062.追い詰められるフェルネ
「価格面については、輸送コストも考えられます。山間部の方が高く思われますが、臨海部の都市でも高く取引されている傾向があります。」
フェルネは、情報を小出しに提供する。
「ほう。であれば、人口密度の問題もあろう。人がいれば、その分消費も増える。リディア様は、どう思われますかな?」
シュヴァルツは、嫌らしくリディアに質問する。
「その通りだと思います。」
リディアの返事にシュヴァルツは、ニヤリと笑った。
「そうであろう。では、次の問題だ。価格が高いと商人はそちらに流れる。これを改善せねばなるまい。」
「……お待ちください。商人が都市へ魚を流すこと自体は、問題ではないだろう。」
文官の一人が意見する。
「そう、問題ではない。利益を考えると、そうなるのは自然だ。だが、それだと都市部にしか集まらなくなる可能性がある。そうですよね、リディア様?」
シュヴァルツは、またもリディアに確認する。フェルネには、どうする事も出来なかった。
「そうですね……。」
リディアは静かに返事をする。
「文官のあなた、そう言う事だ。」
シュヴァルツは、文官に勝ち誇ったかのような顔を見せる。
(やはり、ヤツは自分で考えることが出来なくなっている。これは好都合だ。)
「では、改善すべきはどこか? 見えてきたのではないか。」
「待って下さい。議長は私です。私を差し置いて進行しないで下さい。これで、二度目ですよ。」
フェルネは再びシュヴァルツに警告する。
「申し訳ない。あまりにも進行が遅いので、私の方で進めてしまった。」
シュヴァルツは詫びの言葉を言うが、本心からでは無かった。
「我々は様々な意見を出して議論する。最終的に、議論の結果からリディア様が決定する。もしかして、この国では違ったのかね。」
(私が議論の結果から、最終的に決定する? 私が一人で抱え込まなくても良かったんだ……。)
その時、リディアの表情が僅かに緩んだ。
(お嬢さまに何らかの変化が起きた。)
フェルネは、リディアの表情を見逃さなかった。そして、改めて進行を進める。
「では、次に改善すべき点を洗い出したいと思います。思い付くままで良いので、挙げていってください。」
フェルネの進行に文官たちは、次々と意見を述べていく。シュヴァルツは、何かを感じたかのように一切発言しなくなった。
「シュヴァルツ様からも意見を伺いたく。」
フェルネは、黙ってしまったシュヴァルツから情報を引き出すべく意見を求める。
「私が意見しても仕方あるまい。ようやく皆が意見を出し始めたのだ。まずは、彼らの話を聞かせてもらおう。」
こうして、文官たちが次々に意見を出し合った。
「漁獲量が減っている。」
「地方へは輸送に時間がかかる。」
「保存設備が不足している。」
等々、シュヴァルツが知らない情報が次々と話し合われた。シュヴァルツは、その度に
「なるほど。」
か
「それは興味深い。」
しか言わなくなっていた。
(……違う。聞いているんじゃない。情報を集めているんだ。)
フェルネは、その意図に気付いた。だが、気付いた時には遅かった。既に文官たちは、自分たちの持つ情報を次々と口にしている。
(しまった……)
フェルネは唇を噛んだ。
(最初から、これが狙いだったのね。)
暫くして、シュヴァルツが議論を遮るかのように挙手をする。フェルネは嫌な予感をさせながらも、シュヴァルツの意見を聞いた。
「まず、最も興味深い『地方への輸送』だが、そんなに時間がかかるのかね。地方という理由だけで時間がかかるとは思えん。」
カッツエの情報を見れば答えはある。フェルネは、答えるべきかどうか悩んだ。
——答えると、シュヴァルツへ更に情報を与える事になる。
——答えなければ、話が進まない。
どちらを選んでも、フェルネにとっては不利であった。
フェルネは暫く悩んだ後、ようやく口を開いた。
「地方への輸送に時間がかかっているのは事実です。但し、それが輸送そのものの問題なのか、それとも別の要因によるものなのかは、まだ調査が必要です。」
フェルネの返答にシュヴァルツの口元が僅かに吊り上がる。
「なるほど。つまり、輸送に問題があること自体は認めるが、根本的な原因はまだ分かっていない、と。事実は認めるが、因果関係は伏せる。中々面白い事をしてくれるではないか。」
シュヴァルツは、それだけ言って再び黙った。
それからも、文官たちは様々な意見を出し合った。しかし、結論が纏まらなかった。その様子を見ていたシュヴァルツは再び挙手した。
「一つ確認したい。地方へ魚を運ぶ際、時間がかかるのは
『魚を運ぶのに時間がかかる』
からなのか、それとも
『魚を運び始めるまでに時間がかかる』
のか、どちらなのか。さすがに、これ位の事であれば調査済みであろう。」
フェルネは答えざるを得なくなったが、情報をシュヴァルツに渡すことになり、回答に困ってしまった。




