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032.逝去の演出

シュヴァルツの放った間者は、リディアの生死を確かめるため、王国内のあらゆる場所を探り始めた。しかし、それらすべてを想定していたかのように、リディアは自らの葬儀を行わせた。

棺の中には、当然ながら本人はいない。

参列者たちは皆、悲痛な表情を浮かべていた。


「お嬢さま……本当にこれで大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫ですわ。シュヴァルツ殿下が私の死を信じるためには、これくらい必要でしょう。」

そう言うと、リディアは自分の葬儀を眺めながら、どこか楽しそうに微笑んだ。

「それにしても、自分で自分の葬儀をするなんて滑稽ですわね。」

「お嬢さま、少し黙っていて下さい。バレでもしたら大変なことになります。」

「はいはい。大人しくするわ。」

「……本当に分かっているのでしょうか。」

側近は呆れたようにため息をついた。


その一方で、葬儀の様子を遠くから見つめる一人の男がいた。

ヴァイスから送り込まれた間者である。

(間違いない。タリアン王国は、本当にリディア嬢を失ったのだ。)

彼はそう確信し、ヴァイスへ報告するため、その場を後にした。


数時間後——

「殿下、送り込んでおいた間者の報告によると、リディア嬢の葬儀が行われていたそうです。」

側近が間者からの報告を伝えると、シュヴァルツは驚いた。

「何、それは本当だろうな。本当にヤツの葬儀が行われていたのだな?」

「はい。それは盛大な葬儀になっているとの事です。」 

「ふむ……。まだ信憑性に欠ける。もっと確実なものはないのか?」

「昨夜、暗殺現場から採取した血痕を調査中です。この血痕がリディア嬢のものと一致すれば確実かと。」

「……そうだが、ヤツの血のサンプルは無いぞ。」

「そこはご心配なく。間者に忍び込ませて、リディア嬢の身元鑑定用の血液サンプルを拝借しております。」

「そうか。なら結果を待つだけだな。今度こそ、ヤツには騙されんぞ。」


それから数時間後に、間者からの報告が入った。

「殿下、暗殺現場の血痕とリディア嬢の血液が一致したそうです。」

「ふふ……ははははは!と言うことは、間違いなくヤツは亡くなったのだ。あとは、ベトルークとかいう者を確実に始末するだけだ。」

「それなら、1つ妙案があります。」

側近の1人が提案する。

「何だ?言ってみろ。」

「はっ、ヴァイスからリディア嬢を暗殺した者が現れたとなると、ヴァイスの面子が保てません。そこで、タリアンではなく、ヴァイスで裁判したいと申し出るのです。」

「ふむ……。しかし、タリアン側はその申し出を受け入れるのか?」

「リディア嬢が逝去した今、タリアン王国は混乱の最中にあるはずです。そして、ベトルークを死罪にしてしまえば、タリアン王国に対して誠意を見せると同時に確実に始末することが出来ます。」

「なるほど。一石二鳥の良い案ではないか。早速実行に移せ。」

「はっ、承知いたしました。」


数日後——

「お嬢さま、ヴァイスから使者が参っております。如何いたしますか?」

「ふふっ、私が亡くなったと思い込んで、行動に移してきたようですわね。では、次の作戦に移りましょうか。」

リディアは、ニコニコしながら皆に作戦を伝えていく。

「皆さん、お楽しみの時間が始まりますわよ。作戦どおりお願いしますわね。」

王城では、メイドたちが慌ただしく動き回り、側近たちは次の指導者に誰を立てるのかを議論している。態とらしく、その中へ使者を誘導する。そして、リディアの執事の部屋へ使者を案内した。


「この度は、ご愁傷さまでございます。我々にとっても非常に大切なパートナーを失い、悲しんでおります。」

使者は丁寧に挨拶すると周りを見渡した。

「態々ご苦労であった。して、用件は何だ?ご使者とは言え、自らご訪問されるとは何か用件があるのであろう。」

「これは、お気が早いですな。申し訳ないですが、本題に入らせていただきます。」

使者は深々とお辞儀をすると、数々の金品を差し出した。


「これは、我々のほんの気持ちです。少ないですが、お納めください。」

「ほう、気持ちだとな。気持ちであれば、遠慮なくいただくとしよう。」

「はっ、ありがたきお言葉です。これで、私も少し肩の荷がおります。」

「そんな大層な事でもあるまい。」

執事が返事すると、使者は間髪入れずにお願いをしてきた。


「聞くところによると、リディア様はヴァイスの人間に暗殺されたとか。我々にとっては世界からの大恥でございます。」

「ふむ……そうとも捉えられるな。」

「如何でしょう、ここは我々に容疑者を裁かせていただけませぬか。そうすることで、ヴァイスでは犯罪者を野放しにしない姿勢を見せると同時に、ヴァイスがタリアン王国に忠誠を示していると世界に知らしめる事が出来ます。」

使者は必死に頭を下げてお願いする。その様子を見て執事は少し悩んだ素振りを見せた。


「なるほど……、確かに一理あるな。だが、私の判断だけでは何も出来ぬ。少しお時間をいただきたい。」

「勿論でございます。良いご返事をいただけることをお待ちしております。」

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