007.崩れ始めた計画
シュヴァルツは、タリアン王国の経済成長を見て同じ政策を導入した。だが――結果は散々だった。
「なぜだ。なぜ、ヤツの国では成功して、我が国ではうまくいかない。何か原因があるはずだ。」
その時、監視していたディスプレイに謎の文字が現れた。
『ダイヤモンド会員のご契約ありがとうございます。
新サービスの開始に伴い、期間限定特別価格にてご覧いただけます。
VIP会員:税率90%の裏側』
「税率90%の裏側だと?」
シュヴァルツは思わず身を乗り出した。
「まさに欲しい情報ではないか……しかし――」
これまでの情報を思い返す。あまりにも都合が良すぎる。
「……どうも話がうまく行き過ぎる。今までの情報も、こちらを誘導するために仕組まれていたのかもしれん。」
シュヴァルツは眉をひそめた。
「そこの者、至急技術者を呼べ。」
「はっ!」
しばらくして、技術者がシュヴァルツのもとへやって来た。
「至急、タリアン王国に仕掛けたマジック・アーツ感知システムを確認しろ。こちらのアクセスが向こうに把握されていないか調べるんだ。」
「承知しました。」
「そして、バックドアの細工も変更してこい。理由は定期メンテナンスと言えばいいだろう。」
「はっ、直ちに向かいます。」
シュヴァルツは画面に表示された「VIP会員」という文字を睨みつけた。
「今度こそ、ヤツの本当の狙いを暴いてやる……。」
翌日――
「お嬢様、隣国のヴァイスから、マジック・アーツ感知システムの定期メンテナンスとのことで、技術者が訪問されています。いかがいたしますか。」
それを聞いたリディアはニヤニヤしながら答えた。
「どうぞお通しして。ただし、マジック・アーツ感知システム以外に何かやらないか監視を怠らないように。」
(バックドアの変更をしに来るようですわね。お手並み拝見とさせていただこうかしら。)
メンテナンスは、半日間に及ぶ大規模なメンテナンスとなった。その間、技術者の行動を見落とすまいと数人で監視している側近たちがいた。
「メンテナンスは完了いたしました。しかし、随分と我々を警戒されているのですな。」
「いえ、国家機密を他国に委ねているのですから、最低限の監視は必要でしょう。」
「それはそうですが、もう少し我々を信頼していただいても……。」
「それは難しい相談ですわね。」
「……と申しますと?」
「国家機密を扱う仕組みを作られている技術者の方々ですもの。そんな皆様を、無条件で信用しろという方が無理ではありませんこと?」
「…………。」
「どうかしら?」
「……おっしゃる通りでございます。」
技術者は返す言葉を失った。
「遠路はるばるご苦労さまでした。」
「そう言えば、リディア様の銅像が見当たりませんが……。」
「銅像?」
リディアは一瞬、不思議そうな顔をした。
「ええ。以前こちらを訪れた際には、立派な銅像が作られていたように記憶しておりますが。」
「まあ……?」
リディアは首を傾げた。
「そのようなもの、こちらにはございませんわよ?」
「……え?」
技術者は目を丸くした。
「ですが、以前確認した映像には確かに――」
「映像?」
「い、いえ……。」
技術者は慌てて言葉を濁した。
「どうやら私の記憶違いだったようです。失礼いたしました。」
「お気になさらず。私も銅像を建てるほどの功績はありませんもの。」
リディアはにっこりと微笑んだ。
「……左様でございますか。」
技術者は釈然としない様子だったが、それ以上は何も言わなかった。
「それでは、私はこれで失礼いたします。」
(なるほど。ヴァイスの人間は、私たちが見せている映像をそのまま現実だと思い込んでいるようね。)
技術者が立ち去るのを見届けると、リディアは側近に尋ねた。
「それで、どうだったかしら?」
「はい。システム本体には異常ありません。ただ……。」
「ただ?」
「メンテナンス中、外部通信に関する設定が一部変更されていました。」
リディアはニヤリと笑った。
「まあ……やはり、何か仕掛けていきましたのね。」
(さて、どんな細工をしたのかしら。)
リディアは楽しそうに画面を眺めた。しばらく解析を続けた後、制御プログラムの構造を把握する。
そして――リディアは、すぐにその意図を理解した。
「送信した映像とカメラ本体の記録データを比較するロジックまで組み込まれているわね。」
リディアは画面を眺めながら、仕組みを確認していく。
「なるほど……送信されてきた映像と、カメラ側に保存されている記録を照合しているのね。」
そして、すぐに意図を理解した。
「つまり、この機能は『映像を見るため』ではなく、『映像が本物か確認するため』のものね。」
リディアは小さくため息をついた。
「このまま映像を差し替えたら、改竄したことがすぐにバレてしまうじゃない。」
しばらく考えた後、リディアは楽しそうに笑った。
「仕方ありませんわね。」
キーボードを操作し、プログラムの一部を書き換える。
「全く……あの人たちは何を考えているのかしら。ここは何があっても『映像は本物です』と返すようにしてあげましょう。」
リディアは満足そうに頷いた。
「これなら、殿下も安心して映像をご覧になれますわ。」
場所が変わって、ここはシュヴァルツ殿下の執務室——
「ただいま戻りました。」
「おおっ、やっと帰ってきたか。首尾はどうだ。」
「はい。システム本体には不審な変更は確認されませんでした。そのため、予定通りバックドアだけを変更してまいりました。」
「よくやった。後で褒美をとらせる。」
「ありがたきお言葉。追加で、送信した映像とカメラ本体の記録データを比較するようプログラムを仕込んでおきました。映像の改竄があると瞬時に検知できます。」
「なるほど……つまり、これで偽の映像を掴まされる心配はないということだな。」
「その通りでございます。もし何者かが映像を差し替えようとしても、すぐに検知できます。」
「ふふふ……これならもう、何も恐れる必要はないな。」
シュヴァルツは満足そうに頷いた。
「これでようやく、タリアン王国の真実を知ることができる。」
その頃、タリアン王国では――
リディアが満足そうに微笑んでいた。
「これで安心して見ていただけますわね。さて……次は何を見せて差し上げようかしら。」
少し考えた後、楽しそうに笑う。
「いえ、しばらくは新規コンテンツをお預けにした方が面白そうですわね。」




