006.300兆ミラの使い道
相変わらず、シュヴァルツは防犯カメラを監視する日々が続いた。
「ふふっ、この様子だとサフィシェント計画が完璧に実行できそうだな。他国にプライバシーを売るような馬鹿な令嬢のお陰で計画も予定通りだ。」
防犯カメラを数時間眺めていたシュヴァルツは、またも契約に関するメッセージが出て前のめりになった。
『プラチナ会員のご契約ありがとうございます。
ただ今、アップグレードキャンペーンとして、最高ランクを特別価格にてご覧いただけます。
ダイヤモンド会員:王国の財政収支』
「ほう、財政収支とは中々面白いものまで提供してもらえるものだな。おい、早速申し込んでこい。」
「分かりました。直ぐ手配いたします。」
「ふふっ、財政収支が分かれば、内政事情が詳細に把握できる。内部崩壊させるための格好の餌食だな。」
——数時間後
「ふふっ、やっと見られるようになったか。どんな悪政をやっているのか楽しみだな。」
シュヴァルツは高笑いしながら、財政収支を確認した。
『税率90% → 5%
市場取引額:前年比+2500%
商業税収:+1000%
国庫残高:過去最高』
「……何だ、これは。90%など正気の沙汰ではない。だが、だからこそ効果があったのかもしれんな。」
「効果……ですか?」
「一度国民に徹底的な苦痛を与える。その後で税率を5%まで下げる。そうすれば国民は減税を恩恵だと感じ、消費が爆発的に増える。結果として税収も増える……そういうことだろう。中々考えたものだな。」
「まさか、同じ事を実践するおつもりですか?」
「当たり前よ。これで国家が潤えば計画も確実に進行できる。タリアン王国の経済が好調な今のままだと計画が失敗に終わってしまうぞ。」
「し……しかし、税率90%はあまりにも横暴過ぎます。必ず暴動が起きてしまいます。」
「しかし、タリアン王国では何の問題も起こっていないのだろう。であれば、問題ないはずだ。早速我が国でも施行するぞ。急ぎ臨時国会を開け。」
「……承知いたしました。」
こうして臨時国会が開かれ、全会一致で税率90%が可決された。反対意見が出なかったわけではない。だが、シュヴァルツが提示した資料には、タリアン王国の驚異的な経済成長を示す数字が並んでいた。
「タリアン王国で成功しているのなら、我が国でも成功するのでは?」
「殿下がそこまで自信をお持ちなら……。」
「短期間だけなら試してみる価値はある。」
こうして誰もが不安を抱えながらも、賛成票を投じていたのだった。
——場所が変わってリディアの執務室では
「やはり、300兆ミラの使途が気になるわね。」
リディアは、引き出しの奥に隠されていた一冊のノートを見る。そこには今までの収支が細かく記載されていた。
【貧困対策費】
食料支援――100億
医療支援――300億
住宅整備――500億
【王都南地区再開発】
1兆
【孤児院支援】
500億
【農業改革】
100億
【その他】
200兆
(……全部、私が命令していたの?しかも、私のお小遣いから捻出していた?でも、300兆と聞いていたけど、計算が合わないわね。99兆……どこに消えたのよ。それに、その他って何よ。)
リディアは、前の自分が単なる浪費家ではなかったことを知った。
だが――知るのが遅すぎた。
「何て事をしてくれていたのよ。これらを止めると私の好感度がだだ下がりになるから、止めるわけにはいかないじゃない。税率を5%にしてしまったのに、どうやって財源を作るのよ。」
リディアは悩んだ。私益のために国庫の金を動かすことが出来ない。とは言え、国庫を使うと自分のお小遣いで行っていた行為が偽善活動だったと国民に認識させてしまう。それだけは避けなければならない。
「お嬢さま、今年度の国庫収支についてご報告がございます。」
「今はそれどころではありませんわ。300兆ミラを維持する方法を考えているのよ。なので、報告は手短にお願いするわ。」
「その件ですが……今年度の税収、昨年度を大幅に上回る見込みです。」
「……え?」
「減税によって消費が増加し、商業活動が活発化しております。」
「……」
「さらに、これまでお嬢さまが整備された道路・上下水道・市場・農業施設の効果も出てきており、今年度の税収に大きな貢献をする見込みです。」
「…………」
「来年度には、さらなる税収増加も期待できます。」
リディアは頭を抱えた。
(……前の私、何者なのよ。)
「そ……そう、なら良かったわ。気が変わったわ。300兆ほど私に融通してもらえないかしら。」
「……お嬢さま。」
「何かしら?」
「300兆ミラを何にお使いになるおつもりですか?」
「もちろん、今まで通り貧困対策に決まっているでしょう。」
「……それでしたら、国庫から直接予算を組めばよろしいのでは?」
「いいえ。それでは私の善政が国民に伝わらないでしょう。私自身の財産を使って貧困対策をしていたからこそ、国民は私を評価しているのですわ。」
「ですが、お嬢さま。税率5%という減税だけでも、国民にとっては十分すぎるほどの善政かと。」
「……」
「むしろ国庫から正規の予算として支出した方が、持続的な政策になります。」
「……そうね。」
「では――」
「…………その手でいきましょう。早速手続きを始めなさい。」
(何で私、わざわざ自分のお小遣いにしようとしていたのよ!)




