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054.買取制度の弱点

ある日のタリアン王国——

「買取を希望する者は順番に並べ。タリアン産の農作物と確認できれば、買取する。」

在庫を抱えた商人は、一斉に列をなした。その中にはヴァイスの商人から買取した者も混じっていた。ヴァイスの商人はタリアンの商人にマージンを残しているため、政府の買取場へ行くだけで利益が出る。それならと、タリアンの商人たちも喜んで農作物をヴァイスの商人から仕入れていた。


「今日も多いな。いくら救済措置とはいえ、これだけの物を抱えると問題になりそうだぞ。」

役人は、在庫がどんどん増えていくことに危機感を抱き始めていた。


数ヶ月後——

「お嬢さま、大変です。救済措置で買取した農作物が多すぎて倉庫に収まらなくなってきております。」

側近は、大慌てで報告する。

「安価でも売れないし、困りましたわね。」

リディアは側近の報告に頭を悩ませた。

「需給バランスが崩れているのが原因でしょうけど、他にも原因はありそうですね。調べてみる必要がありますわ。」

そして、リディアは原因追及を行うことにした。


「お嬢さま、原因が分かりました。この固定買取制度に問題があります。」

側近の報告にリディアは驚いた。

「何故ですか? 農家や商人の負担を減らしている行為のどこがダメなのですか?」

「それが……。市場では売れない農作物を、政府が固定価格で買い取るため、商人にとっては『安く仕入れて政府へ売る』だけで利益が出てしまうのです。なので、取引先が私どもに切り替わっているのです。」

「という事は、制度を悪用しているということですか?」

「いえ……合法な取引なので、悪用とはいえません。私どもが価格を固定買取にした事が原因です。」

「つまり……農家を救うための制度が、農作物を市場ではなく政府へ流す仕組みになってしまったのですね。」

「はい……。」

「でも、制度を止めると暴落、続けると今の状況が続くことになる。困りましたわね。」

「はい。完全に八方塞がりです。」

暫くリディアは考え込んだが、一つの決断をした。

「決めましたわ。制度はこのまま継続して下さい。そして、買い取った物は決して市場に戻さないように。」

「倉庫が一杯になっているのに、どうするおつもりですか。」

「仮置き場として、未使用の空き倉庫を転用して下さい。」

リディアの指示に側近が反応する。

「どういうおつもりですか。」

「タリアン産の農作物が市場に溢れているから、売れないのです。市場に出回る量を減らせば、供給過剰は解消されますわ。そうなれば、売値も徐々に買取価格へ近付くはずです。」


その頃のヴァイスでは——

「殿下、タリアン産の農作物の取引価格が上がってきております。」

「ほう、どうやらヤツが何か手を打ってきたと見える。」

シュヴァルツは、ニヤリと笑った。

「それが……リディア嬢は買い取った物を市場に戻さないことで適正価格に戻そうとしているようです。」

「なるほど……。では、次の策に打って出るとしよう。」

「策というのは……?」

「ヴァイスからは買取を撤退する。」

シュヴァルツの撤退発言に側近は質問をする。

「何故ですか? ギリギリまで搾り取れば良いではありませんか。懐が痛むのは我らではなく、商人なのですぞ。」

「だからこそなのだ。使えないと思われると、奴らは見切る。そうなると、駒として機能しなくなる。私に従うことで利益が出ると分かれば、次回以降は喜んで駒となる。」

「ですが……。」

「黙れ。撤退した後は、『タリアン政府は農作物を異常な高値で買い支えている。だが、国庫が限界に近づいており、近いうちに制度を打ち切るらしい』と噂を流せ。」

「噂を……ですか?」

「そうだ。政府の買い支えが終わると思えば、商人たちは我先にと売り始める。売りに出された農作物を買い支えれば、政府の在庫が一気に積み上がる。そうしてヤツの在庫が限界まで膨れ上がったところで、次の策に打って出る。」


数日後——

タリアン王国の買取支援が終わるという噂が瞬く間に広まっていき、商人は不安を覚え始めていた。

『政府が買わなければ利益が出ない。』

そう考える商人が後を絶たなかった。そのため、タリアン政府の買取場では、普段より倍以上の商人が列をなしていた。

「買取支援が終了するとは、発表されていない。なので、冷静な対応をお願いしたい。」

役人は、少しでも買取量を減らそうと奮起していた。

「それなら、買取終了の噂なんか出ないだろ。『火のない所に煙は立たぬ』だぞ。」

一人の商人が言うと、同調するかのように他の商人も言いだす。

「もしかして、私らの損失を狙っているのか。国が補償しなくて誰が補償するというのだ。」

「いや、そう言うわけではない。だが、政府の在庫が許容オーバーになってきているのだ。」

役人は慌てて弁明する。だが、その弁明により、噂が本当だということの証明と捉えられだした。

「やはり、本当の話だ。在庫に収まらなくなったら買取を止める気だろう。」

「買取中止の発表はされていない。ただの噂だから惑わされるな。」

役人は必死に事態を収束させようとするが、逆に火に油を注ぐ結果となった。

「近いうちに買取中止の発表をするのだろう。私は買取されるうちに全て売り払う。在庫を抱える方がリスクが高い。」

一人の商人の返事に他の商人も同調した。

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