015.謀られたと気付くとき
数日後のシュヴァルツの執務室——
「タリアン王国の様子はどうだ。」
「はい、それが以前に増して活気に溢れております。」
側近の言葉を聞いてシュヴァルツは大喜びした。
「そうだろうな。あとは、あの極悪令嬢が白旗を上げる時を迎えるだけだ。」
その一言を聞いた側近は慌てて訂正する。
「いえ、活気に溢れているのは、リディア嬢に対する活気です。殿下に対する忠誠は微塵にも感じられません。」
「なに?それはどう言う意味だ。ちゃんと説明しろ。」
「はっ。まずは貴族ですが、リディア嬢と結託していたようです。あの動画を作成する出演料として幾らか握らせたようです。そして、芋蔓式に増やしていった貴族もグルだったようです。」
「ふーむ、ヤツなら考えそうな事ではあったな。して、軍人の方は?」
シュヴァルツは少し眉間にしわを寄せた。
「軍も同様です。大佐に払った金は全て軍備強化に使われたとか……。」
「何だと?と言うことは、ヤツらの武力強化のために我らが喜んで援助をしたということになるではないか。」
「そのように考えても差し支えないかと思われます。」
「ぐぬぬ……。卑怯な真似をする小娘め。して、商人の方も同様なのか?」
「いえ、商人は少し違います。」
「はははっ、そうだろうな。ヤツらは金が第一だ。金さえ与えれば幾らでも操れる。」
シュヴァルツは、椅子に腰をかけて机をパンパンと叩いた。
「それが、商人たちは協力の意味を間違えて捉えたようで、『商売の協力をする』と勘違いしているようです。」
「何だと?もう少し詳しく説明しろ。」
「ヴァイス産の高級品を高値で売るのが協力と認識したらしく、協力関係は既に解消したと申したそうです。」
「ふーむ、『我々に協力する』としか言わなかったので、勝手に都合のいいように解釈してしまったというわけか……。っで、利益は回収したのだろうな。」
「それが、1ミラも回収出来ておりません。」
「なぜだ?協力なら、回収できない理由はないはずだ。」
「それが、タリアン王国で販売したため、90%の課税が復活したそうです。残りの10%は海外産無許可販売による罰金を課せられたので、売上はゼロだとか。」
「…………。」
シュヴァルツは眉間にしわを寄せ机をバンッと叩いた。
「全てヤツの仕業ではないか。課税も本当に課しているとは思えん。」
「では、そのように装っているとでも。」
「あぁ、その可能性が濃厚だ。だが、さすがに文官は問題ないだろう。」
「それが……」
と側近が続ける。
「殿下から提供された行政制度について、文官たちが大変感謝しているそうです。」
「そうだろう!」
シュヴァルツは大喜びした。
「ただし、その制度をそのまま採用するのではなく、タリアン王国の実情に合わせて全面的に改良しているようです。」
「…………。」
「殿下からいただいた知識のおかげで、以前から問題になっていた行政上の欠陥がいくつも発見されたそうです。」
シュヴァルツが固まる。
「つまり、我々が教えた行政知識によって、タリアン王国の行政能力が向上しているということか?」
「……そのようです。」
「いや……まだだ。」
「殿下?」
「これだけ偶然が重なるはずがない。だが、まだ証拠がない。」
「…………。」
「ならば、こちらも謀ってやる。」
「……と言いますと?」
「こちらは本物の動画を公開するのだ。今ならフェイクだと疑ってかかる。必ず、裏をかいてくるはずだ。そこを絡め取る。」
「な……なるほど。しかし、本物の動画を流すのは危険ではありませんか。内部事情をさらけ出すようなものです。」
「ふふふっ、この動画を流すのは、タリアン王国だけよ。タリアンとは不戦同盟を結んでいる。つまり、武力行使は出来ないわけだ。」
「なるほど、サフィシェント計画を上手く利用するわけですね。」
「そうだ。動画公開で時間と資金を稼ぎ、その間に軍備強化する。」
「では、動画作成とサブスクの準備をして参ります。」
「待て。サブスクにすると、ヤツの二番煎じと思われる。ここは、単品販売にする。ヤツが欲しがりそうな動画を高値で売りつけるのだ。」
「分かりました。早速準備いたします。」
それから数日後——
「例の動画が完成したようです。」
側近がシュヴァルツに報告する。
「そうか、早速見せてみろ。」
「はっ。」
『ヴァイスの裏事情
— 闇市場の活性化に伴う歳入の増加 —』
「…………。中々ブラックな内容だな。だが、本当に起こっているとは誰も思うまい。」
「動画の登場人物も本物を使用しております。なので、正真正銘本物の動画でございます。」
「馬鹿者、そのまで再現しなくても良いわ。だが、これを見ればフェイクと思うはずだ。必ず、何か行動してくるはず。」
「よし、これをタリアン王国で販売しろ。裏ルートで流れてきた闇動画として販売すれば、ヤツは買うはずだ。」
数日後——
「お嬢さま。どうやら、国内でヴァイスの闇動画が販売されているようです。」
「あら、そんな面白い物が流れているんですね。」
「いかがいたしますか?」
「そうね、相手の手を読むのに好都合ですわ。買ってさし上げなさい。」
「はっ、早速手配いたします。」
数時間後——
「これが例の動画ですか。中々趣向を凝らした面白い動画でしたわね。」
「お嬢さま、これは流石にリアルすぎます。フェイク動画ではないでしょうか。」
リディアは暫く悩んだ後、手をポンと叩いて頷いた。
「これは本物ですわ。私たちがフェイク動画を流しているので、同じようにフェイク動画を流していると思わせるためでしょう。」
「では、なぜ態々そのようなことを。」
「考えてもみなさい。タリアン王国とヴァイスは不戦同盟を結んだという体になっています。つまり、お互いに武力行使は出来ない。」
「では、侵攻するには内部から裏切り者を出させるしかないと言うことですか。」
「そういう事です。つまり、私たちが裏でヴァイスの人間と接触するのを狙っているのでしょう。」
「では、シュヴァルツ殿下がやった事を、そっくりそのまま我々にやらせようとしていると?」
「そういう事ですわ。なので、何も行動してはなりません。」
「なるほど……。恐れながら、お嬢さま。先程、不戦同盟を結んだという『体』になっていると仰ったのは……?」
「ふふふっ、それは後のお楽しみですわ。その種明かしは、最後のデザートとして残しておきなさい。」




