008.偽情報の拡散
暫く、平凡なフェイク映像を流していたが、飽きてきたリディアは新たなコンテンツを考えていた。
『ダイヤモンド会員のご契約ありがとうございます。
期間限定の有料コンテンツ公開のお知らせです。
限定コンテンツ:王国軍事機密
タリアン王国軍の最新装備・兵力配置・軍事予算をご覧いただけます。
なお、機密情報であるため本日のみの限定公開となります。』
「なに?軍事機密だと……?」
「これほどの情報まで手に入るのか!しかし……」
シュヴァルツは、以前の一件を思い出した。
「待て。これも罠ではないのか?」
「殿下、ご安心ください。先日に追加した改竄検知機能があります。映像とカメラ本体の記録が一致していることを確認できます。偽物であればすぐに分かるかと。」
技術者が太鼓判を押す。
「そうだったな!ふふふ……今度こそ本物だ!急ぎ、コンテンツを見れるようにしろ。」
「承知いたしました。」
映像は、リディア本人が説明している動画であった。
【タリアン王国軍事機密】
王都防衛兵力:300万人
南方軍:150万人
西方軍:140万人
魔導兵器:3,000基
王都地下:秘密兵器あり
「おい、兵力の数が半端なく多くないか。」
シュヴァルツは思わず画面に顔を近づけた。
「王都防衛だけで300万人だと……? そんな兵力を維持できる財政基盤がどこにあるというのだ……?」
そして、その下に表示されていた一文に、シュヴァルツの目が止まった。
『王都地下:秘密兵器あり』
そこには、それ以上の説明がない。
「……秘密兵器とだけ書いてある。これは一体何なのだ?」
「映像を進めれば詳細が出てくるのでは?」
「そうだな。早く続きを見せろ。」
映像が切り替わる。
そこには、王都地下へ続く巨大な扉が映し出されていた。
『こちらが、王都地下に存在する秘密兵器への入口です』
「おお……!」
シュヴァルツの目が輝く。
「これほど巨大な扉……一体、中に何があるというのだ?」
映像の中のリディアが淡々と説明する。
『ただし、この先は国家機密となりますので、映像ではお見せできません』
「…………」
「…………」
「…………何だと?」
シュヴァルツの顔が引きつった。
「ここまで見せておいて、肝心なところを見せないだと!?」
「殿下、落ち着いてください。」
「落ち着いていられるか!ここまで来たのだぞ!」
シュヴァルツは画面を睨みつける。
すると、画面の端に小さな文字が表示された。
『なお、秘密兵器の詳細情報は、VIP会員限定となります』
「…………」
シュヴァルツの目が細くなる。
「なるほど……そういうことか。」
「殿下?」
「これは罠だ。」
「やはりですか!」
「いや、逆だ。」
シュヴァルツは不敵に笑った。
「ここまで情報を見せておいて、最後だけ隠している。つまり、更に課金させようという魂胆だ。」
「なるほど……!」
「そして、VIP会員になれば、それが見られる。」
シュヴァルツは即座に立ち上がった。
「申し込め!」
「はっ!」
『VIP会員へのアップグレードありがとうございます。
秘密兵器の詳細をご覧いただけます。
なお、最高機密情報につき、追加認証が必要です。』
「…………」
「殿下?」
「……認証しろ。」
「しかし、追加料金が――」
「構わん!」
「はっ!」
そして、ようやく秘密兵器の映像が出る。
ところが、そこに映っているのは――
巨大な地下避難施設だった。そこで、リディアが淡々と説明している。
『こちらが王都地下に建設された大規模防災施設ですわ。災害発生時には最大で数十万人を収容できます。食料、水、医薬品なども長期間分備蓄されています』
「…………」
シュヴァルツの眉間に皺が寄ってくる。
「……これは軍事施設ではないのでは?」
側近が恐る恐る言う。
「馬鹿者!」
「はっ!」
「これだけの規模の地下施設を敵国に知られず建設しているのだぞ!下手に攻めれば、タリアン王国は長期戦に持ち込む恐れがある。」
「な、なるほど……!」
「やはり、サフィシェント計画通りに事を進めるしかなさそうだな。」
「ところで、サフィシェント計画とは一体どういう計画なのでしょうか。」
シュヴァルツは、満足そうに口元を緩めた。
「気になるか?では、特別に教えてやろう。」
側近たちが身を乗り出す。
「我々の目的は、タリアン王国を直接攻撃することではない。」
「と、申しますと?」
「まずは監視する。情報を集め、必要とあらば情報を操作する。そして国内に不満を生じさせ、派閥同士を争わせる。」
シュヴァルツは、得意げに指を立てる。
「さらに経済的な圧力を加え、徐々に国力を削っていく。」
「なるほど……。」
「そして最後には――」
シュヴァルツは立ち上がり、窓の外を眺めた。
「国民自身に、我々との統合を望ませる。」
「……!」
「戦争など必要ない。タリアン王国の民が、自ら『ヴァイスの庇護下に入るべきだ』と考えるようになれば、それでいい。」
側近たちは感嘆の声を漏らした。
「なんと……そこまで計算されていたとは。」
「ふふふ……当然だ。」
シュヴァルツは満足そうに頷いた。
「力で奪えば、必ず反発が生まれる。だが、自ら望んでこちらに従わせれば話は別だ。」
「なるほど……。」
「国民自身に『ヴァイスと一つになった方が幸せだ』と思わせる。そうなれば、こちらが手を下す必要すらない。」
シュヴァルツは、勝ち誇ったように笑った。
「それこそが、サフィシェント計画の真の目的だ。」
――その頃、タリアン王国では、リディアは一枚の報告書を眺めていた。
「ヴァイス王国の動向について、報告いたします。」
「ええ。聞かせてちょうだい。」
「先ほど、例の監視システムから大量のアクセスがありました。また、軍事機密に関する映像も最後まで閲覧されたようです。」
「まあ。」
リディアは楽しそうに微笑んだ。
「それで、どこまで見せたのかしら?」
「王都地下の防災施設までです。」
「そう。」
リディアは小さく頷いた。
「では、かなり警戒しているでしょうね。」
「はい。おそらく、あの施設を軍事拠点だと誤認していると思われます。」
「ふふっ……。」
リディアは口元を押さえて笑った。
「それなら、次はもう少しだけ期待に応えてあげないといけませんわね。」
「次……ですか?」
「ええ。せっかくあちらが、相当課金してくださっているんですもの。」
リディアは楽しそうに笑った。
「こちらも、それに見合うだけのコンテンツを提供して差し上げませんと。」
「次は何を見せるおつもりですか?」
リディアは少し考えた後、悪戯っぽく微笑んだ。
「そうですわね……。」
「次は――内部分裂でも見せて差し上げましょうか。」
「内部分裂、ですか?」
「ええ。貴族同士が対立し、軍部と文官が争い、民衆まで不満を募らせている……そんな、とても緊迫した王国の姿を。」
リディアは楽しそうに指を鳴らした。
「もちろん、全部フェイクですけれど。」
「…………。」
側近は、しばらく言葉を失った。
「お嬢様……それを見たヴァイスは、どうなるでしょうか?」
リディアはシュヴァルツの顔を思い浮かべるように、くすりと笑った。
「きっと『計画通りだ!』と、大喜びするのではありませんこと?」




