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帰る場所は海の底  作者: cat-run
第二章 海衛団

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第十一話 衛兵の一日

第二章 海衛団

       第十一話 衛兵の一日


自分の思ったことを、そのまま伝えた。


 ノースは、しばらく黙っていた。


 そして――


「……そうかよ」


 吐き捨てるように呟く。


 それ以上、会話が続くことはなかった。


 気まずい空気が流れる中、王城の案内は続いた。


 最後に案内されたのは、海衛団の寮だった。


「……広っ」


 カイは、部屋に入った瞬間に思わず声を漏らした。


 部屋は一人で使うには十分すぎるほど広く、ベッドや机などの家具も一通り揃っている。


 しかも――


「ベランダまであるのか」


 扉を開けて外へ出る。


 そこからは、海底王国の街並みを一望することができた。


 エメラルドグリーンの光に照らされた街は、夜になっても幻想的な輝きを放っている。


 これほど広い部屋なのに、同居人はまだいないらしい。


 海衛団も、人材を集めるのに苦労しているのだろうか。


「……マール、今頃何してるのかな」


 ベランダの手すりに手を置き、夜風を感じながら呟く。


 今日一日で、いろいろなことがあった。


 海衛団に入団したこと。


 アクアエネルギーのこと。


 そして――


「ノースは一体、何が不満だったんだろうな」


 いくら考えても、答えは出てこない。


 自分が何かしたわけでもない。


 それなのに、最初からあれほど敵意を向けられていた。


 まだ、わからないことがたくさんある。


 だが――


「まあ、明日になれば何かわかるか」


 どうやら、明日の朝も早いらしい。


 今日はもう寝ておこう。


 そう考えたカイは、ベッドへ潜り込む。


 頑張って昇格して、マールと一緒に地上へ帰る。


 やるべきことは、もう決まっている。


 あとは――


 それを遂行するだけだ。


「……明日も頑張るか」


 小さく呟き、カイは目を閉じた。




 海衛団の一日は、実に充実していた。


 朝起きると、まず食堂で朝食をとる。


 その後、朝礼。


 そしてすぐに、王城の巡回警備が始まる。


 入団したばかりのカイは、ノースと組んで巡回することになった。


「……」


「……」


 相変わらず、空気は重い。


 カイは何とか話しかけようとした。


 だが――


「……」


 ノースは一切、聞く耳を持ってくれなかった。


 結局、巡回中に交わした言葉は必要最低限。


 それでも、カイは諦めなかった。


 いつか話せるようになればいい。


 今は、そう思うことにした。


 巡回が終わると、昼食。


 そして午後からは、訓練場へ向かう。


 ここからが、カイにとって本当の意味での試練だった。


 アクアエネルギーを扱うための能力使用訓練。


 今日が、その初日である。


 訓練場へ入ると、まず担当の講師がカイのもとへやってきた。


「能力使用訓練を担当している、アスターンだ」


「……!」


 カイは思わず姿勢を正す。


 目の前に立っていたのは、かなり歳を重ねた老人だった。


 白くなった髪に、深い皺の刻まれた顔。


 その姿は、まさに――


 物語に出てくる師匠そのものだった。


「カイです。今日からよろしくお願いします」


「うむ。プロテウスから君の話は聞いている」


 アスターンは、カイの顔をじっと見つめる。


「かなりの能力の持ち主だとな」


「……!」


 カイは少し驚いた。


「確かに――君からは、他の者とは違う気配を感じる」


「やっぱり、わかるんですか?」


「アクアエネルギーの気配だけ……な」


 アスターンは顎に手を当てる。


「儂もプロテウスとは長い付き合いだが――」


 一度、言葉を切る。


「あいつの考えることは、どうにもよく分からん」


「……」


 カイが何とも言えない顔をしていると――


「ガハハハハ!」


 アスターンは豪快に笑い、そのまま去っていった。


「……なんだったんだ、今の」


 カイは呆然とその背中を見送った。




「それでは、本日から新しいお友達が訓練の仲間に加わります! みんな、仲良くするよーに!」


「……」


 まるで小学校の転校生のようなノリで紹介された。


 しかし――


 周囲の隊員たちは、ちらりとカイを見るだけ。


 特に反応する様子はなかった。


 どうやら、こういうことは珍しくないらしい。


「みんなは、いつもの訓練を続けてねー」


 そう言って、アスターンがカイのもとへやってくる。


「さて、君はまず基礎の基礎からだな」


「はい!」


「まずは手をかざしてみな」


 言われた通り、カイは片手を前へ伸ばす。


「そして、念じてみるんじゃ」


「念じる……?」


「そうじゃ」


「どうやって?」


 アスターンは少し考えた後、笑った。


「水玉を生み出すイメージでやってみな」


「水玉……」


 カイは目を閉じる。


 頭に浮かんだのは――


 マールが能力を使っていたときの姿だった。


 手のひらに生まれた、淡く光る水の球。


「……あんな感じか」


 指先に力を込める。


 すると――


「……っ!」


 身体の内側から、何かが動いた。


 身体の中心から腕へ向かって、凄まじい勢いで何かが流れていく。


 血液のような感覚。


 だが――


「……いや」


 これは血なんかじゃない。


 もっと別の何かだ。


「これが……アクアエネルギー?」


 エネルギーが腕を伝い、指先へ集まっていく。


 そして――


 ポタッ。


「……!」


 指先から水が現れた。


 水は少しずつ集まり、やがて手のひらの前で球体を形作っていく。


「できた……!」


 だが――


「ん?」


 水の球は止まらなかった。


 どんどん大きくなっていく。


「えっ、ちょっと待っ――」


 バンッ!


「うわっ!」


 水の球が弾けた。


 大量の水が周囲へ飛び散り――


 カイは真正面から水を浴びる。


「……」


 びしょ濡れになったカイが、呆然と立ち尽くす。


 一方――


「ほう」


 アスターンは、いつの間にか手をかざしていた。


 カイへ向かって飛んでいた水は、空中でピタリと止まっている。


「……すご」


 やがてアスターンが手を下ろす。


 止められていた水が一斉に解き放たれ、重力に従って床へと落ちていく。


「上出来、上出来!」


 アスターンは高らかに笑った。


「若いってのは、活気があっていいな!」


「……これ、上出来なんですか?」


 カイは濡れた髪をかき上げる。


「もちろんじゃ!」


「……なら、よかったです」


 カイも苦笑した。




 その後もしばらく、水の球を生み出す訓練は続いた。


 最初は大きさを調整することすらできなかった。


 だが、何度も繰り返すうちに、少しずつコツが掴めてくる。


 そして――


「今日はここまでじゃ」


「はい!」


 こうして、カイの訓練初日は終わった。


 訓練の後は夕食。


 その後、入浴を済ませて自分の部屋へ戻る。


 ベッドへ腰を下ろしたカイは、今日一日の出来事を思い返した。


 朝起きて。


 食事をして。


 巡回をして。


 訓練をして。


 そして、また明日を迎える。


 大変なことは多い。


 ノースとの関係も、まだどうなるかわからない。


 それでも――


「……充実してるな」


 カイは、そう呟いた。


 地上にいた頃には、考えられなかった生活だった。


 明日が来ることを、楽しみに思える。


 それだけでも――


 ここへ来た意味は、あったのかもしれない。


 ただ、一つだけ。


「……あとは、ノースとの仲だな」


 それだけが、少し気がかりだった。


 そんなことを考えながら、カイはベッドへ倒れ込む。


「明日も……頑張ろ」


 そう呟いて――


 カイは、深い眠りへ落ちていった。

       


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