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帰る場所は海の底  作者: cat-run
第二章 海衛団

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第九話 入団試験

第二章 海衛団

       第九話 入団試験


扉を開けると、地下室の壁から漏れ出していた青い光が、より一層強くなった。


 プロテウスとともに、部屋の中へ足を踏み入れる。


 そして――


「……!」


 カイは、思わず目を丸くした。


 部屋の中央。


 そこには、巨大なエメラルドグリーンの結晶がそびえ立っていた。


 まるで巨大な植物のように、いくつもの結晶が枝分かれしながら伸びている。


 その先端は天井を貫き、どこまでも続いているように見えた。


「これが、アクアエネルギーの核だ」


 プロテウスは、カイより一足先に結晶へと近づいていく。


「さあ。ここに触れるのだ」


 プロテウスが指し示した先。


 そこには、魔法陣のような紋様が浮かび上がっていた。


「……」


 カイは一度、深く息を吸う。


 そして――


 一歩。


 また一歩。


 ゆっくりと結晶へ近づいていく。


 やがて、すぐそばまで辿り着いた。


 目の前にあるエメラルドグリーンの結晶に、自分の顔が映っている。


 そこに映っていたのは――


 海で見た、あのときの自分とは違う顔だった。


 少しだけ、生きることを前向きに考えられるようになった顔。


 カイは、そう思った。


「……よし」


 意を決して、結晶へ手を伸ばす。


 プロテウスが見守る中、恐る恐る指先を近づけていく。


 心臓が高鳴る。


 手のひらには、じわりと汗が滲んでいた。


 そして――


 ヒタッ。


 指先が、結晶に触れた。


 その瞬間だった。


「……!」


 結晶が、一気に光を放ち始める。


 同時に――


 ビリッ!


「っ……!」


 腕に衝撃が走った。


 まるでゲームのコントローラーが突然振動したような感覚。


 その衝撃は腕から肩へ。


 そして、全身へと駆け巡っていく。


「ぐっ……!」


 何かが身体の奥へ入り込んでくる。


 細胞の一つ一つに、何かが流れ込んでくるような感覚。


「な、なんだ……これ……!」


 思わず手を離そうとする。


 だが――


 離してはいけない。


 なぜか、そんな気がした。


 カイは歯を食いしばり、衝撃に耐え続ける。


「ツッ……!」


 身体が震える。


 それでも、手を離さない。


 しばらくすると――


「……?」


 プロテウスの表情が変わった。


 驚いている。


 それも、ただの驚きではない。


 明らかに予想外のものを目にしている顔だった。


 だが、カイにはそれを気にする余裕などなかった。


 ただひたすら、身体に流れ込んでくる力に耐える。


 そして――


 バチンッ!


「うわっ!」


 突然、結晶から強烈な力が放たれた。


 カイの身体が、まるで突き飛ばされたように後方へ吹き飛ぶ。


「――ぐっ!」


 そのまま背中から倒れ――


「痛っ!」


 さらに、後頭部を床に打ちつけた。


 ――どこまでドジなんだ、俺。


 そんなことを考えながら――


 カイの意識は、ゆっくりと遠のいていった。


◇


 ――次に目を覚ましたとき。


「……大丈夫ですか?」


 ぼんやりとした視界に、見覚えのある女性の顔が映った。


 昨日、王城で見かけた召使いの女性だ。


「……ん」


 カイは重い身体を起こす。


 まだ頭がぼんやりしている。


 何があったのか。


 曖昧な意識の中で、必死に記憶を整理する。


 そして――


「……そうか。俺、試験に落ちて……」


 あれだけ結晶に拒絶された。


 認められたはずがない。


 そう思うと、胸が重くなる。


 ――マールに合わせる顔がない。


 どんな顔をして帰ればいいんだ……。


「大丈夫ですか?」


 召使いの女性が、もう一度尋ねる。


「あ、はい……生きてます」


 カイは苦笑しながら答えた。


「それは何よりです」


 女性は少し安心したように微笑む。


「それと――プロテウス様がお呼びです。お手数ですが、王室までお願いします」


「わかりました」


 短く返事をすると、カイはベッドから起き上がった。


 寝心地はいい。


 だが――


「……落ち着かないな」


 これほど装飾の施された高級そうなベッドに寝ていると、どうにも居心地が悪い。


 召使いに案内され、王室へ向かう。


 その途中――


「……?」


 何人もの召使いや衛兵とすれ違った。


 皆、どこか慌ただしく動いている。


 ――何かあったのだろうか?


 そんな疑問を抱きながら、王室の前へ辿り着く。


 カイは扉をノックした。


「入れ」


「失礼します」


 扉を開け、中へ入る。


 そこには、プロテウスが待っていた。


「先ほどは、とても面白いものを見せてもらった」


「……?」


 プロテウスは、どこか楽しそうに笑っている。


「まさか、あれほどの反応を示すとはな」


「……あれほどの反応?」


 カイには何のことかわからない。


 すると、プロテウスはさらに笑みを深めた。


「結晶の方から、其方を拒絶しおった」


「……?」


 どういうことだ。


 なぜプロテウスは、そんなに楽しそうにしている?


「本来、認められた者であっても、身体へ流れ込んでくるアクアエネルギーの量に耐えきれず、すぐに手を離すものだ」


「……」


「それを其方は――」


 プロテウスは、少し間を置いてから言った。


「いつまでも吸収し続けた」


「……え?」


「だから、結晶の方から拒絶しおったのだ」


「……!」


 カイは目を見開く。


 ――それって、もしかして。


 俺は、耐えられないほどのアクアエネルギーを、無理やり吸収し続けていたのか?


 じゃあ――


「……過剰摂取で、俺……死ぬの?」


「安心しろ」


 プロテウスは即答した。


「耐えられている時点で、其方にとっては適量なのだ」


「……」


 プロテウスは、まだ笑っている。


「……ん?」


 カイは首を傾げた。


 そして、ようやく何かに気づく。


「ってことは……?」


 プロテウスは、堂々と告げた。


「文句なしの合格だ」


「……!」


「ようこそ、海衛団へ」


「……」


 その瞬間――


 カイの身体から、力が抜け落ちた。


「……よかった」


 思わず、そんな言葉が漏れる。


 本当によかった。


 これで――


 地上へ帰るための道を、一歩進むことができる。


 カイは胸を撫で下ろし、静かに息を吐いた。


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