048.農業改革
ある日のタリアン王国——
「今日は、新しい議題を検討しますわよ。」
「今度は何を検討するつもりですか?」
リディアの思いつきに、側近が嫌な顔で返事する。
「あら、皆さん嫌な顔をされてますね。はい、皆さん?スマイルですわよ。スマイル、スマイル。」
リディアの思いつきで行う政策は、大規模なものになるか、とんでもない事態を引き起こすことが多い。そのため、側近は警戒していた。
「では、今日は食料問題を解決しましょう。」
リディアの提案に側近は驚いた様子で返事する。
「食料問題の解決ですか?解決方法についての検討ではなくて、解決させるのですね。」
「もう、私の方である程度案がありますの。」
側近は『またか』と言わんばかりの表情で、リディアに確認する。
「今度は、どんな案でしょうか。」
リディアは、待ってましたと言わんばかりにとある物を見せた。
「これです。農業支援システム、名付けて農シです。」
「お嬢さま。名前は、もう少し考えた方がよろしいかと。これだと『脳死』と捉えてしまうこともできます。」
「あら、そうですわね。では、農シスでどうかしら?」
「止めてください! それでは『脳死する』と聞こえます!」
「略した方が愛着がわきそうと思ったのですが……。何方か、格好いい略称を考えてくれないかしら。」
リディアの投げかけに側近はみな俯いた。まるで、指名してくれるなという態度にリディアは、ちょっとした安堵感を覚えた。
「皆さん、考えるのは難しそうですわね。そのまま農業支援システムと名付けます。」
そして、リディアは誰か質問しろと言わんばかりに、周りをチラチラ見てはニコッと笑う。
「それで、この農シス……ではなく、農業支援システムは、何ができるのですか?」
側近の質問にリディアは『よくぞ聞いてくれました』と言わんばかりにニヤニヤする。その顔を見て、側近は地雷を踏んでしまったと後悔した。こういう時のリディアは話が長くなる。それに気付いた時には後の祭りだ。
「今回は、単なる支援システムですわ。植えた作物に応じて、土壌に必要な肥料や水の量を判断し、温度管理まで自動で行います。それから……。」
リディアの説明が延々と続いた後、側近はやっと質問する時間を得た。
「これ、全て自動でやるのですか?」
「もちろんですわ。でないと、支援システムとは言えませんからね。」
リディアの返事に側近は、素朴な質問をする。
「……人間は何をするのですか?」
「収穫だけになりますわね。」
「…………。」
「あっ、収穫した作物を食べる事もありましたわ。」
「それだと、農家の仕事がほとんど無くなっているのですが。」
「仕事が無くなれば、ハッピーではないですか。」
「いえ、農家には農家の仕事が無いと、職を失う者を増やすことになります。」
リディアは、側近の返事にふて腐れる。
「では、このシステムは不要ということですか?」
「いえ、そういう意味ではありません。ある程度の仕事を残すべきかという事です。」
「あら、でしたら、食べるという事が残っていますわよ。」
「そういう事ではありません。」
「まぁ、品種改良までは出来ませんから、より美味しく、収穫量の多い品種を作ってもらうのは農家にお任せにしましょう。」
側近は自動化による懸念をリディアに提示する。
「しかし、お嬢さま。自動化によって、農作物の価格が大幅に下がるのではありませんか?」
「ええ。食料問題を解決するのですから、当然ですわ。」
リディアの返事に周囲がざわつく。
「当然と仰いますが、価格の暴落は社会問題になります。」
「安定供給によって価格が下がっても、農家の利益まで減るとは限りませんわよ。」
「そうでしょうか。」
「このシステムは無償提供します。つまり、運用コストはゼロです。その代わり、国家の備蓄分や支援分、それに余剰食糧は、国が少しお安く買い取りますけどね。」
「また無償提供ですか……。それに、なぜ買取をするのですか?」
「農家の収入維持のためです。買取した食料はボランティアや支援活動に使います。目的が分かれば、農家も売ってくれるでしょう。」
「無償提供で生産コストがほとんど掛からない上に、国が買い取ってくれるのですからね。売らない理由はないでしょう。」
「そうでしょう。これで、食料問題は万事解決ですわね。」
リディアは大喜びだったが、側近の余計な一言がリディアの改革魂に火をつけた。
「でも、食料問題は農業だけではありません。漁業、畜産はいかがなさいますか?」
「…………。」
リディアは暫く黙り込むと、思考を巡らせるかのように、部屋の中を歩き始めた。
そして、
「あなた、そこに座って反省していなさい。」
リディアは、余計な一言を言った側近に対して命令した。




