052.農業改革始動
ある日のヴァイスでは——
「殿下、タリアン王国で農業改革と称し、何やら始めたようです。」
側近の報告にシュヴァルツは冷静に返事する。
「ふん、ヤツのやる事など放っておけ。」
「しかし、例のアーツを使った農業改革とのこと。きっと、我が国でも使えるのではないかと。」
「どんなシステムなのだ?」
「それが、全自動で農作物を作るシステムとのことです。実現すれば脅威になるのではないかと。」
側近は危機感を訴えるが、シュヴァルツには響かない。
「そうか……。なら、何もする必要はない。」
「どういう事でしょうか? 我が国にも導入して食糧需給率を安定化させるべきではないのですか?」
「だから、何もするな。農作物が市場に出回りだしたら、直ぐに報告しろ。」
シュヴァルツは、機能停止したアーツを見ながらニヤリと笑った。
「さて……どうなるか、見せてもらおうか。」
数ヶ月後——
「殿下、タリアン王国の米、小麦の生産量が上がって昨年より安く売られているようです。そのため、輸出も盛んに行われているようです。」
その報告を聞いたシュヴァルツは、口元を僅かに吊り上げた。
「……そうか。なら、実行に移す。」
「何をするつもりですか。」
シュヴァルツは即座に命令を下した。
「ありったけの農作物を買い占めろ。他国より高く取引しても構わん。」
「それだと、リディア嬢の思惑通りではないですか。それに、我が国が不良在庫を抱える恐れがあります。」
「構わん。言われた通りに実行しろ。」
こうして、タリアン王国の農作物は、日を追うごとに値を上げていった。
数日後——
タリアン王国の商人は若干の違和感を覚えていた。
「また値上がりしたのか?」
「あぁ、うちにとっては有難い話だが、昨年より供給量が多いのに高騰するのは流石におかしくないか?」
「それは、俺も思っていた。だが、生産量が上がって消費も増えたんだろう。今のうちに商品を仕入れておいた方がいい。」
「そうだな。」
市場では、そんな声が飛び交うようになっていった。
リディアの執務室では——
「リディア様、我が国の農作物が飛ぶように売れています。そのため、農家からはリディア様への感謝の声が上がっているそうです。」
「そうですか。それは大変光栄ですわ。しかし、需要が高いのは不自然ではないかしら?」
「安定供給しているのです。買い占めをするメリットがありません。原因は、元の収穫が需要を下回っていたのでは無いでしょうか。」
「そうですわね。来年はもっと需要が伸びることを期待しますわ。」
リディアは需給バランスに違和感を感じたが、買い占めをするメリットが無いことから気にしないようにした。
だが、この違和感を作っている張本人は、シュヴァルツであることをその時は誰も気づいていなかった。
数ヶ月後——
「殿下、タリアン王国の農作物が過去最高値をつけたようです。まだまだ上がる見込みです。」
「よし、買い占めた農作物を一気に売り払え。出し惜しみはするな。」
「分かりました。」
こうして、買い占められた農作物は一気に市場に流れた。
「お嬢さま、大変です。我が国の農作物が大変な暴落を起こしています。」
側近は慌てふためいて、リディアに報告する。
「どういう状況なのかしら。ちゃんと説明してちょうだい。」
「はっ。それが、突然、大量の農作物が市場に流れ込んできたのです。その結果、供給が需要を大きく上回り、価格が一気に暴落しています。」
「……大量の農作物が?」
リディアは眉をひそめた。
「誰かが買い占めをしていたと思われます。」
「一体誰が……。私たちは、マネーゲームの駒にされたということですわね。」
「大手の商人か、国家が絡んでいるのではないかと……。」
側近の返事にリディアは考え込む。
「国家がわざわざ、このようなことをするとは考えにくいですわ。きっと、大手の商人が目先の利益のためにやったのでしょう。問題は、どうやって商人を炙り出すかですが……。」
その頃のヴァイスでは——
「殿下、タリアン王国の農作物を売り払い、価格が暴落し始めました。売り逃げで利益もかなり出ています。」
側近の報告にシュヴァルツは眉をひそめる。
「売り逃げだと……。売り逃げとは言葉が悪いぞ。我々は不要な農作物を適正価格で売り払っただけだ。たまたま多すぎたから値下がりしただけだろう。」
「そ……そうでした。我々は適正価格で買い取ってもらっただけです。大変申し訳ございません。」
「まぁ、いいだろう。今は気分が良いので特別に許してやる。それより次の作戦に移るぞ。需給バランスを崩した今がチャンスだ。」
「次の作戦とは……?」
「この作戦は露呈すると終わりだ。口の堅い商人を出来るだけ集めろ。作戦はその後だ。情報が漏れた場合は……分かっているな?」




