049.漁業改革
あれから数時間後——
「あなた、いつまでそこに座っているつもりですか?」
リディアは不思議そうに側近に確認する。
「はぁ。お嬢さまのご命令で、ここで反省しておりました。」
「で、反省の成果はあったのかしら。」
「いえ、何も……。」
側近は素直に答える。それに対し、リディアは大笑いした。
「素直で良いことですわ。あなたのお陰で、漁業改革のヒントを思い付きましたわ。反省は終わりにして、明日の朝に皆さんをここへ呼んできてください。」
「はい……。分かりました。」
側近は、明日は地獄だと思いながら、部屋を後にした。
翌日——
側近たちは一堂に集められ、また長い講演会が始まるのかとうんざりしていた。
「今日は、宿題となっていた漁業改革についてお話します。」
「宿題ですか……。誰も宿題にしていなかったと思うのですが。」
側近の1人が口にする。
「あら、そこの方が先日申されましたわよ。」
リディアは、ちらっと反省させていた側近に目をやる。目をやられた側近は、慌てて目を逸らした。
「今度は、天然と養殖のハイブリッドです。資源そのものを作ることは難しいので、天然資源を増やす方向にします。」
「ハイブリッドですか。具体的にはどういう……?」
側近の質問に、リディアは嬉しそうに目を輝かせる。
『あっ、これはまた面倒なやつだ。』
側近たちはそう思ったが、後の祭りだった。
「養殖した魚を川や海に放流して、天然資源として増やすのですわ。但し、闇雲に放流すると食物連鎖を崩す恐れがあります。そこで、このシステムの出番なのです。」
「はあ……。」
側近たちはリディアが何を言いたいのか想像できたが、リディアの暴走を止めることは出来ない。そのため、大人しく聞いておくことにした。
「餌になる分、食料として捕獲する分、そして将来の資源として残す分まで、システムが自動計算して放流します。漁師はそれを捕獲してもらうだけです。」
「これだと、漁師が乱獲する恐れがないでしょうか。海だと他国の者が荒らす恐れもあります。」
「乱獲すると価格暴落に繋がるので、無茶はしないでしょう。まぁ、荒らされたとしても、資源は保てますわ。」
「……なぜですか?」
「まずは国内の河川や湖、それと領海内に限定しますので、他国が荒らすことも無いでしょう。」
「しかし、目先の利益を優先して乱獲する者も現れると考えます。」
「では、天然資源が極端に減った場合は、漁獲量制限と養殖場のみの運営にしますわ。」
「それだと、健全な漁師が困るのでは?」
「えぇ、困るでしょうね。ですが、牽制をかけておかないと好き放題されますわよ。」
「もう1つ質問よろしいですか。」
側近の1人が口にする。
「えぇ、どうぞ。」
「魚を放流する場所も、システムが自動で判断するということでしょうか。」
側近の質問に、リディアは嬉しそうに頷いた。
「そうです。季節、水温、生息状況に応じて放流する量も場所も変えます。」
「それだと、養殖した魚を放流先まで、どうやって運ぶのですか。必要な量を各養殖場で維持するのは難しいでしょう。」
「…………。」
「そこまで考えていませんでしたわ。新しい課題が発生しましたわね。これは、あなたの宿題にしますわ。」
「……え?」
側近は思わず声を漏らした。
「では、よろしくお願いしますわ。」
「いや、待ってください。私は問題点を指摘しただけですよ。」
「問題点が分かるなら、それに対する解決策も考えられるでしょう。期待していますわ。」
「お嬢さま、それは無茶というものです。皆で考えようということはないのですか?」
側近の返事にリディアはクスッと笑った。
「えぇ、皆で考えますわよ。その前に案がないと、何も始まりませんわよ。」
数ヶ月後——
「お嬢さま、無理です。どうしても、輸送に限界があります。」
側近はリディアに泣きついた。それを見たリディアは側近に確認する。
「どこまで考えたのですか?」
「荷車だと近隣の養殖場には運べます。ですが、離れると日数が掛かってしまうため、魚が弱ってしまいます。飛行艇という手もありますが、離着陸できる場所が限られる上に、膨大なコストが掛かります。」
「では、どちらかを解決できればよろしいのでは?」
リディアは笑みを浮かべながら答える。
「それができれば、苦労しません。解決策がないから困っているんです。」
「では、中央養殖場で全体を管理しておき、計画的に必要な分を各養殖場へ運んでおきます。これだと通常時は問題ありませんわね。」
「はい。」
「そして、問題は計画外になった時です。この場合は、近くの養殖場から融通します。その際、魚を休眠状態にさせて運ぶのはどうですか?」
「休眠状態ですか?」
「えぇ。魚を眠らせた状態にして輸送するのですわ。そうすれば、長距離輸送でも魚への負担を減らせるのではありませんか?」
「そんなことが可能なのでしょうか。」
「…………。」
リディアは珍しく黙り込んだ。
「それは、今から考えるのです。」




