……」
その場に残されたカイたちは、悔しそうにアスターンの背中を見送った。
◇
夕食時。
カイとポートは、今日の訓練について話し合っていた。
「どうやったら、アスターンさんに勝てるのかな」
「先輩の攻撃でも、みんなで飛びかかってもダメでしたしね」
「戦い方自体は間違ってないと思うんだけどな……」
「相手が強すぎるっすよ」
そこへカイが、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば、アスターンさんって死角からの攻撃にも対応してきたよね」
「……」
ノースは黙ったまま、二人の話を聞いていた。
やがて――
「あのさ」
ノースが口を開いた。
「アスターンさんの動きに、心当たりがある」
「えっ?」
カイとポートが、同時にノースを見る。
「本当?」
「ああ」
ノースは頷いた。
「二人に話したいことがある」
「分かった」
カイは頷いた。
こうして三人は夕食を終えた。
◇
夕食と会議を終えたカイは、一人で図書館へ向かっていた。
もしかしたら、地上への出口について何か手がかりが得られるかもしれない。
そう考え、とりあえず歴史に関する文献から、しらみつぶしに探していこうと思ったのだ。
しかし――
「……あれ?」
歴史関連の本が、一冊もない。
いや。
正確には、ないというより――
「抜き取られてる……?」
その一角だけ、本棚が綺麗さっぱり空になっている。
カイは急いでカウンターへ向かった。
そこには、ホホジロザメの頭をした司書が座っていた。
亜人の姿にもすっかり見慣れてきたとはいえ、サメの頭となると、さすがに少し怖い。
「なんだい、あんちゃん」
「あの、その……歴史関連の書物が……」
カイが本棚の方を指差した、その瞬間。
「あれをやったのはお前か!!!」
「えっ!?」
司書が凄まじい形相で睨みつけてくる。
「違います! ただ、理由を知りたくて……」
「何者かが、あそこの本に水をぶっかけやがったんだよ! 犯人はまだ分かってねぇ!」
「水を……?」
「ああ。おかげで本はほとんど駄目になっちまった」
随分とご立腹のようだ。
「何か知ってることがあったら教えてくれな」
「はい……」
カイは頷き、その場を離れた。
それにしても、なぜ歴史の書物を狙ったのだろう。
あれだけの被害を出しているのだ。
偶然とは、とても思えない。
誰かが意図的に歴史の書物を狙ったのだろう。
「……気になるな」
しかし、今はアスターンとの訓練に集中するべきだ。
カイはそう考え、図書館を後にした。
◇
翌日。
訓練場では、カイたちがアスターンの到着を待ち構えていた。
やがて――
ガラガラッ。
訓練場の扉が開く。
アスターンが一歩、足を踏み入れた。
その瞬間――
ノースが奇襲を仕掛ける。
「ほう?」
アスターンは軽々と攻撃を防ぎ、そのままノースへカウンターを叩き込む。
「ぐっ!」
ノースの身体が吹き飛ばされる。
アスターンは何事もなかったかのように、訓練場の中央へ向かって歩いてくる。
そして――
「今だ! 動き回れ!」
ノースが叫んだ。
その声と同時に、カイたちは一斉に動き始めた。
アスターンを中心に、グルグルと円を描くように走り回る。
「……?」
アスターンの顔に、初めて困惑の色が浮かんだ。
周囲を動き回る者たちは、次々と攻撃を仕掛けていく。
昨日までの余裕はない。
アスターンは必死に攻撃を受け流している。
カイも仲間たちと共に攻撃を加えていく。
「今だ!」
ノースが叫ぶ。
「ポート!」
「了解っす!」
ポートが水の銃を構える。
「これで――!」
ダン!
水の弾丸がアスターンへ向かって飛んでいく。
アスターンは反射的に身をかわす。
しかし――
僅かに遅れた。
水の弾丸が頬を掠める。
アスターンの頬から、一筋の血が流れた。
「……!」
アスターンは驚いたような顔で、自分の頬をさする。
作戦が成功したのだ。
◇
「アスターンさんは、おそらく――水面の術を使っている」
昨晩、食堂にてノースがつぶやいた。
「水面の術?」
ノースの言葉に、カイとポートは耳を傾けていた。
「昔、父さんから聞いたことがあるんだ」
ノースは続ける。
「風呂に入っているところを想像してみろ」
「風呂?」
「ああ。俺たちが湯船の中で動けば、当然、水面も揺れるだろ」
「確かに……」
「水面の術は、その揺れを感じ取ることで、相手の動きを察知することができる術なんだ」
「なるほど……!」
カイは今日の戦いを思い返した。
死角からの攻撃にも対応していたアスターン。
あれは、相手の動きを読んでいたのではない。
水面のような揺れから、位置を感じ取っていたのだ。
「なら、その水面をかき乱せば……」
「そうだ」
ノースが頷く。
「俺たち全員で動き回れば、水面の揺れが多すぎて、アスターンさんは俺たちの位置を正確に把握できなくなる」
「それなら、攻撃を当てられる!」
ポートが嬉しそうに声を上げる。
「ただし――」
ノースの表情が険しくなる。
「相手の実力は本物だ。水面の術を封じたところで、簡単に勝てるわけじゃない」
「じゃあ、どうする?」
「ポート」
「俺っすか?」
「ああ」
ノースはポートを見る。
「全員で隙を作る。その隙を狙って、お前が一撃を入れてくれ」
「……なるほど!」
ポートが笑う。
「任せてくださいっす!」
「よし」
ノースは頷いた。
「これでいく」
その後、三人は作戦を仲間たちにも伝えた。
「まさか……」
アスターンが呟く。
「水面の術の弱点まで破られるとはのう」
そして、苦笑した。
「ノースとポートのおかげだな」
「……!」
ノースは黙ってアスターンを見つめている。
ポートは嬉しそうに笑った。
「ガッハッハ!」
突然、アスターンが豪快に笑い始める。
「まったく、若いってのは素晴らしいな!」
そして、訓練場にいる全員を見渡した。
「全員、合格じゃ!」
「……!」
一瞬、静寂が訪れる。
次の瞬間――
「やったー!」
「よっしゃあ!」
訓練場に歓声が響き渡った。
カイは仲間たちと顔を見合わせる。
昨日まで歯が立たなかったアスターンに、ついに一撃を入れたのだ。
こうして――
俺たちは無事、訓練を終え、昇格することができた。




