044.シュヴァルツの激怒
数ヶ月後のヴァイス——
「ご報告します。マジック・アーツ感知システムは売れずに引き揚げてきたとのことです。」
側近の報告にシュヴァルツは激怒する。
「何だと、マジック・アーツ感知システムが売れずに帰ってきただと。本当にやり手の商人に任せたのだろうな?売れなくても売り付けるのが、商人だぞ。」
「何やら、今回もリディア嬢が絡んでいるそうです。我がマジック・アーツ感知システムと似たシステムを無償提供していたとか……。」
「何?無償提供だと。開発に我々が何十億と費やしてきたのに、ヤツは無償で他国に提供していたというのか。」
「はい。商人の話によると、素晴らしいシステムだそうです。これを餌に他の商品を買わせる自信があるとか……。」
「…………。」
「どうかされましたか?」
「そんなに素晴らしいのか?」
「はい。アーツの交換が不要で、交換費用が発生しないとのことです。」
「アーツはシステムを稼働させるためにも必要となる消耗品だ。それが不要とはどういう事だ。」
「現物がないので分かりませんが、何らかの方法で魔力を作成していると思われます……。」
「ふむ……。」
「システムは、大きく3つに分けており、探知、分析、迎撃を柱にしているようで、全て自動とのことです。」
「何だと?迎撃まで自動で行うのか。」
「はい。迎撃にもパターンがあるそうです。こちらに商人が纏めた報告書があります。」
側近は商人が作成した報告書をシュヴァルツへ渡す。シュヴァルツは何かに囚われたかのように報告書を一心に見た。
「ふむ、迎撃方法にも種類がある。不発化、反射、安全に爆破……?ところで、反射とは何だ?」
「攻撃者の攻撃をそのまま返すそうです。」
シュヴァルツの確認に側近は答える。
「と言うことは……。例えば、私が魔導砲を放てば、私自身がその魔導砲を喰らうというわけか。そんなことが、現実的に可能なのか?」
「あらゆる攻撃パターンを何千万回と試しているそうです。そして、これが迎撃の目玉にもなっており、攻撃の抑制に繋がっているそうです。」
「それはそうであろう。誰も自爆したくないからな。」
シュヴァルツは、思わず感心してしまった。
「確かに素晴らしいが、維持費が掛かるであろう。導入はタダでもメンテナンスで金を取るスタイルであろう。」
「いえ、メンテナンスも自動で無償とのことです。しかも、自動アップデートも行われ、不正な改変があった場合は、自動的にロールバックされるそうです。」
側近の返事にシュヴァルツは報告書をクシャクシャに丸めた。
「であれば、セキュリティ面でも万全の対応をしているという事ではないか。」
「はい。無償でありながら、セキュリティ面でも万全なので、次々と導入されていったそうです。」
「ふむ……、だが無償で提供するのだ。何か条件があるのだろう。」
「はい。導入には条件があります。」
側近の返事にシュヴァルツは大笑いした。
「はははっ、やはりそうだ。偽善者でもない限り、無償提供などあり得ん。」
「それが……無償提供する代わりに、削減できた費用を国民に還元するのが条件だそうです。」
「…………。」
「そのため、多くの国が賛同し、導入しているそうです。」
「……それだけか?本当にそれだけなのか?」
「はい。少なくとも、商人からの報告では。」
側近の回答にシュヴァルツが考え込む。
(無料で防衛設備を提供し、維持費も取らず、国民に利益を還元させる……。一体、ヤツは何を企んでいる。)
「……まさか。」
シュヴァルツの反応に側近は驚く。
「殿下、どうなされましたか?」
「分かったのだ。ヤツが無償で提供する理由をな。」
「どんな理由ですか?」
「無償提供する代わりに、防衛費を国民に還元させる。となると、国民は購買意欲が増す。」
「それはそうですが。」
「購買意欲が増せば、商品が買われる。商品が買われると商人が儲かる。そして、物が売れるから生産者も儲かる。」
「……はい。」
「そして経済が活性化すれば、タリアン王国との交易も増える。」
「なるほど。国民を利用して、自国の輸出産業を向上させる狙いですか。」
「そうだ。間違いないだろう。つまり、無償提供することで、周辺国の経済力そのものを底上げしているのだ。」
「…………。」
「周辺国が豊かになれば、当然タリアン王国との交易も増える。それが狙いだ。小汚い真似をしてくれる。」
「しかし、リディア嬢がそこまで考えておりますでしょうか?」
「ヤツのことだ。何のメリットもなしにやっているとは思えん。」
「あの……。我がヴァイスにも、そのアーツ防衛システムとやらを導入されてはいかがでしょうか。」
「馬鹿者。ヤツに頭を下げられるか。だが、ヤツのシステムを調べておく必要があるな。何とかして入手しろ。」




