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帰る場所は海の底  作者: cat-run
第二章 海衛団

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第十二話 決闘

第二章 海衛団

       第十二話 決闘

 

入団してから、一か月が経った。


 日を追うごとに、訓練の内容も少しずつ進展していった。


 水の球を作る訓練から始まり、水の形を変える訓練。


 水に勢いをつけて生成する訓練。


 そして、実際の体術まで。


 最初は何もできなかった俺も、今では簡単な水の操作ならできるようになった。


 ノース以外の海衛団の仲間とも、少しずつ打ち解けてきた。


 以前と比べれば、俺もかなり強くなったと思う。


 胸元の徽章も、入団した頃より赤色が濃くなっていた。


 そんな、ある日のことだった。


 いつものように、ノースと巡回警備をしていたとき――


「俺と決闘しろ」


「……え?」


 突然、ノースが口を開いた。


 あまりにも唐突な言葉に、思わず聞き返す。


「俺が勝ったら、お前は海衛団を辞めろ」


「なんでお前に、そんなことを……」


「目障りだからだよ」


 それだけ言うと、ノースは歩き始めた。


「ちょ……」


 俺は慌てて、その後を追う。


 決闘。


 正直、やりたくはない。


 力がついたとはいえ、俺にはまだ戦闘経験がない。


 もちろん、ノースとやり合ったことなんて一度もない。


 それに――


 ノースは、明らかに俺より強い。


 それでも、俺は逃げなかった。


 この一か月間、何のために訓練してきたのか。


 地上へ帰るため。


 マールとの約束を果たすため。


 そして――


 もう二度と、逃げないためだ。


◇


 その日の訓練後。


 俺はアスターンに決闘の許可をもらった。


「がっはっは! これが青春というやつかの!」


 アスターンは、なぜか嬉しそうだった。


 青春を過ごしたことのない俺が言うのもあれだけど――


 たぶん、違うと思う。


 夕食の時間になり、他の隊員たちが訓練場を後にする。


 残ったのは、俺とノース。


 そして、審判役のアスターンだけだった。


「何かあって、プロテウスにどやされるのはごめんじゃ」


 アスターンは苦笑しながら、俺たち二人を見る。


「だが――面白いものが見れそうじゃの」


 俺とノースは、訓練場の中央で向かい合う。


 広い空間に、静かな緊張が走った。


「準備はいいか?」


 アスターンが尋ねる。


「はい」


「……ああ」


 俺は拳を握る。


 心臓が、激しく脈打っている。


 怖い。


 けれど――


 逃げるつもりはない。


「それでは――」


 アスターンが手を上げる。


「始め!」


 その瞬間――


 ノースが動いた。


「……速い!」


 ノースは両手に水を纏わせる。


 水は瞬く間に形を変え――


 鋭い爪となった。


 水の爪。


 訓練中に何度も見た、ノースの得意技だ。


 対して、俺はまだ武器を作る段階にすら到達していない。


 なのに――


「はあっ!」


 ノースは一切ためらわず、こちらへ突っ込んできた。


「ちょっ……!」


 フェアプレーなんて、どこへやら。


 いきなり全力で来やがった。


 だが――


「ここだ!」


 俺は手を前へ突き出す。


 瞬間。


 ドォンッ!


 目の前に、巨大な水の壁が出現した。


「……!」


 ノースが壁へ突っ込む。


 ドンッ!


 身体が大きく弾かれた。


 それでも、ノースはすぐに体勢を立て直す。


 やっぱり、一筋縄ではいかない。


 俺には、一つだけ大きな武器がある。


 アクアエネルギーの量だ。


 どうやら俺は、人よりもかなり多くのアクアエネルギーを持っているらしい。


 そのおかげで、普通なら作れないほど巨大な水の壁を作ることができる。


「……なら!」


 ノースが再び水の爪を振るう。


 ザンッ!


 巨大な水の壁が削られていく。


 それでも――


 一度で破壊することはできない。


 二度。


 三度。


 四度。


 そして――


「……五秒!」


 壁が完全に破壊されるまで、およそ五秒。


 十分だ。


 俺はその間に、両手と両足へ水を纏わせる。


 これなら――


「いける!」


 水の壁が最後の一撃で砕け散った。


 その瞬間。


 俺はノースへ向かって飛び出した。


「うおおおっ!」


 拳に水流を纏わせる。


 アクアエネルギーを使った、最も基本的な戦闘技術。


 水流拳。


「食らえ!」


 拳を振り抜く。


 ――入った!


 そう思った。


 だが――


 ドンッ!


「……!」


 拳がノースの腹へ届く寸前。


 そこに、小さな水の壁が出現していた。


 俺の拳は、その壁に阻まれる。


「なっ……!」


 これほど正確な位置に。


 しかも、こんな一瞬で――


 やっぱり、ノースは強い。


 だが――


 拳を受け止めたことで、俺の身体は前のめりになっている。


 そして、両手は完全に塞がっている。


 ――まずい。


「終わりだ」


 ノースの声が聞こえた。


 顔を上げる。


 水の爪が、頭上から振り下ろされていた。


「……!」


 どうする。


 どうする。


 どうする――!


 考えろ。


 何かあるはずだ。


 俺の武器は、アクアエネルギーの量。


 なら――


「そうだ!」


 俺は咄嗟に、腹の前へ巨大な水球を作り出した。


 そして、身体の周囲に薄い水の壁を張る。


「何っ――」


 ノースが目を見開く。


 次の瞬間――


 ドォンッ!!


 水球が暴発した。


 爆発するように水が弾け飛び、俺とノースの身体が同時に吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」


 俺は事前に作っていた水の壁にぶつけ、その衝撃を受け流す。


 さらに受け身を取る。


 何とか着地した。


 一方――


「ぐっ……!」


 ノースは床を転がった。


 攻撃の体勢に入っていたところを、不意打ちで吹き飛ばされたのだ。


 かなりのダメージが入ったはずだ。


「……うまくいった」


 水球を作る際、少しでも力加減を間違えると暴発してしまう。


 訓練中、何度も失敗してきた。


 まさか、こんなところで役に立つとは思わなかった。


 だが――


「……まだだ」


 ノースがゆっくりと身体を起こす。


「……!」


 まだ立てるのか。


 俺もすぐに構え直す。


 勝負は、まだ終わっていない。


「なら……!」


 俺は片手を前へ突き出す。


 人差し指を伸ばし、残りの指を握る。


 まるで、拳銃のような形。


「くらえ!」


 指先から、水を勢いよく撃ち出す。


「ぐっ!」


 水はノースの身体を捉えた。


 威力は、それほど高くない。


 だが――


 ノースの動きが、一瞬だけ止まった。


 それで十分だった。


「うおおおっ!」


 俺は再び突進する。


 全身のアクアエネルギーを拳へ集める。


「これで――!」


 水流拳を叩き込む。


 今度こそ――


 拳が、ノースの腹へ入った。


「……!」


 やった。


 そう思った。


 しかし――


 同時だった。


 俺の左頬にも、強烈な衝撃が走った。


「ぐはっ!」


 ノースもまた、水流拳を放っていた。


 互いに拳を当てたのだ。


 視界が大きく揺れる。


 足に力が入らない。


 そして――


 ドサッ。


 俺とノースは、ほぼ同時に床へ倒れ込んだ。


「……」


「……」


 広い訓練場に、静寂が戻る。


 アスターンは、ただ黙って俺たち二人を見つめていた。


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