022.劣勢のタリアン王国
こちらは北の砦にいる賊——
「親分、本当に大丈夫ですか。さすがにヤバい仕事じゃないですよね。」
1人の賊が親分に話しかける。
「ああ、大丈夫だ。なんせ国家レベルの依頼だからな。攻めるだけで5000万ミラ、攻め落とせば倍になるおいしい仕事だ。攻めた実績だけでも、暫くは生活出来る。」
「しかし、相手は悪名高いリディア嬢の領土でっせ。後でどんな仕打ちが来るか……。」
「心配するな。ヴァイスに逃げ込めば、いくら悪名高くても、手は出せまい。」
「……本当にそうですかね。」
隣にいた1人がボソッと呟いた。
「どういう事だ?」
「いや……リディア嬢って、一度敵に回すと相手をどこまでも追い詰めるって噂でしょう?」
「所詮は噂だ。国境を越えれば向こうも手出しできん。それに、俺達みたいな賊をリディア嬢が相手にするわけ無いだろう。」
「……だといいんですがね。」
「ここの砦は、20人程度の守備隊しか配置されていない。正面から突破して皆殺しにするんだ。横取りした物は全てお前達の者だ。」
「えっ?全て自分たちの物にして良いのか?」
「そうだ。取り放題の宝の山だぞ。」
「イエッサー!!」
賊たちは砦へ向かって一斉に駆け出した。
「行けぇぇぇ! あの程度の砦、俺達なら一気に落とせるぞ!」
「宝は全部俺たちの物だ!」
賊たちは勝利を確信していた。
やがて、砦の門が見えてくる。
「あと少しだ!」
「一気に駆け抜けろ!」
その瞬間だった。
「撃て!」
カッツエの声が響き渡る。
――バンッ!
銃声が砦の上から一斉に鳴り響いた。
「ぐあっ!」
「な、何だ!?」
「銃撃だと!?」
先頭を走っていた賊たちが次々と倒れ、後続の賊たちが慌てて足を止める。
「撃ち続けろ!」
――バンッ!
間髪入れず、次の銃声が響く。
弾を込めている間に別の兵士が発砲し、銃撃が途切れない。
「な、なんだこれは!?」
「20人しかいないんじゃなかったのか!?」
「話が違うぞ!」
賊たちの間に動揺が広がっていく。
「退け……、一度撤退だ。このままでは犠牲者が増えるだけだぞ。」
賊は一目散に撤退した。
「よし、今だ。追撃するぞ。完膚なきまで叩き潰せ。」
守備隊長が喜び勇んで命令する。
「いえ、このまま待機してください。指揮命令権は私にあるはずです。」
「ぐぬぬ……。これだから素人は。」
「今回は砦の防御が目的です。賊の排除ではありません。」
「しかし、また攻めてくるかも知れんのだぞ。」
「いえ、攻めてくるにしては攻め方が不自然です。もしかすると、裏があるのかも……。」
一方、後方で戦況を見ていた賊の親分は、顔を青ざめさせていた。
「……おい。」
「へ、へい。」
「俺達が聞いていた話と……何か違わないか?」
「……俺も、そう思います。」
「守備兵20人って話じゃなかったのか?」
「そうです。」
親分は砦を見上げる。
そこには、整然と銃を構える兵士たち。
そして、その中央には一人の男――カッツエが立っていた。
「……あれは誰だ?」
「と、とにかく今は撤退しましょう。命あっての物種です。」
「そ、そうだな。倍に出来なかったのは残念だが、実績は作った。全員逃げるぞ。」
「親分が真っ先に逃げてどうするんですか。」
「知らん。リディア嬢に追い詰めらないよう逃げ延びろ。」
賊が砦を攻めている頃——
「殿下、賊が北の砦への攻撃を開始したとの報告がありました。」
「そうか。」
シュヴァルツは地図を見ながら、薄く笑った。
「では、予定通り第2部隊を動かせ。」
「北の砦が落ちるかどうかを確認してからでも良いのでは?」
「構わん。」
「しかし、もし北の砦を落とせなければ……。」
「それでも構わんと言っている。」
シュヴァルツは北の砦を指差した。
「あそこを攻めれば、タリアンは必ず守備兵を集める。」
そして、少し離れた場所にある別の砦へ指を移す。
「その隙に、こちらを攻める。」
「なるほど……。」
「戦争とは、1つの策で全てを決めるものではない。失敗した時のために、第2、第3の手を用意してこそ成功するものだ。」
「さすが殿下です。」
「北の賊どもが全滅しようが、逃げ帰ろうが知ったことではない。」
シュヴァルツは冷たく笑った。
「ヤツらが一つの砦にタリアンの目を釘付けにしてくれるだけで、十分に役目を果たしている。それだけで十分よ。」
賊が撤退してから数分後——
「おい、本当に攻めるつもりはないんだな?」
守備隊長は不機嫌そうにカッツエに尋ねる。
「ええ。守備隊長含め、全員ここから一歩も離れないでください。」
カッツエの一言に守備隊長が確認する。
「お前はどうするつもりだ。まさか逃げるつもりではないだろうな。」
「私は他の砦を見てきます。その間の命令権は守備隊長、あなたにお任せします。但し、砦から打って出る事は禁止します。」
カッツエの命を聞いた守備隊長は機嫌が良くなる。
「人が倒れてお怖くなっちまったか。これだから素人は困る。戦闘は我々に任せておけば良いのだ。」
そんな中、1件の伝令が届いた。
「報告します!北東の砦が賊に襲撃されました!」
「しまった。やはり、北の砦は陽動だったか……。」
カッツエは頭を抱えると、守備隊長が真顔で告げた。
「お前は他の砦を見に行くのだろう。ここは我々に任せておけ。早馬くらいは用意してやる。」
カッツエは早馬跨がると、大急ぎで北東の砦に向かった。




