060.シュヴァルツとメイドの駆け引き①
数日後、ヴァイスから数人の部下を引き連れて、シュヴァルツがタリアン王国を訪問した。そこへ、一人のメイドがシュヴァルツの相手をした。
「ほう。久々に来たが、相変わらず市場は賑わっているな。」
シュヴァルツが感心したように呟くと、メイドは間髪入れずに答えた。
「はい。混乱も落ち着いており、前より活発に取引が行われております。」
「それは結構なことだ。では、漁業の方はどうなっている?」
「……実は、少々問題がございます。」
メイドはそう答えると、漁業の現状を説明した。
漁場では捕獲数が減少しており、需給バランスが崩れていた。そのため、漁業関係者は外国産を仕入れるべきか、養殖で供給量を増やすかで悩んでいた。
「はははっ、買うか増やすかの二択ということですか。」
シュヴァルツは笑った。そして、メイドに質問をする。
「あなたは、どう考える?」
「私は関係者ではありませんので、このような問題には分かりかねます。」
メイドは、あえて自分の意見を言わなかった。
「なら、なぜ二つの案しか無いのだろうか。考えれば、もっとありそうに思わないか。」
メイドは一瞬、答えに詰まった。
――危険だ。
自分の考えを話せば、それを基にシュヴァルツが動く可能性がある。
ならば、ここで余計な情報を与えるわけにはいかない。
「私のようなメイドに、意見を求めるのは如何なものかと思います。政策に関しては、専門家に聞くのが筋でしょう。」
「なるほど。随分と口の堅いメイドだな。」
シュヴァルツはそれ以上、何も言えなくなった。
メイドは、シュヴァルツを王城の会議室に通すと、文官が列を成していた。
「シュヴァルツ様、こちらのお席にどうぞ。」
「では、失礼いたす。」
シュヴァルツはメイドの指定された席へ座る。
「お久しぶりですわね。シュヴァルツ殿下。」
リディアは対面の席で挨拶する。その声は、どことなくひ弱い。その声を聞いて、シュヴァルツの表情が少し緩んだ。
「まさか、承諾してくれるとは思わなかったぞ。だが、承諾いただいた以上、成果を出させていただく。」
「それは、大変光栄ですわ。」
リディアは、それ以上話を続けることをしなかった。代わりにメイドが進行する。
「コホン。では、本日の議題ですが、漁業革新についてです。」
「ほう。早速本題というわけですか。考える時間を与えてくれないというのですか。」
「シュヴァルツ様ほどのお方なら、現場を見ると即座に原因を見付けていただいた事でしょう。それとも、原因の特定が難しかったのでしょうか。」
「む……。確かに、私ほどの者なら原因など直ぐに突き止められるだろう。」
「では、お答えいただきましょう。」
メイドは、シュヴァルツに意見を急かした。
「…………なるほど。」
シュヴァルツは腕を組み、暫く黙り込んだ。
「随分と面白いことをするではないか。」
「何のことでしょう。」
「私に考える時間を与えず、即答を迫る。私がどこまで現状を把握しているのか、確認したいというわけか。」
メイドは表情を変えなかった。
「私は、シュヴァルツ様のお力を信頼しているだけです。」
「ふふっ……そういうことにしておこう。」
シュヴァルツは、暫く黙った後、口を開いた。
「では、お答えいたそう。地方ごとに需給バランスの確認は終わっているのか。必要な所に必要な量、不要な所に余らせていないのか。まずは、そこを確認したい。」
メイドは、シュヴァルツの質問に対して、逆質問で畳み掛ける。
「いえ、確認はまだ終わっていません。ですが、シュヴァルツ様であれば、想定しているケースもございましょう。それについて、確認させていただきたい。」
メイドの逆質問に、シュヴァルツは眉をひそめた。
「ふふっ、そちらの情報は徹底的に隠すつもりか。まぁ、良いだろう。付き合ってやる。まず、第一に考えられるのは、価格の高騰だ。より高く売れるのであれば、自然とそこに流れる。だが、あくまで想定だ。現状の情報がないので断定はできん。」
シュヴァルツの回答にメイドは、ニコッと笑って返事する。
「ありがとうございます。現状をお教え出来ていないので、想定の範囲内で結構です。他にも思われている事があるのでしょう。是非、お聞かせいただきたいのですが。」
「ならん。これだと、私が一方的に提言しているだけではないか。」
シュヴァルツの返事に、メイドは申し訳なさそうに答える。
「申し訳ございません。私どもは、買うか増やすかの二択しか出せておりません。なので、シュヴァルツ様に色々と意見を出していただきたいのです。」
「…………私にどうしろというのだ。」
「簡単なことでございます。二択しか出せなかった事を笑っておられました。ならば、複数の対策をお持ちでございましょう。それをご教授いただければ十分です。」
「むむっ……であれば、明日までお時間をいただこう。」
「分かりました。では、今日の会議はここまでとします。」
(このメイドを自由にさせると厄介な存在だ。)
シュヴァルツは、メイドを睨むと即座に出て行った。
(シュヴァルツ様に明日も同じ作戦が通じるとは思えない。)
メイドは、シュヴァルツを相手にどう戦うべきか密かに悩んでいた。




