035.300兆ミラの換金
リディアは、300兆ミラの小切手を見て大喜びした。
「300兆ミラもの大金、どのように使おうかしら。演技して下さった方に追加報酬を出してあげましょう。そして、一番の功労者であるベトルークさんには報酬を倍にしてあげないとね。あとは、私の……ふふふっ。」
「お嬢さま、もう少し冷静になられては。いつものお嬢さまらしくないです。」
「だって、何もせずとも300兆ミラですわよ。使い切れるか分からない大金が手に入ったのですよ。これが黙っていられますか。そうですわ!国民の皆様に還元すると大々的に宣伝してちょうだい。」
「……本当によろしいのですか?」
「えぇ。私は1ミラも損をしていない。それどころか、国民からは『太っ腹な領主様』と慕われる。こんなに美味しい話、他にありませんわ!」
「そうですか……。では、国民に宣伝して参ります。」
「そうね、お願いするわ。私は、この小切手を換金して参りますわ。」
「承知いたしました。」
執事は一礼すると、すぐさま部屋を出ていった。
その頃、ヴァイスでは——
「何?ヤツが生きていたというのか。影武者ではないのか?」
外交官の報告にシュヴァルツは驚きを隠せなかった。
「はい、リディア嬢本人をこの目で確かめました。間違いなく、本人でございました。」
「むむむ……。血痕の鑑定までしたのに一体どういうことだ。鑑定のサンプルが偽物だったのか……?」
「とにかく、リディア嬢本人が生きているので、私は何も出来ず、こうして引き上げて参りました。」
「またも、ヤツの掌の中で踊らされていたということか。」
シュヴァルツの怒りは頂点に達していた。
「ところで、例の小切手はどうした。」
「はい、リディア嬢にお渡ししております。」
「何だと?渡してしまったというのか?それでは、タダで300兆ミラをヤツに手渡したことになるではないか。」
「私は、言われた通りにしたまでです。」
「まあ良い。万が一のために、あの小切手には細工が施してある。」
「では……。」
「換金できると思っているのなら、好きにさせておけ。」
シュヴァルツは不敵な笑みを浮かべた。
「誰が300兆ミラもの大金を、何の見返りもなく譲る馬鹿がいるというのだ。」
あれから数時間後——
「申し訳ございません。この小切手は換金出来ません。」
「どうしてですか?この小切手は本物でしょう。」
リディアは何度も小切手を確かめた。
「はい、小切手は本物です。ですが、金額が金額ゆえに条件が付与されております。」
「どこに書かれてあるというのですか?」
リディアは不思議そうに小切手を見つめる。行員は、その小切手に小さく書かれた条件を指差した。
「こちらでございます。但し書きが付与されております。」
そこには、通常の小切手では見慣れない一文が記されていた。
「ふふっ、姑息な真似をして下さるわね。」
リディアは、暫く小切手を眺めながら考え込んだ。
「仕方ありませんわね。300兆ミラは諦めましょう。」
「お嬢さま、本気ですか?」
隣にいたメイドが驚いた様子で確認する。
「ええ、換金できない物は仕方がないですもの。処分してちょうだい。」
「処分するのは簡単ですが、300兆ミラの用意はいかがなさいますか?」
「えっ?用意する必要がありまして?」
リディアは驚いて確認する。その姿を見てメイドはため息をついた。
「はい。お嬢さまご自身が、国民の皆様に還元すると大々的に宣伝するよう命じられましたよね?その資金源は、この小切手ではありませんでしたか?」
「なら、何としてでも換金しないといけないではありませんか!」
「そうですが、振り出し条件であるシュヴァルツ殿の同意が得られるとは、とても思えません。」
「ど……どうしましょう。これでは、私の威厳が保てなくなりますわ。」
「知りません。もっと考えてから行動に移すべきです。」
メイドは呆れたように返事した。
「あぁ、どうしましょう。そうですわ、国庫から一時的に借りて……。」
「そんな大金、国庫に残っていません。それに、国庫のお金を私的に使おうと思わないで下さい。」
「私的ではありませんわ!国民の皆様のためですもの!」
「では、なぜあの時『私の……ふふふっ』と仰ったのですか?」
「…………。」
「図星ですね。」
「そ、そんなことありませんわ!残りを私が貰うつもりだったのは認めますが、国民への還元ですもの。」
「国庫は、お嬢さまのお小遣いではありません。」
「では、こうしましょう。」
リディアは、何か閃いたようにお願いした。
「300兆ミラを借りるのです。そして、毎年数万ミラを返済すれば良いではありませんか。これで、私の威厳も保てるというものです。」
「…………。」
メイドは、リディアの考えがあまりにも斜め上であることに気付き、何も言えなくなった。
「それでは、返済計画はどうなるのですか。数年で済む話ではありませんよ。国家の破綻を招くのは必至です。」
「では、数十万ミラの返済なら。」
「数十万ミラでも同じです。お嬢さま、お願いですから、金銭感覚を養って下さい。」




