004.抜本的改革
「今日は市場を視察しますわ。市場の熱狂を肌で感じるなんてゾクゾクしますわ。」
「では、私がお供いたします。」
と一人のメイドが申し出る。
「いえ、私1人で十分ですわ。そなた達は束の間の休息でもお取りになっては?」
リディアの一言にまたも空気が凍り付く。まるでリディアが間違った発言をしたような反応である。
「あら、何かおかしな事でも言ったかしら。」
「いえ、お嬢さまからお暇をいただけるなど、今まで無かったものですから。」
「はあ?私が24時間365日働けと言ったのですか?そんなブラックなこと許されるはずがないですわ。」
「つい先日、お嬢さまがそのように発言されたのですが。それでは我々の体が保たないので、妥協案として1日2交代制、休日はなしで対応させていただいております。これでも、かなり厳しいのですが、お嬢さまから経費削減と仰せつかっては……。」
それを聞いたリディアは怒りを爆発させた。
「そんな馬鹿げたことがあってはなりませぬ。使用人は直ちに増員させなさい。そして、最低週2日は休暇となるようにシフトを作りなさい。休暇に希望がある者はシフトの交代を可能とさせますわ。」
(それにしても、ブラック企業を思い出すわね。これで、周りも少しは私を見直して……。)
リディアがそう思った直後、沈黙が落ちる。
「どうしたのかしら?」
「い……いえ。お嬢さまから、そんな提案をされるとは思ってもいなかったものですから。これで労働環境が劇的に良くなります。ありがとうございます。」
リディアは想像以上の反応にどう対応すれば良いか分からなくなった。
「ま……まあ、当然のことを言ったまでよ。わ……私は早速市場に視察に行きますわ。」
それだけ言うと、リディアは逃げるように城を出ていった。
市場では、税率が下がったこともあり活気があった。
「いらっしゃい、いらっしゃい。今日は特別大サービスだよ。全品通常価格の半額だ。」
(凄い値引きね。一体何を売っているのかしら。)
「ちょっと、それを見せてもらっても。」
「どうぞ。あっしは、これをお勧めしますがね。」
そう言うと、店員は一つの宝石を手渡した。それは美しくブルーに輝いていた。
「見事な輝きね。気に入ったわ。いくらなのかしら?」
「お嬢さん、いい目をしているね。これは100万ミラだ。」
「んーっ、少し高いかしら。もう少し安くならない?」
「仕方がねぇな、じゃ、50万ミラでどうだい?」
「もう一声。」
「んーっ、これが最後だぜ。30万ミラでどうだ。正直、これ以上値引くと赤字だ。」
「まあ、限界まで値引いてもらえるなんて光栄ですわ。」
リディアは30万ミラを渡すと子どものように燥いだ。
(私の値引交渉術は捨てたものではないわね。次は何を買おうかしら。)
リディアはその後、あちこちで買い物をするのであった。
王城に戻ったリディアは満足だった。
「どうやったら、そんな無駄遣いが出来るのでしょうか。」
メイドの1人が呆れた顔で確認する。
「何か感じるものがあったのですわ。例えば、この宝石なんか綺麗なブルーの輝きが最高に良いでしょう。」
「その宝石は作り物です。なので、5000ミラほどで買うことが出来ます。」
「えっ、そんなに安物なの?だったら、詐欺ということで返品しますわ。」
「いえ、買ってしまった物を返品するなど、王家の恥でございます。今回は勉強代ということで諦めになられた方がよろしいかと。」
「勉強代……そういうことなら仕方ありませんわね。明日は、どのお店を視察しようかしら。」
「まだ買うおつもりですか!?」
「何か問題でも?」
「いえ、問題はございませんが、本日みたいな事がありますと……。」
「心配いりませんわ。今度は私の名前を出しますわ。そうすれば、自ずと詐欺行為をしなくなるでしょう。」
「いえ、そうなると今度はお嬢さまを危険にさらす事になります。」
「あっ、そうですわ。詐欺をした者の刑罰を見直すことにしましょう。今はどういう刑罰になっているのかしら?」
「そ、それが……。詐欺を犯したものは、理由を問わず全財産没収となっております。」
メイドの1人が、恐る恐る答えた。
「たったそれだけ?」
「お嬢さま、全財産を失うということは、家も土地も商売道具もすべて失うということです。それだけでも本人にとっては死活問題でございます!」
「まあ、それなら十分な罰ではありませんの?」
「十分すぎるほどでございます。」
「なるほど……では、詐欺をした者には全財産を没収したうえで、被害者に全額返還させるのですわ。」
「全額ですか?それは現在の制度でも、あるにはあるのですが……。」
「まあ。もうあるのなら問題ないですわね。」
「ただ、返還手数料として総額の半分を徴収しております。」
「どうして。半分も徴収するのですか?」
「詐欺師から財産を没収、調査し、被害額を算定して被害者へ返還するまでには相応の人手と費用が掛かります。その費用を被害者の方にも負担していただいております。」
「つまり、詐欺に遭った人は、自分のお金を取り戻すために、さらにお金を払わなければならないということですか?」
「はい。制度上は、そのようになっております。」
「それでは詐欺師に半分盗られて、国にも半分盗られているようなものではありませんの。」
リディアの一言にメイドは困惑しながら答える。
「現状の制度では、そのようになってしまいます。」
「こんな被害者に優しくない制度を考えた者は誰ですか?」
「リディアお嬢さまでございます。」
「…………。」
リディアは自分が考えた政策だとは思ってもいなかったので、どうすべきか悩んでしまった。
「では、その手数料を無料にしなさい。」
「しかし、それでは費用はどこから捻出されるつもりですか?」
「国庫があるでしょう。それに、税収は増えているのでしょう?」
「はい。お嬢さまの減税政策によって、以前より税収そのものは増えております。」
「ならば問題ありませんわ。」
「恐れ入りますが申し上げます。お嬢さまは、ご自身で作られた制度を、ご自身で改革されているのですが……。」
「そうなの?」
「はい。」
「まあ、私ってば随分と仕事熱心ですのね。」
(違います。最初からちゃんと考えて制度を制定してください。)
メイドたちは、表面的には苦笑いをしていたが、心の中で盛大に突っ込んだ。




