039.300兆ミラの回収
シュヴァルツは、毎日不機嫌だった。理由は、小切手の回収に使った300兆ミラの損失にあった。
「またしても、ヤツにやられた。あの女が絡むと何故か問題が起こる。しかし、まずは何とかして300兆ミラを回収しなければ。だが、対策が全く思い付かん。」
執務室の机に肘をつき、シュヴァルツは頭を抱える。
「300兆……300兆……」
いくら考えても、簡単に取り返せる金額ではない。
「いっその事、小切手を乱発するか?」
しかし、すぐに首を横に振った。
「駄目だ。それだと、同じ失敗を繰り返すだけだ。」
シュヴァルツは悩んだが、ふと思い付く。
「……税だ。税率を上げれば、いずれ300兆を回収できるのではないか?」
その言葉に、側近が恐る恐る口を開く。
「現在の税率は、既に高い水準になっております。これ以上の税率は税収悪化に繋がるかと。」
「だからどうした。300兆を回収するには必要なことだ。」
「しかし、これ以上税率を上げますと、国民たちが悲鳴を上げます。」
「黙れ。300兆だぞ。多少の負担はやむを得ない。」
側近は、シュヴァルツの返事に言葉を失った。
「決めたぞ。新税を導入する。」
「……新税、ですか?」
「ああ、300兆を回収するための臨時の税だ。回収完了すれば廃止する。だが、安定した収入源になれば、そのまま継続する。」
「その新税とは、どんな内容ですか?」
「まずは、入国税と出国税だ。ヴァイスに来ても、出て行っても一定額の税を取る。他国を相手に商売している商人なら、多少毟り取っても問題あるまい。」
「なるほど。税額にもよりますが、妙案ですな。」
側近が感心したように返事すると、シュヴァルツは機嫌を良くした。
「次は、預金税だ。銀行に預金すれば税を取る。」
「それだと預金する者がいなくなり、銀行が破綻します。」
「なら、金利に対して税を課せば良い。預金者の残高は減らんのだから問題ないだろう。」
「しかし、それだけでは300兆まで回収するのに数十年はかかります。」
「なら、歳出も削減させよう。人員削減および、給金をカットする。あと、世界中の金融システムをジャックする。」
「金融システムをですか。何故そのような事をなさるのです?」
「そうだ。システムを操作すれば容易だろう。」
シュヴァルツは、さも当然のように答える。
「そして、世界の預金者から1ミラずつちょうだいする。1ミラであれば気付くこともあるまい。」
「…………。」
側近は黙り込んだ。
「どうした?」
「いえ……。」
側近は額を押さえる。
「それは、税ではなく窃盗なのでは……?」
「何を言っている。たった1ミラだぞ?」
「金額の問題ではございません。」
「では何が問題なのだ?」
「世界中の人間から勝手に金を徴収すること自体が問題なのです!」
「ふむ……。」
シュヴァルツは腕を組んで考える。
「では、税ということにすればいい。」
「無理がありすぎます!」
「何故だ?例えば『世界金融協力税』とかにすればいい。」
「駄目です。」
「ならば『国際平和維持税』だ。」
「名前の問題ではありません。」
「……ケチな奴め。」
「私の問題ではありません!窃盗という犯罪だと自覚してください。」
「犯罪ではない税であれば、良いんだな?」
「……まだ何かお考えですか?」
側近は嫌な予感を覚えた。
「当然だ。税の案は他にもあるだろう?例えば、独身税だ。」
「……はい?」
「結婚していない者から取る税だ。独身なのだから、金を貯め込んでいるだろう。それをいただく。」
「しかし、それだと結婚している者が有利になりませんか?」
「当然、既婚税を取る。」
「…………。」
「結婚するほど余裕があるなら、税を徴収する。他には……。」
「まだあるのですか?」
「子どもがいるなら、子ども養育税。教養を身につけさせるために学習院とか行くだろう。そこを徴収する。」
「殿下、もう結構です。今の殿下は、税を取ることしか頭に無いようです。これでは、良い政策が生まれません。」
「……では、どうすれば300兆を取り戻せる?」
「取り戻すのではなく、削減の方向でも政策を進めます。例えば、公共事業を削減するのも1つの案です。」
「なるほど。この城は大きいが古城と化している。この城を売れば100兆ミラにはならんか。」
「うーむ。100兆ミラは無理でも、1億ミラにはなるのではないかと。ですが、殿下がお住みになる城が無くなります。」
「それは、新しく城を建てれば良い。」
側近は、ため息をついて返事した。
「それだと、逆に出費が嵩むことになります。」
「そうだ。そもそも、あの小切手はヤツが亡くなったからという理由で発行した物だ。ヤツが生きているのだから、責任をとってもらうべきだ。」
「失礼ながら、リディア嬢は何も悪くありません。小切手の回収費用を払うとは思えません。」
側近の返事にシュヴァルツは苛立ち始める。
「私が300兆ミラを失った原因を作ったのだぞ。なら、あの女にも責任を取ってもらうのは当然の結果だろう。」
「しかし、小切手を発行したのは、殿下ご自身ですぞ。」
「私は、あの女が死んだと思っていたから発行したのだ。」
「それは、殿下の勘違いです。リディア嬢は何も悪くありません。」
「ええい、黙れ。今すぐ請求書をヤツに送れ。」




