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031.仕組まれた暗殺

数日後のタリアン王国の市場は、相変わらずの盛況ぶりだった。

「いらっしゃい、いらっしゃい。今日の目玉は、国産の新鮮な野菜だよ。」

「こっちは、絹製品を扱っているよ~。さあ、買った買った。」

その中を誰かを探すように歩く一人の青年、ステルツィンの姿があった。

「ヴァイスから暗殺者を送り込んだと聞く。リディア嬢は何処にいるんだ。見た目で分かると思ったが、紛れ込むと意外と難しいものだな。」


そんな中、広場から怒声が聞こえた。

「お前がリディアだな。今まで散々コケにしやがって。殺してやる。」

ベトルークは、リディアに恨み節を連ねる。

「誰なのかしら。私はあなたに恨みを買ったおぼえはありませんわよ。」

ステルツィンは、その声を聞いて振り返った。

「……ベトルーク?」

そこには、リディアに短剣を向けるベトルークの姿があった。

(何をしているんだ、あいつは……)

しかし、周囲の人々は驚き、逃げ惑っている。

ステルツィンは、思わず息を呑んだ。

(まさか……本当に暗殺するつもりなのか?約束が違うじゃないか。)

「黙れ。今までの恨み、決して消える事はない。この恨みを晴らさせてもらう。」

ベトルークが短剣を突き立てる。

「きゃああああっ!」

リディアの悲鳴が市場に響き渡る。

次の瞬間、リディアはその場に崩れ落ちた。

「リディア様!」

市場にいた人々から悲鳴が上がる。

ベトルークは短剣を放り捨てると、冷たい笑みを浮かべた。

 

「ふん、手応えのない奴め。もっと悪役らしく耐えて欲しかったものだな。」

ベトルークは笑いながら、その場を去ろうとする。その時、1人の青年が飛び込んだ。

「お前、何やっているんだ。話が違うじゃないか。」

「ステルツィンか。こんな時に現れやがったか。」

「本気なのか?本気で言っているのか?もし本気なら、見損なったぞ。」

「ふん、何とでも言え。こっちは気分が良いんだ。」

「お前……。らしくないぞ。一体どうしたんだよ。」

「俺は変わったんだよ。」

「何だと?」

「ヴァイスにいた頃の俺は、命令されれば何でもやった。だが、今は違う。自分の欲しいものは、自分の手で奪う。」

「ベトルーク……。」

「もう俺に関わるな。次はお前を殺すかもしれんぞ。」

ステルツィンは驚いた様子で、一歩、また一歩と後退りした。そこに騒ぎを聞いて駆けつけた親衛隊が割って入った。

「何をしている!リディア様から離れろ!」

親衛隊は周りの騒動を抑えつつ、ベトルークに詰め寄った。


「お前だな。リディア様暗殺容疑の現行犯で逮捕する。」

親衛隊の1人がベトルークを取り押さえ、そのまま連行していった。

「他の者は、リディア様を早く病院へ。緊急手術すれば命だけは助かるかも知れん。」

リディアは親衛隊に即座に抱えられ、病院へ運ばれていった。

その直前、倒れていたリディアの口元が、一瞬だけ僅かに緩んだ。

しかし、それに気付く者は誰もいなかった。


その日の夜——

「殿下、大変です。大変な事態が発生しました。」

シュヴァルツの側近が慌てた様子で駆け寄る。

「そんなに慌ててどうした?何か拙いことでも起こったのか?」

「そ……それが、リディア嬢が暗殺されたとの報告が入っております。」

「何、それは本当なのか?」

シュヴァルツは歓び半分、疑い半分で尋ねる。

「はい。もう、国中で大騒ぎになっています。」

「そうか。だが、本当に暗殺されたのか?またヤツの企みだという事はないのか?」

「今回は、それは無いと思われます。リディア嬢は、市場で襲撃され、親衛隊によって病院へ搬送されたそうです。」

「病院だと?では、死亡したとは確認されていないという事ではないか。」

「それが……医師の話では、傷が深く、助かる見込みはほとんどないとのことです。」

「ふむ……。」

シュヴァルツは腕を組み、しばらく考え込んだ。


「まだ信用できん。」

「しかし、親衛隊、医者まで結託しますでしょうか。仮に企みだったとしても、規模が大きすぎます。そこまで結束させる力がリディア嬢にあるとはとても……。」

「確かにそうだが、ヤツならやりかねんからな。で、犯人は誰なのだ?」

「ベトルークとかいう男だそうです。親衛隊にその場で拘束されたとの事です。」

「……何?もう捕まったのか。」

「はい。元ヴァイスの犯罪者で、現在はタリアン王国で商人をしていた男とのことです。」

「ベトルーク……。聞き覚えのある名前だな。」

シュヴァルツは記憶を辿る。

「そうか。あの時、私の命令でタリアンを襲った男か。」

シュヴァルツの顔に、徐々に笑みが浮かんだ。

「向こうから勝手に事を進めてくれたお陰で手間が省けたわ。ベトルーク、感謝するぞ。ふふ……ははははは!」

シュヴァルツは堪えきれず笑い出した。

「ついに、あの女を葬ったか!」

「殿下……?」

「これでタリアン王国は終わりだ。あの国は、ヤツの政策と信用によって成り立っている。ヤツが消えれば、必ず崩れる。」

「では、いよいよ我々の時代が……。」

「そうだ。今度こそタリアンを我が手中に収める事が出来る。だが、念には念をだ。ヤツの企みの可能性もある。間者の数を増やし、ヤツの死亡を確認するのだ。」

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