061.シュヴァルツとメイドの駆け引き②
客間にて——
「あのメイドは、一体何者だ。あのメイドがいるのは想定外だった。このままでは、平行線だぞ。」
「あのメイドについて、少々心当たりがございます。」
シュヴァルツの連れてきた家来が返事する。
「何? 早く教えろ。」
「はっ。彼女の名は、フェルネ ・ ベルンシュタイン。タリアン王国の商会の娘です。」
「商会の娘? だから、市場については知識があった。しかし、漁業そのものについては専門外だったというわけだな。」
「しかし、それだけでは説明がつきません。」
家来がシュヴァルツの考えに異を唱える。
「それくらい分かっている。専門外であることを理由に黙っていたのか、意図的に情報を伏せたのかだろう……。だが、商人の娘がメイドになるとは何かあったのか。」
「そこまでは把握しておりません。ただ、フェルネは、リディア嬢と幼い頃から親交があったようです。」
「なるほど……。だから、ヤツの精神状態を理解して、ヤツに意見を求めさせないようにしていたのか。それなら、フェルネの弱点は、ヤツを守ろうとすることだ。ならば、ヤツを無視して策を弄することはできまい。今回は後れをとったが、明日は負けんぞ。」
カッツエの部屋では——
「今日は何とか乗り切れましたが、明日も乗り切れるか分かりません。そこで、カッツエさんにご相談したく。」
フェルネは、明日の作戦をカッツエに相談した。
「私は、殿下の性格までしか分かりません。ただ一つ言えるのは、明日は作戦を変えてくるということです。おそらく、リディア様自身の意見を求めてくるかと。その時が問題です。」
「分かりました。ところで、地方ごとの入荷、消費量は把握済でしたわね。」
「あぁ、既に調べ上げていた。だが、殿下には伝えるわけにはいかない。」
「同意です。シュヴァルツ様には、確認が終わっていないと伝えています。カッツエさんは、その情報を基に原因分析をお願いします。明日までにお願い出来ますか。」
「あぁ、手数になる情報は多い方が良い。何とかしよう。」
翌日——
「コホン。では、本日の議題ですが、昨日の漁業革新についての続きです。」
フェルネは、淡々と進行を進める。シュヴァルツは無表情のまま沈黙を続けていた。
「シュヴァルツ様から提言された価格の高騰について議論したいと思います。その後の調査で、都市部では値段が農村部より二倍以上の値段で取引され、都市部に流れていることが分かりました。まずは、この対策について、どう考えるべきか議論しましょう。」
フェルネの進行にシュヴァルツは眉をひそめた。
「質問をよろしいか。」
「どうぞ。」
「具体的な価格も分からなければ、魚種も分からない。それでは、原因を特定することも、対策を立てることも出来まい。昨日よりは情報を出す気になったようだが、随分と中途半端ではないか。」
シュヴァルツの正論に文官たちは一斉に俯いた。ただ一人、フェルネだけが反論した。
「それは、特定の魚種に依存させないためです。魚種を特定しては、特定の魚のみに有効な策となります。ここは、汎用的に考えるべきかと思いますが。」
「……なるほど。そういうお考えですか。しかし、それでは具体性に欠ける。」
「今は原因を探る段階です。問題は無いでしょう。」
「では、リディア様はどう考えか意見を聞きたい。」
シュヴァルツは、リディアに質問をする。急に振られたリディアは戸惑った。
「えっ、えぇ……そうですわね。問題ないと思います。」
「何が問題ないのでしょうか。」
「…………。」
「なるほど。つまり、お考えがまとまっていないということですな。」
シュヴァルツの口元が、わずかに吊り上がる。そこへ、フェルネが割って入った。
「リディア様は、私の考えに同意なさったのです。このまま議論を進めたいと思います。」
「何方か分からぬが、メイドさん。本人の口から、何が問題ないのか答えられておりませんぞ。」
フェルネは、何も出来なかった。暫く沈黙が続き、リディアが、口を開く。
「このまま進めて下さい。」
そう言うのが、やっとのように聞こえた。
「脱線させて申し訳ない。では、議論を続けよう。」
シュヴァルツは、フェルネより先に議論の進行をさせた。
「そこの文官に聞く。都市部が農村部より二倍以上の値段で取引されている原因は何だと考える。」
「それは……需要があるからでは無いでしょうか。」
指名された文官は、当たり障りのない回答で逃げる。だが、シュヴァルツは更に質問を続けた。
「本当に需要があったのだろうか。無駄に破棄されている可能性もありますぞ。」
「私が議長です。私を差し置いて進行を進めないで下さい。」
フェルネは、シュヴァルツに警告する。
「これは申し訳ない。意見を述べるのが特定の人物になっていたので、広く意見を求めたまでだ。悪気はない。」
フェルネは、シュヴァルツを睨みつけるが、シュヴァルツは勝ち誇ったかのような表情を見せた。




