026.犯罪者の処遇
数日後——
「この者達が、北門から攻めてきた犯罪者集団です。」
衛兵に連れて来られた男女は50人に及んだ。
リディアは彼らを一人ずつ眺める。
「この者達は、全員ヴァイスの人間なのですか?」
「はい。そのように聞いております。」
「そうですか……。よく集めたものですわね。」
リディアの口元に、妙な笑みが浮かんだ。
「では、カッツエさん。この者達のヴァイスで犯した罪を全て調べてもらえるかしら。」
「はっ、直ちに調べます。しかし、北東の砦を攻めた罪は消えません。」
「ええ、勿論です。命令されたからといって、何をしても許されるわけではありません。」
リディアは、拘束された男女を眺めながら小さく息を吐いた。
「ヴァイスという国は、使える物は何でも使うのがポリシーなのでしょうか。」
「……。」
「殿下は趣味が悪いですわね。」
カッツエは思わずリディアを見る。
「リディア様。もしかして、最初からこの者達を……?」
「ええ。」
リディアは微笑んだ。
「少し気になっていたのです。」
「何がでしょうか?」
「シュヴァルツ殿下が、どれほど人を道具として扱っているのか。」
リディアは再び50人へ視線を戻す。
「どうやら、私の想像以上だったようです。もう何が出てきても驚きませんわ。」
数日後——
「リディア様、各々の犯罪歴を洗い出しいたしました。」
カッツエの報告にリディアは驚いた。
「随分、早かったですわね。徹夜して調査されたのですか。」
「いえ、ヴァイスの情報ですので、入手は容易です。」
「カッツエさんには、逆スパイのような行為をさせて申し訳ございませんわ。」
「いえ、それくらい当然です。」
リディアはカッツエの報告書に目を通す。
そこには、殺人、強盗、恐喝など多種に及んだ。
「なるほど……まずは罪の種類で分けますわ。
そして、それぞれに対して、犯した理由と反省の有無を確認してください。」
「全員をですか?」
「ええ。全員です。」
「かなりの時間が掛かりますが……。」
「構いません。」
リディアは報告書から顔を上げた。
「人を裁くというのは、それくらい慎重に行うべきです。また、誤った判断を下す事も出来ません。」
「分かりました。全て確認いたします。」
ある者には重い刑を。
ある者には罪を償う機会を。
そして、罪を犯した理由に情状を酌量すべき事情がある者には、それに応じた処遇を与えた。
リディアは、誰一人として同じ基準では裁かなかった。
それでも――
「異議はありません。」
「……ありません。」
「私も、ありません。」
誰一人として、処罰に異議を唱える者はいなかった。
まるで、最初から自分が何を裁かれるべきなのかを理解していたかのように。
こうして、北東の砦を巡る一連の事件は、静かに幕を閉じた。
「私も処罰を受けます。」
カッツエは、静かに頭を下げた。
リディアは目を丸くする。
「……何のことでしょう?」
「ヴァイスに情報を流した件です。」
「その件なら、もう終わったことですわ。」
「いいえ。」
カッツエは顔を上げた。
「私は、機密情報をヴァイスに流しました。それによって、多くの方々が危険に晒されたことに変わりはありません。」
「ですが、あなたは既にその罪を認め、私たちに協力しています。」
「それでもです。」
カッツエは拳を握る。
「先ほど、リディア様は彼ら一人一人について、犯した罪だけではなく、その理由や反省まで確認されました。」
「ええ。」
「ならば……私だけが例外になることは許されないでしょう。」
リディアは、暫くカッツエを見つめていた。
やがて――
「ふふっ。」
小さく笑った。
「カッツエさん。」
「はい。」
「あなたは、随分と真面目な方なのですね。」
「……そうでしょうか。」
「ええ。ですが――」
リディアは静かに立ち上がる。
「私が人を裁く時に見ているのは、罪だけではありません。」
カッツエは黙ってリディアを見る。
「あなたが何をしたのか。そして、その後に何をしたのか。」
リディアは微笑んだ。
「それも含めて、私は判断します。」
「では……。」
「ですから、カッツエさん。」
リディアは穏やかに告げる。
「あなたに処罰を与える必要はありません。」
「……!」
「あなたは既に、自分の罪を理解している。」
リディアは一歩、カッツエへ近づく。
「そして、その罪を償おうとしている。」
「…………。」
「それ以上に必要なのは、罰ではありませんわ。」
リディアは微笑んだ。
「これから何をするか、です。」
カッツエはしばらく言葉を失った。
そして――深々と頭を下げた。




