002.会談の失敗
「ようこそお越しくださいました。シュヴァルツ殿下。今日もいい天気ですわね。」
リディアは一瞬戸惑いながらも、シュヴァルツ殿下を奥の間に案内する。殿下は案内されるがままについてくる。しかし、リディアには一言も話さなかった。
(なんで国王ではなく、殿下が来るのよ。話が違うじゃない。)
「今日は殿下がおいでとは珍しいですわね。何年ぶりかしら。」
「いや、半年前に伺ったばかりですが。その際は、門前払いされましたので、ノーカウントですかね。」
「あ、失礼しましたわ。殿下も何かとお忙しい身で大変ですわね。」
「今日は、単刀直入に言う。我が国と不戦同盟を結んでいただきたい。」
「不戦同盟?軍事同盟ではなく?」
「そうだ。我が国は兵器については遅れはとっているものの情報戦では最先端だと自負している。自動追撃機を無効化することなど朝飯前だ。」
「それは凄いですわね。」
リディアは思わず前のめりになる。それを見たシュヴァルツは淡々と話と続けた。
「しかし、そなたの国では軍事兵器は最新鋭を取り揃えている。両国が争えばお互いの民が苦しむだけだ。お互いの繁栄のため、不戦同盟を結んでいただきたい。」
「そうねぇ、悪くない話ですが、見返りはあるのかしら。そもそも、私はあなたの国に侵攻する気はありません。ですが、あなたから提案してきた話をそのまま受け入れたとあれば私の立場がありませんもの。」
「んーっ、そうだな……。」
シュヴァルツはリディアに何を差し出せばよいか悩んでいるようだった。その様子を見たリディアはここぞとばかりに不良在庫の売り込みを始めようとした。
「では、こうしましょう。私どもの開発した軍需物資を——」
「いえ、我が国のマジック・アーツ感知システムをご提供します。」
「マジック・アーツ感知システムを提供してくれるの?」
「えぇ、ご希望とあれば今すぐにでも。システムの構築は1日もかかりません。」
リディアは、大いに喜んだ。
「素晴らしいですわ。ぜひ我が国にも導入をさせていただきますわ。」
「では早速手配の方させていただきます。ただ、システム提供および技術者の派遣料として、1億ミラを後ほど振り込んでいただきたい。」
「はあ?1億ミラを振り込めだと。」
「はい、無償提供するとは一言も言っておりません。それとも、あなた様ほどのお方が、先程の話は無かったことにするおつもりですか。」
(完全に嵌められた。カモにするつもりが、逆にカモにされてしまった。これほどの屈辱はないわ。)
「よろしければ、私どもの軍事物資を提供させて頂きたいのですが。」
「いえ、それには及びません。我が国の防衛システムがあれば侵攻を許しません。」
「それほど素晴らしい物なのですね。私は一度言ったことを覆すことはしないわ。進めてちょうだい。」
「では、早速手配させていただきます。」
(話が違う。シナリオでは売り逃げして大儲けするはずなのに。)
「ええ、お願いしますわ。」
「今日は、良い結果を持って帰ることが出来て、感謝いたします。てっきり、反対の結果になると思っておりました。」
(えっ……?前のリディアは戦争をするつもりだったのか。マジック・アーツ感知システムはデバッグ用のチートアイテムだぞ。そんな物を相手に勝負にならないだろ。)
「それにしても、随分と高度な技術をお持ちなのですね。」
「ええ、マジック・アーツ感知システムも日々アップグレードしています。近いうちに新バージョンが完成する予定です。ご提供するのは安定版ですが。」
「安定版と言うことは、古いって事ですわね。」
「平たく言えば、そうなりますね。」
(デバッグ用のアイテムがバージョンアップだと?自分の思っているアイテムとは別物なのか……。)
「素晴らしいシステムを購入できて、私も光栄ですわ。せっかくですので、夕食もご一緒させていただければと。」
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます。」
急に夕食を用意させたから、大したものは出ないだろう。前のリディアなら、こんな無理難題は日常茶飯事だったはず。なので、何の問題もないとリディアは思っていた。
暫くしてから運ばれてきた料理を見て、シュヴァルツは驚いた。
「こ……これは何という食べ物?」
シュヴァルツは混乱した様子でリディアに確認する。目の前にあるのは、今朝の残り物をパンで挟んだ物だった。
「サンドイッチですわ。こんな庶民的な食べ物を出してしまって申し訳ないですわ。」
リディアは庶民的な食事を提供するとは思ってもいなかったが、周りの反応は正反対だった。
「こんな料理は初めて見た。サンドイッチというのか。しかし、どうやって……。ナイフとフォークで食べれば良いのか。」
リディアはシュヴァルツの慌てた様子を見てクスッと笑った。
「そのままお口に運んでいただければ良いですわ。」
「こ……こうか。」
シュヴァルツは大きく口を開け、サンドイッチを口に頬ばる。
「う……うまい。こんなうまい料理は初めてだ。」
「お口に合ったようで何よりですわ。」
リディアはうまく取り繕ったが、内心は冷や汗ものだった。
「今日は有意義な一日だった。改めて礼を言う。特にサンドイッチとやらは、中々の美味だった。」
シュヴァルツは深々と頭を下げ、王城を後にした。
シュヴァルツが帰ったのを確認したリディアは大声で怒鳴った。
「誰なの?殿下にサンドイッチを提供しようとしたのは。よりにもよって、庶民的な料理を出すなんて。」
リディアの怒りぶりに周りは怯えているが、なぜか納得がいかない様子の者ばかりだった。
「お嬢さま、恐れ入りますが、我々は最高の料理をお出ししたつもりです。」
「最高の?どこが最高なのよ。」
「それは、この世になかった食べ物だからです。」
「はあ?サンドイッチなんて、どこにもあるでしょう。」
「いえ、少なくとも我々はパンに物を挟むなんて事はしません。」
「そ……そう。それなら仕方がないわね。」
リディアは、自分の過ちで世界が大きく変わっていることに気付くことが出来なかった。




