030.仕掛けられた命
暫くして、ベトルークが商人の家を訪れた。そして、ステルツィンの様子を見て、ただ事ではないと察知した。
「すまないが、2人にさせてくれないか。」
ベトルークは申し訳なさそうに商人に依頼する。
「これ、みな向こうへ行くぞ。」
商人はベトルークの意図をくみ取り、人払いをした。
そして、2人きりになったところで、ステルツィンがため息をした。
「お前の言うとおりだったよ。」
「それだけじゃ、何も分からない。どういう事だ?」
「シュヴァルツ様は、リディア嬢を暗殺しようとしている。」
「何だと?」
ベトルークは思わず大声を上げる。
「気を付けろ。声がでかい。間者が潜んでいたらどうする。」
「す……すまない。思わぬ事だったので、つい大声を出してしまった。しかし、何故そんな事を俺に言う。」
ベトルークはステルツィンに理由を確認する。
「この国で信用できる奴はお前しかいないからだ。極悪令嬢と噂が絶えないが、さすがに暗殺までは反対だ。だから、こうして会いに来た。」
「本当にそうなら大事件だ。だが、お前は奴に洗脳された人間だ。簡単に信じて良いかどうか分からん。」
「シュヴァルツ様が誰かと何やら相談しているのをカーテンの奥に隠れて聞いたんだ。本当の話だ。信じてくれ。」
ステルツィンは真剣な眼差しで、その時の出来事を詳細に話した。
「お前の言いたいことは分かった。この事は、リディア様に報告する。きっと良い対策を考えて下さるはずだ。」
「……頼む。頼れるのは、お前しかいない。」
翌朝——
1人のメイドが青ざめた姿でリディアの前に現れた。
「どうしたのですか?体調が悪いようですが。」
リディアの一言にメイドは、そっとお願いする。
「リディア様、お耳を。」
リディアはメイドの口元に耳を傾ける。
「実は、ヴァイスのシュヴァルツ様がお嬢さまを暗殺しようと企んでいるそうです。もし、本当ならば大事件です。」
メイドの一言にリディアはクスッと笑った。
「そうなのですか、それが本当なら面白い展開ですわね。」
「お嬢さま、しっかりして下さい。全然面白くありません。そのような事になると、私たちの命がいくらあっても足りません。」
リディアは、メイドの真剣な顔を見てニコッと笑った。
「そうですわ。城内に仕える者及び、ここに住む元ヴァイスの人たちを今すぐここに集めて下さい。」
「ヴァイスの人たちもですか?」
「えぇ、よろしく頼みますわ。」
数時間後——
リディアの命により、城内に仕える者、元ヴァイスの人たちが集まった。
「何かあるのか?」
「今になって処刑は無いわよね。」
「そんな物騒なこと言うな。」
誰一人事情を知らないので、戸惑っている者ばかりであった。
「皆さん、よく来て下さいました。これから重大なことを言います。決して口外しないように。」
リディアの一言で一気に静かになる。
「どうやら、私を暗殺しようと企んでいる者がヴァイスに現れたようです。」
「何だと?」
「誰だ?この中にいるのか?」
「そんな事をする奴は許さない。」
「見つけ次第、拘束しろ。」
暗殺の言葉に、周りがざわめき出す。
「静かにしなさい。リディア様が話している最中だぞ。」
側近の1人が大声を上げる。それに続いて、リディアが続きを話した。
「なので、先手を打つ事にします。」
「先手を打つとはどういう事ですか?」
集められた人の1人が疑問をぶつける。
「私は、あなた達によって殺害されたことにします。」
「そんな……。私たちは、リディア様を殺害なんて出来ません。」
「もちろん、フェイクですわよ。そして、あなた達は状況に応じて芝居をしていただきたいのです。かつて無い壮大な芝居なので、皆さんの協力が必要なのです。」
「な……なるほど。で、殺害役は誰なんだ。」
「そこが問題なのです。ヴァイス側に殺害したと思わせられれば、ヴァイスでは英雄視されるでしょう。ですが、芝居がバレた時は……。」
リディアの悩みに皆が黙り込む。その時、1人の商人が名乗りを上げた。
「私が……私がその役を引き受けます。」
声の主は、ベトルークだった。
「申し訳ないですが、あなたにその役目を任せるわけにはいきません。」
リディアは、きっぱりと断る。しかし、ベトルークは諦めなかった。
「私は、リディア様に人生をやり直す機会を与えていただきました。ならば今度は、私がリディア様をお守りする番です。こんな時こそ、私をお役立てください。」
「そうですか……。ですが、その役目を引き受ければ、この国の人々から憎まれることになりますわよ。それでも構いませんの?」
「それも承知の上です。」
「そこまでの覚悟であれば、あなたに任せますわ。これから準備をするので私についてきて下さい。他の人たちは臨機応変に演技をよろしく頼みますわよ。」
「臨機応変って言われても、うまく演技できるかしら?」
残された1人が思わず口を開く。
「出来なくても、やるしかないだろ。これも、リディア様を助けるためだ。」
「そ……そうね。やるしかないわね。」




