058.シュヴァルツの案と悩むリディア
タリアン王国では、シュヴァルツの提案に乗るか、乗らないかを議論していた。
「ここは、シュヴァルツ殿の支援を受け、早期解決を図るべきだ。」
一人の文官が意見をすると別の文官が反対する。
「自国の政策で、他国の意見を聞くのは前代未聞だ。ここは、リディア様が立ち直るのを待つ。」
「いや。それだと、いつまで待てば良いか分からん。その間にも、国民は不平不満が溜まっていくぞ。」
反対意見が出ると、それに対しての反対意見が出るため、議論が一向に進まなかった。そして、痺れを切らしたメイドが口を開く。
「ここは、シュヴァルツ殿の意見を聞くのもアリだと思います。但し、採用するか否かは別問題です。今のリディア様には、一つでも多くの意見を聞かせるのが得策かと存じます。」
「しかし、シュヴァルツ殿の意見を聞くと、関与したことを世間に公表しなければならないのでは。」
文官の疑問にメイドは、無表情で答える。
「条件をつけて受入れれば、よろしいかと。例えば、公表する条件として、シュヴァルツ殿の意見を採用した場合に限るとか。少なくとも、こちらが勝手にシュヴァルツ殿の意見を自分たちの手柄にするのでなければ、問題にはならないでしょう。」
「なるほど。であれば、シュヴァルツ殿の意見は参考程度と言うことですか。」
こうして、シュヴァルツの意見を聞くこと自体に、反対する者はいなくなった。但し、それを採用するかどうかは別問題である。誰もが、そのことだけは理解していた。
数時間後——
「リディア様、お気分はいかがでしょうか。」
メイドは、リディアの気分を伺う。だが、聞かなくても答えは分かっていた。
「あまり良くないわ。少しでも政策のことを考えると眩暈がします。」
「あまりお気になさらずに。過ぎたものは取り返しがつきません。この先で取り返せば、よろしいではございませんか。」
「ありがとう。少しは気持ちが和らいだわ。」
「ところで、ご相談なのですが、先日のシュヴァルツ殿の提案について、私どもの意見を纏めて参りましたので、ご報告にあがりました。」
「聞かせてちょうだい。」
「はい。私どもは、シュヴァルツ殿の意見を条件付きで聞くことで、一致しました。」
「その条件は?」
「シュヴァルツ殿が関与したことを公表する条件として、シュヴァルツ殿の意見を採用した場合に限らせてもらいます。つまり、採用しなければ公表する必要はないという事です。」
「それなら……聞いてみたいかも。」
「ですが、リディア様。シュヴァルツ殿のことです。これでも裏があると思われます。」
数日後——
「殿下、リディア嬢から使者が参りました。如何いたしますか。」
「丁重に迎え入れろ。粗相のないようにいたせ。」
「はっ、かしこまりました。」
こうして使者はシュヴァルツのもとへ案内された。
「シュヴァルツ様、今日はリディアの使者として参りました。」
「堅苦しい口上は要らん。用件だけ申せ。」
「はい。先日のご提案ですが、シュヴァルツ様の意見を条件付きでお伺いしたいとのことです。」
使者の返答にシュヴァルツの口元が吊り上がる。
「そうか、私の意見を聞いてくれるとは思わなかったぞ。それで、条件は何だ?」
「条件ですが、世間に公表するのは、シュヴァルツ様の意見を採用した場合に限らせていただきたい。」
「なるほど……。私の意見が採用されなければ、関与していないも同じというわけですか。ならば、意見交換はタリアン王国で行うのが筋であろうな。」
「私は使者であります故、個別に返答は出来かねます。」
「そうだったな。私がタリアン王国へ赴き、直接意見を述べる。その方が話は早いだろう。もちろん、支援策を検討する以上、現地の市場を確認させていただく。それを条件として認めてもらおう。」
「分かりました。リディアに伝えます。その返事は後日とさせていただきます。」
「良い結果を期待しております。」
その日の夜——
「殿下、使者の話ですと殿下の策を聞くだけで、こちらには何の得も無いです。なぜ、お受けになったのです。」
側近の質問にシュヴァルツは、笑った。
「ふふっ、だから条件をつけた。」
「条件……ですか?」
「支援策という名目で、市場調査を合法的に行えるように申し入れた。また、私が直接赴く事で、国民には何かしらの関与をしていると見せることも出来る。」
「それだけで、タリアン国民の支持を得られるのでしょうか。」
「支持を得る必要はない。今の状況で、私が赴けば、『ヴァイスはタリアンを助けようとしている』と国民に思わせることが出来る。今回はそれだけでも十分だ。」
「……なるほど。将来的に、タリアン国内でヴァイスへの反感が生まれにくくなる、と。」
「そういうことだ。」




