064.始まった検証
「お嬢さま、検証の候補地ですが、如何されますか。」
フェルネはリディアに確認する。
「フェルネは、どうお考えですか。」
「わ……私の考えですか。」
「はい、是非聞かせて下さい。私が先に言うと、誰も答えなくなるでしょう。」
「私なら、二ヶ所で検証します。沿岸部の都市と山間部の都市を選びます。」
フェルネの回答にリディアは頷いて反応する。
「良いと思います。私も、その方が精度が高いと思います。」
フェルネは、リディアの精神が安定してきている事に安堵した。
「具体的に何処が良いでしょうか。」
フェルネがリディアに質問する。だが、リディアは何も答えず、ただ微笑んでいた。
(これは、もしかして試されている……。)
フェルネは一瞬、そんな考えを抱いた。
「コホン。皆の意見を聞きたいです。」
フェルネは周囲に意見を求めた。周りは一瞬ざわめく。そして、一人の文官が意見を出した。
「山間部なら、ウルムが良いのではないか。あそこは港から一番遠い都市だ。」
「いや、遠いだけでは駄目だ。少し規模は劣るが、輸送に難航しているメルスの方が良いのではないか。」
「同じ山間部でも、需要が高い都市の方が良いのではないのか。」
次々と意見が出される。それをリディアは黙って聞いていた。そして、意見が出尽くしたかと思われた頃、リディアが口を開いた。
「皆さん、ご意見をありがとうございます。候補の選定ですが、出していただいた全ての都市の現状を調べます。そして、最も運用効率の良い都市を選びましょう。」
「運用効率の良い都市ですか? それだと、調査結果が弱くなる気もしますが……。」
「効率の悪い都市で試して、逆に悪化すると市民が困ることになりますわ。検証のために市民を犠牲にするわけにはいきません。被害を抑えられ、比較に必要な条件を満たす都市を選びましょう。」
「なるほど……。そこまでお考えでしたか。」
文官たちが、リディアの回答に納得する。
「お嬢さま、まずは現状のデータを収集します。」
フェルネは、即座に返事すると情報を集めるように部下に指示した。
この動きは、シュヴァルツの耳にも届いていた。
「なるほど、沿岸部と山間部の二ヶ所で検証するのか。ふふっ、考えるようになったものだ。だが、どうやって検証精度を高めるのか、楽しみだな。」
シュヴァルツの小言に側近が反応する。
「どういう事ですか。検証なら一ヶ所で十分だと思いますが。」
「お主は考えが浅いな。沿岸部では輸送距離が短く、山間部では長くなる。検証前後を比較して、沿岸部と山間部の両方で同じ傾向が出るのであれば、輸送方法そのものに問題がある可能性が高いと判断出来るだろう。」
「まさか、そこまで見越しての検証だと……。」
「そうだ。だが、この方法には穴がある。全てが同条件では無いということだ。我々にとっても貴重な実験データだ。ヤツは、そこをどう解決するのか見守ってやろうではないか。」
シュヴァルツは口元を吊り上げた。
数ヶ月後——
「お嬢さま、データが集まりました。」
リディアは、集まったデータを調べる。
「うーん、ここは、供給量が少なくて分かりにくいわね。うん……?」
「この都市はどうかしら? 需要が異常に高い魚があるわ。」
「お嬢さま。この魚は天然な上、今の時期しか捕獲されません。変更後のデータを採取する頃には季節が外れています。」
「難しいですわね……。」
「お嬢さま、対象を養殖にすれば如何ですか。養殖なら季節による変動が少なく、供給量もある程度調整できます。」
側近の回答にリディアが反応する。
「では、養殖と天然のデータを分けて集めて下さい。天然のデータも検証に使えるかも知れません。」
こうして、実験前のデータを揃えていった。揃ったデータから、最も運用効率の良い二都市が検証のために選ばれた。
まずは、輸送開始時間を短縮し、代わりに増便してみる。
——沿岸部では、廃棄率が大幅に低下し、破棄分が輸送コストを圧縮する結果となった。
——山間部では、輸送コストの増加により利益が下がる結果となってしまった。
「なるほど、廃棄が減っても、利益も減ってしまうケースがあるわね……。」
リディアは頭を悩ませた。
「お嬢さま、輸送コストを抑える方法を考えましょう。」
フェルネは、リディアに課題を提言する。
「そうね。破棄を減らせば、必然的に利益も確保出来ると思っていたわ。輸送時間を短縮させるのも一つの方法ね。」
「しかし、輸送車の速度が限界なので、根本的に変えないと難しいかも知れません。」
フェルネは、リディアに現実を突きつける。
「輸送車の改良も一つの案ですが、現状で破棄する量を減らせれば、改善される所もあるのではないですか。」
「現状で破棄を減らすですか……。そのような事が出来ますでしょうか。」
「それは、これから考えるのです。フェルネ、あなたもよ。」




