016.シュヴァルツの策略
数日後——
「タリアン王国の様子はどうだ。」
「動画は購入したようですが、何の動きも見受けられません。」
「ふーむ。もしかすると、警戒しているのかも知れん。」
「と言いますと……?」
「我々を嵌めたように、向こうも罠を張っているのではないかと警戒しているということだ。」
「では、次はどのような手を?」
「もう一度、動画を配信する。今度はフェイク動画だ。フェイクと本物を混ぜて混乱させろ。」
「なるほど。真偽を混ぜることで混乱を誘うという作戦ですな。早速用意させます。」
数日後——
「例の動画を作成いたしました。」
「どんな動画か確認させろ。」
「では、再生します。」
『ヴァイスの隠れた天才政治家
—シュヴァルツ殿下へ忠誠を誓う者たち—』
「…………。」
「これは、私を侮辱しているようにも見えるが、フェイク動画だよな?」
「はっ。映像そのものは、完全な創作でございます。」
「ならば、問題ない。」
「……はい?」
「重要なのは、内容が真実かどうかではない。」
シュヴァルツは、満足げに笑った。
「ヤツがこの動画を見て、何を真実だと思うかだ。」
「なるほど……。」
「我々が本物と偽物を混ぜていることに気付けば、ヤツは疑心暗鬼になる。何を信用していいのか分からなくなるだろう。」
「では、早速拡散を?」
「ああ。今度こそ、奴を混乱させてやる。」
数日後——
「お嬢さま、またもヴァイスから動画が拡散されているようです。」
「今度はいくらなのかしら?」
「それが、タダのようです。どうやら、流出動画のようで……。」
「なら、早速見てみましょう。」
動画を見たリディアは、クスッと笑った。
「お嬢さま、これは……。」
「フェイクですわね。」
「すぐに分かるのですか?」
「ええ。今回は本物と偽物が混ざっている可能性があります。向こうも趣向を凝らしてきましたわね。」
「では、どういたしますか?」
「何もしませんわ。」
「またですか?」
「ええ。」
「…………。」
「シュヴァルツ殿下は、私たちが疑心暗鬼になることを期待しているのでしょう。」
「そうでしょうね。」
「でしたら、期待通りに疑心暗鬼になったふりをして差し上げましょう。」
「一体どうやって……?」
「少し予定を早めますが、人事異動します。但し、お給金は当初の予定まで支払うことを約束しますわ。」
数日後——
「何?タリアン王国で大幅な人事異動があっただと。」
「はい、総入れ替えと言っても過言ではない状況です。」
「はははっ、遂にやったぞ。やっと、ヤツが動いたぞ!」
「我々の動画に反応したのですな!」
「あぁ、やはり効いている!動画の連中を疑っているのは間違いない。本物と偽物の区別がつかないから、手っ取り早く総入れ替えという手段にでたのだ。」
「なるほど。では、次の作戦に出ますか。」
「そうだな。次は信用できる人物と、信用できない人物を用意する。」
「どちらを選んでも、我々の工作員というわけですな。」
「その通りだ。」
シュヴァルツは満足げに笑った。
「ヤツは必ず、どちらかを選ぶ。」
「そして、選んだ人物を側近に取り立てる。」
「そうなれば、こちらの工作員を王国の中枢に送り込める。」
「完璧な作戦です。」
「今度こそ、あの女の逃げ道はない。」
数日後——
「お嬢さま。」
「何かしら?」
「ヴァイスから、また情報が届きました。」
「見せてちょうだい。」
「こちらが『信用できる人物』で、こちらが『信用してはいけない人物』だそうです。」
リディアは資料を眺める。
「…………。」
「どちらを選ばれますか?」
「こちらの方ですわ。中々見所のある男ですわ。」
「本当に?」
「ええ。」
「ですが、もしこちらがヴァイスの工作員だったら……。」
「その可能性は低いでしょう。」
リディアは微笑む。
「だって、ヴァイスが『選ばせたい人物』なのでしょう?その裏をかけばよろしくて?」
「…………。」
「なので、素直に裏を選んで差し上げればよろしいのです。」
数時間後——
「タリアン王国に潜伏していた者から報告が来ました!」
「何だ?」
「例の人物が、タリアン王国の側近に潜り込めたそうです。」
「そうか!遂にやったぞ……!」
「ついに、王国内部に我々の人間を送り込めた!」
「これでリディアの動向は筒抜けです。」
「ふふふ……。」
シュヴァルツは笑った。
「もう逃げられんぞ、リディア。」
その頃のリディアの執務室では——
「初仕事で申し訳ないですが、これをヴァイスのシュヴァルツ殿下へお届けになって下さるかしら。あなた自身でお届けになって下さいね。」
「はっ、急ぎお届けいたします。」
ヴァイスの工作員は、リディアの手紙をシュヴァルツへ届けるため部屋を出た。
「ふふふっ、これを見て、殿下はどう思われるかしら。」
「シュヴァルツ殿下、タリアン王国に潜伏した工作員が書状を持参しております。リディア嬢からだそうです。」
「何?」
シュヴァルツは警戒しながら書状を受け取る。
「……読ませてもらおう。」
そこには、短い文章だけが書かれていた。
『シュヴァルツ殿下へ。
この度は、素晴らしい人材をご紹介いただき、ありがとうございます。
彼には、これからも我が国のために働いていただくつもりですわ。
今後とも、よろしくお願いいたします。』
「…………。」
シュヴァルツの顔が固まる。
「……何だ、これは?」
側近も覗き込む。
「リディア嬢からの礼状……でしょうか?」
「そんな馬鹿な。」
シュヴァルツは書状を握りしめる。
「なぜだ?」
「殿下?」
「なぜ、こんなにもあっさりと受け入れた?」
「…………。」
「普通なら警戒するはずだ。ましてや、我々が提示した人間だぞ。」
シュヴァルツは工作員を見る。
「お前、何か怪しまれなかったか?」
「いえ。むしろ、非常に厚遇されております。」
「……本当に?」
「はい。」
工作員は答える。
「『あなたのような優秀な人材が来てくれて助かる』と。」
「…………。」
シュヴァルツは考え込む。
「まさか……。」
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「ヤツは、我々の狙いに気付いているのではないか?」
「では、なぜ受け入れたのでしょう?」
「それが分からん。」
シュヴァルツは頭を抱える。
「暫くは大人しくヤツに従っていろ。そして、報告を怠るな。」
「はっ、心得ました。」
「全く、ヤツは何を考えているのか全く読めぬ。」
シュヴァルツは、作戦が成功しているのか失敗しているのかが分からず、不安になった。




