040.300兆ミラの請求書
数日後のタリアン王国——
リディアは、1枚の請求書を眺めていた。
「この請求書は、一体何に使った物なのかしら。」
請求書に記された金額を確認する。
【請求金額――300兆ミラ】
「…………。」
しばらく沈黙した後、リディアはもう一度確認する。
「……300兆ミラ?」
桁を間違えていないか、何度も確認する。
「ゼロが……1、2、3……。やっぱり300兆じゃない!」
リディアは思わず叫んだ。その叫び声を聞いた数人のメイドが驚いてリディアのもとへ集まる。
「お嬢さま、如何なされました?」
「大変なのです!」
リディアは請求書をメイドたちに見せる。
「私は、300兆ミラもの大金を、何かに使い込んでしまったようですわ!」
困惑した顔で慌てふためくリディア。そんな彼女を見て、メイドたちはクスクスと笑った。
「何がおかしいのかしら。私は困っているのですよ。助けてくれてもよろしいのでは。」
「申し訳ございません、お嬢さま。」
メイドの1人が笑いを堪えながら答える。
「私どもも助けて差し上げたいのですが……。」
請求書に視線を落とす。
「300兆ミラは……さすがに大金過ぎます。」
「では、全員から1万ミラずついただきまして、返済に充てさせてください。」
リディアの一言にメイドたちはドッと笑う。
「お嬢さま、それだと何人必要になると思われますか?」
「3000人くらいかしら……。」
リディアの返事にメイドは、肩を揺らしながら笑う。
「300兆ミラですよ。3000人では足りません。あと、城内にお仕えする者全員から徴収しても足りません。」
「そうね……。1人1兆ミラとしても、300人ですものね。」
「そうです。」
リディアは考え込むと、何かを思い付いたかのようにメイドに確認する。
「そうです。国庫から一時的に借りれば、よろしいのですわ。」
「お嬢さま、少しは学習してください。国民への還元で300兆ミラを捻出出来ずに国庫の金に手を出そうとしたのは、何処の誰ですか?」
その一言を聞いて、リディアは思い出したかのように頷いた。
「思い出しましたわ。これは、国民への還元に使った請求書なのですわ。」
「お嬢さま、それは少々違います。」
「違う?」
「お嬢さま、それはシュヴァルツ様の小切手をうまく利用して捻出しております。」
「では、これは何の請求書なのかしら。宛先を間違えているのであれば、正しく届けてもらわないと……。」
リディアは、不思議そうに請求書の宛先を確認する。
「宛先は、リディア……。私ですわね。」
リディアは首を傾げながら、請求書を再確認した。
そこには、見覚えのある紋章が押されていた。
「……ヴァイス?」
メイドたちの表情が一斉に曇る。
「どうやら、そういうことのようですね。」
「でも、私はヴァイスから変なシステム以外は購入した覚えなんてありませんわ。」
「私どもも存じ上げません。」
「では、何の請求書なのかしら。」
リディアは請求書に書かれた請求内容を確認した。
「小切手回収費用?何ですか、この小切手回収費用というのは。」
「さぁ、私どもも分かりかねます。」
リディアは請求書をじっと見つめる。
「小切手回収費用……。そもそも、私は小切手を回収して欲しいなどと頼んだ覚えはありませんわ。」
「その通りでございます。」
「では、何故ヴァイスが私に請求してくるのでしょう。」
メイドたちは頭を悩ませる。
「私、300兆ミラも使った覚えなんてありませんもの。」
「お嬢さまなら、使ったこと自体を忘れている可能性も……。」
「それは、ありませんわ!」
リディアは、即座に否定する。
「300兆ミラもの大金があれば、国民のために色々できますもの。」
「……お嬢さま。」
「何ですの?」
「以前、それで国庫に手を出そうとされていたのをご存知ですか?」
「…………。」
リディアは視線を逸らした。
暫くして、メイドが思い出したかのように口にする。
「もしかすると、先日の小切手かも知れません。」
「先日の小切手……?何かあったかしら。」
「はい、お嬢さまが、ヘンドラー様へ100兆ミラでお売りになった小切手です。」
「あれは100兆ミラで売ったはずですわ。まさか、回収費用として300兆ミラも請求するなんて……。随分と強欲ですわね。」
「……お嬢さま、額面は300兆ミラです。それを100兆ミラでお譲りになったのです。」
リディアは目を丸くした。
「まぁ、私って破格で譲ってしまったのですわね。」
「お嬢さま、問題はそこではありません。」
「まだ何かありますの?」
「この300兆ミラという請求は、小切手そのものの代金ではありません。」
「……では何の代金かしら?」
「回収費用……。すなわち、小切手を回収するために使った費用ではないかと。」
「……。」
リディアは請求書を見つめる。
「……それ、回収する意味があったのかしら?」
リディアの質問にメイドは肩を揺らしながら答えた。
「いえ、無かったと思います。逆に回収せずに、そのまま流しておけば良かったのではと思います。」
「では、シュヴァルツ殿下は、大変お困りのようでしょう。困ったときはお互いさまです。300兆お支払いしてあげましょう。」
リディアの返事に側近をはじめ、皆が反対する。
「今までのシュヴァルツ殿下の所業をお忘れになったのですか?」
「ええ、もちろん覚えておりますわ。」
リディアは笑顔で答える。
「シュヴァルツ殿下は、自分で自分を困らせるのがお好きな方ですもの。」
「……それは否定できませんが。」
「ならば、今回もきっと面白いことになるでしょう。」
リディアは請求書を手に取り、ニッコリと微笑む。
「殿下にどんなワルツを踊らせてあげようかしら。」
リディアは何かを企んでいるような笑みを浮かべた。




