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042.穴埋めの財源

300兆ミラの損失を被ったシュヴァルツは、頭痛の種を抱えていた。

「300兆もの金をどうやって工面するか……。数百万ミラであれば、直ぐにでも確保出来るのだが。」

執務室で頭を抱えながら、シュヴァルツは一つの案を思いつく。

「そうだ。当たり障りのない文官が私腹を肥やした事にする。そして、犯人を捕らえたが、使い込んでしまっていた事にする。そうすれば、問題を闇に葬る事ができる。」

「殿下、お待ちください。」

側近が即座に口を挟んだ。


「何だ?」

「その場合、300兆ミラを横領した文官が必要になります。そんな危険な依頼、殿下の命でも受ける者はいません。」

「そんなもの、適当に選べばいいだろう。」

「金額が金額です。それに、一人ではとても出来ないでしょう。」

「誰が一人でやった事にすると言った。複数人でやったことにすれば良い。」

「複数の文官が関与していたとなれば、誰か一人が口を割ってしまう可能性があります。当然ながら、そうなった経緯を調べる者が出てくる事でしょう。」

シュヴァルツは側近の言葉に反応する。


「そういう輩が現れたら、即座に始末すれば良い。」

「危険すぎます。下手をすると調査の支援を申し出る国が現れるかも知れません。そうなると、我々は手が出せなくなります。」

シュヴァルツは黙り込む。

「さらに、文官を処罰すれば……。」

シュヴァルツは、その先を察する。

「私に辿り着かれる恐れがあるという事か。」

「はい。」

シュヴァルツは苛立たしげに机を叩いた。


「では、国家公認の窃盗団を結成させる。そして、活動の口止め料として、奪った金品の八割いただく。用が済めば始末すれば良い。」

「殿下、それでは国家が犯罪組織を運営していることになります。」

「だから何だと言うのだ?」

「もし、その存在が他国に知られれば、国家の信用が失われます。『国家が犯罪組織を使って他国や国民から金を奪っている』などと広まれば、外交問題にもなりかねません。また近隣諸国は黙っていますまい。」

「…………。」

「それに、裏をかかれて本当に『国家公認』を名乗られてしまえば、我が国の治安そのものが疑われます。」

シュヴァルツは、椅子に深く腰をかける。


「では、公共事業をやったことにする。そして、支出を水増しすれば良い。」

「架空計上は、監査でバレてしまいます。」

「では、業者に水増し請求させ、支払った事にする。バレた場合は、業者の責任にすれば良い。」

「業者のリスクが大きすぎて、誰も受けないでしょう。」

「公共事業だぞ。受注すれば自分の事業実績に箔がつくというものだぞ。」

「ですが、無実の架空請求となると……。」

「利益より、リスクの方を恐れて、誰も受注しなくなると言いたいのか?」

「……はい。」

「ふーむ。ならば、お主はどうすれば良いと考える。」

側近は答えに詰まった。


「こうなれば、マジック・アーツ感知システム自体を売るしかないかと。」

「何を言う。我が国の生命線でもある感知システムだぞ。他国にも使わせて収益もそれなりにある。それを手放せというのか。」

「はい。昨今の軍事改革により、最新の兵器を感知するアーツの開発が遅れております。」

「それは苦々しく思っていたが……。」

「現在の感知システムは、既に旧式になりつつあります。開発費、維持費も高く、要望や最新兵器への対応にも限界が出てきています。」

「それで、どうするのだ?」

「旧式になりつつあるとはいえ、他国にとっては十分に価値があります。更に長年運用されてきた実績もあります。」

「しかし、売ったとなると、我々は今後、そのシステムが使えなくなるのではないか?」

「我々は既にシステムを保有しております。売却するのは他国向けのシステムです。我が国が使用する分まで手放す必要はありません。」

「だが、売ってしまえば、今後の利用料収入がなくなるぞ。」

「承知しております。ですが、今後発生するコストと収益を考えると、システムの売却によって得られる一時金の方が大きいと判断しました。」

シュヴァルツは腕を組み、考え込む。

「ふむ……確かに。継続した収入を考える必要はあるが、今のうちに売れば、それなりの値段にはなるだろう。」

「さらに、購入国には独占的な使用権を与えれば、より高額で取引できるかと。」

「……つまり、利用料で利益を得るのではなく、価値がなくなる前に売ってしまえということか。」

「はい。そういう事でございます。」

「そして、その売却益で300兆ミラの穴を埋めるという訳だな。」

「その通りです。」

シュヴァルツはしばらく考えた後、ニヤリと笑った。

「悪くない。だが、売る相手は慎重に選べ。勝手な真似をされて、我々が被害を被るのが一番手痛いからな。」

「もちろんでございます。」


しかし、シュヴァルツはまだ知らなかった。

かつて、リディアが購入したその感知システムが、今では彼女の手によって大きく姿を変えられていることを――。

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