027.インターミッション①
――そこは、人の世界ではなかった。
空も、大地もない。
ただ、果てのない暗闇の中に、一つのチェス盤だけが存在していた。
その盤を挟み、二つの存在が向かい合っている。
一柱は――エレノア。
序盤から人間界を見守ってきた女神。
そして、その向かいには――もう一柱の神。
「……随分と盤面が変わりましたね。」
エレノアが盤上を見つめる。
「あなたの思惑通りには進まなかったようですが?」
もう一柱の神は答えない。
ただ、黒の駒を一つ動かす。
コトッ。
エレノアはその手を見て、微笑む。
「なるほど。まだ諦めてはいないのですね。」
エレノアは白の駒へ手を伸ばす。
そして、一つのポーンを指先で示す。
「この子を忘れてはいけませんよ。」
「……ただのポーンだ。」
もう一柱の神が初めて口を開く。
「そうでしょうか?」
エレノアは微笑む。
エレノアは別のポーンを一マス進める。
コトッ。
「これで、シュヴァルツというビショップが身動き出来なくなりましたわね。」
「……。」
「そして、リディアというポーンが最後まで辿り着いたとき……」
エレノアは静かに告げる。
「ポーンは、クィーンになる。」
もう一柱の神が盤面を睨む。
「…………。」
エレノアは、静かに微笑んだ。
「まだ、分からないのですか?」
「…………。」
「リディアというポーンがクィーンに変わったとき――」
エレノアは盤上のリディアを指先で撫でる。
「あなたの負けですよ。」




