第十五話 第二関門
第二章 海衛団
第十五話 第二関門
「なるほど、先輩は地上世界からやってきたんすね」
ポートが納得したように頷く。
「それで、そのマールという少女と一緒に地上へ帰る方法を探していると……」
「そうなんだよ。些細なことでもいいから、何か知らない?」
カイの問いに、ノースとポートは顔を見合わせる。
そして――二人そろって首を横に振った。
「そっか……」
カイは肩を落とす。
昼時。
三人はいつものように、食堂で昼食をとっていた。
入団したばかりの頃は考えられなかったことだが、今ではすっかり三人で食事をするのが日課になっている。
「図書館で調べてみるのはどうだ?」
「それだ!」
ノースの言葉を聞いた瞬間、カイは勢いよく立ち上がった。
「うおっ!」
「先輩、急に立たないでくださいよ!」
二人が驚いたようにカイを見る。
「アンカーには海底王国最大の図書館があるんだろ?」
「ああ。二十四時間利用できるはずだ」
「じゃあ、今日の夜にでも行ってみよう!」
ようやく見つけた手がかりへの道。
カイは意気揚々と訓練場へ向かった。
――だが。
その日の訓練場では、思いもよらない出来事が待っていた。
◇
「諸君」
アスターンが、いつものように訓練場の中央に立っていた。
「お主らは今まで、よく励んできた」
普段とは少し違う真剣な表情。
「そろそろ、次の段階へ進む頃じゃと思う」
隊員たちが顔を見合わせる。
「よって、これより訓練を終了するための試験を行う」
「……試験?」
ざわめきが広がる。
アスターンはニヤリと笑った。
「簡単なことじゃ」
両腕を広げる。
「儂が訓練場にいる間に――儂へ一撃でも入れることができれば、その者は訓練終了じゃ!」
「えっ!?」
「終了!?」
一同が一斉にざわつく。
「そう、終了じゃ」
アスターンは楽しそうに笑う。
「訓練を終了すれば、徽章は紫色へ変わる。そして、担当業務も変わる」
「担当業務って……?」
「海底王国のパトロールじゃ」
カイの目が輝く。
紫色の徽章。
そして、パトロール任務。
これは――昇格のチャンスだ。
「この機会を逃すわけにはいかない……!」
カイが拳を握る。
「さあ、誰から来る?」
アスターンが両腕を広げる。
すると――
「俺から行く!」
一番に飛び出したのは、ノースだった。
「おお、ノースか!」
ノースは両手に水を纏わせる。
水は瞬く間に形を変え――
鋭い爪となった。
「はあっ!」
ノースが一気に距離を詰める。
その勢いのまま、水の爪を振り下ろす。
しかし――
アスターンは動かなかった。
次の瞬間。
シュンッ!
アスターンの身体を、水の薄い膜が覆う。
ガキンッ!
水の爪が膜にぶつかった。
「……!」
ノースの攻撃が、完全に止められた。
壁とは違う。
紙のように薄い水の膜。
それなのに、水の爪を一切通さない。
「よし」
アスターンが笑う。
「そのまま続けるぞ」
「……!」
次の瞬間。
アスターンが水の膜を消した。
そして――
「水流拳」
ズドンッ!
拳がノースへ迫る。
ノースは咄嗟に水の爪を交差させ、防御する。
「ぐっ……!」
受け止めた。
そう思った、その時だった。
「……?」
ノースの目が見開かれる。
アスターンの拳から――渦が生まれていた。
「なっ――」
次の瞬間。
ゴォォォッ!
「うわあああっ!」
ノースの身体が渦に巻き込まれ、そのまま訓練場の端まで吹き飛ばされる。
「ノース!」
カイが叫ぶ。
しかし、ノースはすぐに立ち上がった。
「……まだだ」
その姿を見て、カイは思う。
そういえば――
アスターンが戦っているところを、今まで一度も見たことがなかった。
まさか。
これほどまでに強かったなんて……。
「……って、見てる場合じゃない!」
カイは両手と両足に水を纏わせる。
「俺も行く!」
カイがアスターンへ向かって駆け出す。
それに続いて、他の隊員たちも一斉に動いた。
「みんなでかかれば……!」
しかし――
アスターンの手が、わずかに動いた。
ヒュンッ!
次の瞬間。
無数の水の斬撃が、空中を走る。
「うわっ!」
「ぐあっ!」
「避けろ!」
隊員たちが次々と吹き飛ばされていく。
「くそっ……!」
それでも、カイは止まらない。
水の斬撃をかわしながら、ひたすら前へ進む。
そして――
「ここだ!」
ついに、アスターンの懐へ入り込んだ。
「ほう」
アスターンが楽しそうに笑う。
「少しは成長したようじゃの」
「いくぞ!」
カイは拳を振るう。
「水流拳!」
右。
左。
さらに右。
連続して拳を繰り出す。
だが――
「……!」
すべて受け流される。
まるで、水そのものを相手にしているようだった。
「うんうん」
アスターンは笑っている。
「強くなったではないか」
その顔とは裏腹に、カイの攻撃を受け流す手は一切止まらない。
「くっ……!」
カイはさらに踏み込む。
「隙あり」
「……え?」
その瞬間。
カイの頭上に、水の球が現れた。
「なっ――」
ドォォォッ!
水球から、大量の水が一気に降り注ぐ。
「うわあああっ!」
まるで小さな滝のような勢いに、カイの身体が押し流される。
「くっ……!」
足に力が入らない。
動けない……!
その時だった。
――ダンッ!
大きな音が訓練場に響いた。
「……?」
アスターンが、片手を前に出している。
その手のひらの前には、水の膜。
何かを防いだようだった。
「この音……?」
カイには聞き覚えがあった。
銃声。
いや――
そんなはずはない。
ここは海底王国だ。
カイが水の流れから抜け出し、音のした方を見る。
「……!」
そこにいたのは――
水で作られたライフルを構えたポートだった。
「ポート?」
ポートはニッと笑う。
「先輩!」
そして――
「みんなで勝ちましょう!」
「……!」
その声を聞いた瞬間。
倒れていた仲間たちが、次々と立ち上がった。
「みんな……」
「援護は任せてくださいっす!」
ポートがライフルを構える。
「いくっすよ!」
ダンッ!
水の弾丸が飛ぶ。
アスターンは軽く手を動かし、防御する。
だが――
「今だ!」
その一瞬の隙を逃さず、カイたちは一斉に距離を詰める。
「ほう……」
アスターンが目を細める。
「斬撃に備えろ!」
ノースが叫んだ。
次の瞬間。
ヒュンッ!
再び水の斬撃が飛んでくる。
「任せろ!」
ノースが前へ出る。
水の爪を振るい、迫りくる斬撃を次々と弾き飛ばす。
そして――
「俺が止める!」
ノースは仲間たちの前に立ち、全員を庇う。
「今だ!」
その隙に、隊員たちがアスターンを取り囲んだ。
カイも拳を握る。
ポートもライフルを構える。
ノースも水の爪を構え直す。
初めて――
三人の視線が、同じ敵へ向いた。
「いける……!」
カイは確信した。
――みんなで勝ってみせる!




