045.アーツ防衛システムの解析
シュヴァルツは、弱小国に圧力をかける事でアーツ防衛システムを入手し、技術者に解析を急がせた。
「ほう。これが、アーツ防衛システムか。探知、分析、迎撃の3つに分け、それぞれを独立させている。これならば、大幅な変更が生じても他の機能に影響が小さい。考えたものだな。」
技術者の関心は、これだけでは終わらなかった。
「この回路は何だ?アーツの魔力を増幅させる回路のようだが、仕組みが分からん。」
技術者の1人が、基板を覗き込みながら首を傾げる。そして、別の技術者が回路の入口と出口の魔力値を測る。
「本当に魔力が増幅しているぞ。」
「本当だ。入力された魔力よりも、出力される魔力の方が多い。」
「そんな馬鹿な。魔力は増幅出来ても、元の魔力以上にはならないはずだ。」
「……ならば、どこから魔力を持ってきている?」
技術者たちは一斉に黙り込んだ。
「周囲の魔力を集めているのでは?」
「それなら説明はつく。だが、この回路には周囲から魔力を取り込むための機構がない。」
「では、別の場所から供給されている?」
「それもない。外部との接続は電源系統だけだ。」
「…………。」
技術者たちは、再び回路を見つめる。
「一体、どうなっているんだ?」
1人の技術者が頭を抱えた。
「この装置はアーツの魔力を消費しているはずなのに、魔力の供給源が見つからない。」
「もしかして、自己発電か?」
「あり得ん。そんな技術が存在するなら、魔導研究の歴史がひっくり返るぞ。」
室内に沈黙が続く。やがて、最も年長の技術者が呟いた。
「……リディア嬢は、一体何を作ったんだ?」
そして、この結果は、シュヴァルツの耳に入ることになる。
報告を受けたシュヴァルツは、腕を組んだ。
「つまり、まだ仕組みが分からないのだな?」
「はい。しかし、探知、分析、迎撃を独立させた設計思想は非常に合理的です。万が一、不都合が生じても影響範囲を限定できますし、将来的な拡張も容易でしょう。」
「なるほど。」
シュヴァルツは満足そうに頷く。
「そして、何よりも分からないのが、自己発電です。」
「このアーツから、微弱な魔力を消費しております。ただ……。」
「何だ?言ってみろ。」
「この回路で魔力が大幅に増強しているのです。そして、消費した分の魔力を元のアーツへ返しているため、魔力消費が実質ゼロになっています。」
技術者の回答にシュヴァルツは驚きを隠せなかった。
「何だと?そんな事が出来るはずがない。何かの間違いであろう。」
「我々も初めはそう考えました。ですが、回路に流れる魔力値を検証すると、認めざるを得ません。」
技術者は、シュヴァルツに計測結果の資料を渡した。
「ふむ、確かにこれだと認めざるを得ないな。だが、この技術を我々がもらえば済むことだ。この仕組みは他でも使える。」
「それが……、中身は精密すぎて、我々では解析できませんでした。」
「それを何とか解析するのが、お前たちの仕事だろう。」
シュヴァルツの激怒に技術者たちは慌てて弁明する。
「確かに我々は、技術力に関しては、他国に引けをとらないと自負しております。ですが、これは異次元の世界です。」
「異次元だと?」
シュヴァルツが眉をひそめる。
「はい。我々がこれまで研究してきた魔導技術とは、根本的に考え方が違います。」
「それでは分からん。具体的に説明しろ。」
技術者は、手元の資料を広げた。
「まず、この魔力増幅回路です。我々が知る増幅器は、外部から供給された魔力を利用して出力を増やします。当然、増幅した分だけ別の魔力源が必要になります。」
「それが、この装置にはないということか。」
「はい。」
技術者は頷いた。
「この装置では、入力された魔力よりも出力された魔力の方が多い。ですが、外部から新たな魔力が供給された形跡がありません。」
「ならば、魔力そのものを生み出しているのではないか?」
「我々も最初は、そう考えました。」
「もしかして、違うのか?」
「分かりません。」
「……何?」
シュヴァルツの眉間に皺が寄る。
「魔力が生み出されているように見えるのですが、魔力を生成する仕組みが見つからないのです。」
「では、どうやって増幅している?」
「それが分からないのです。」
技術者は、別の資料を取り出した。
「さらに奇妙なことがあります。」
「まだあるのか?」
「はい。魔力を増幅した後、余剰分を元のアーツへ戻しています。」
「つまり、消費した魔力を返しているわけか。」
「正確には、それ以上です。」
「何?」
「一度の処理で消費した魔力と、戻された魔力を比較しました。すると、面白いことに、僅かですが戻された魔力の方が多いのです。」
「…………。」
シュヴァルツの顔から笑みが消えた。
「では……使えば使うほど、魔力が増えるのか?」
「理論上は、そうなります。」
「理論上?」
「どうも安全装置が働いているらしく、一定以上には増えません。しかし、その制御方法すら我々には理解できません。」
シュヴァルツは、目の前の基板を見つめた。
たった一枚の基板。
それが、数十億ミラもの研究費を投じてきたヴァイスの技術者たちですら理解できない。
「……これを、ヤツは一人で作ったのか?」
「それは分かりません。」
「ならば、タリアン王国にはヤツの他にもこういった技術者がいるのだな。」
「恐らく……。ですが、回路を真似ることは出来ます。しかし、同じ結果が出るかは未知数です。」
技術者の返事を聞いて、シュヴァルツは大笑いした。
「この回路を真似できるのであれば未知数でも良い。これを真似て我が国を魔導革命するのだ。」




