014.尽きかける資金
ここは、シュヴァルツの執務室——
「恐れながら申し上げます。」
ヴァイスの側近が困った様子で報告する。
「どうした?何か問題でも起こったのか?」
「いえ、実は例の感知システムで得た1億が底を尽きそうな状況です。」
「なぜだ?内訳を説明しろ。」
「それが……、例のサブスクで4000万ミラ、先程の軍への支払いで5000万ミラとなっており、残り1000万ミラという状況です。」
「と言うことは、懐を痛めずに攻略するには、1000万ミラしか残っていないという訳だな。」
「はい。」
「ふーむ、強硬手段に出るのも止む無しという状況だな。よし、文官は後回しだ。次は商人を落とすぞ。商人は利益に忠実だ。簡単に落とせる。」
「では、金を提示しますか?」
「いや。」
シュヴァルツは首を横に振った。
「金ではなく、もっと価値のあるものを渡す。」
「価値のあるもの……ですか?」
「ああ。」
側近が首を傾げる。
「商人というものは、金を金のまま受け取るより、商品を手に入れた方が喜ぶものだ。」
「なるほど。」
「ヴァイスでしか手に入らない希少品を渡せばいい。」
シュヴァルツは自信満々に笑った。
「それを使って商売をすれば、莫大な利益になる。」
「では、その商品を餌に協力を取り付けるのですね。」
「そういうことだ。」
そして商人との面会——。
「こちらが、我が国でも入手困難な商品だ。」
目の前に置かれた箱。
蓋を開けると、ヴァイス産の高級品が並んでいる。
商人の目が輝く。
「こ、これは……!」
「価値が分かるようだな。」
「もちろんです!」
商人は商品を一つ手に取る。
「これだけの品質なら、王都で売れば……。」
「どうだ?」
シュヴァルツが笑う。
「これらをお前に提供しよう。」
「本当に?」
「ああ。」
「…………。」
商人は黙り込む。
「条件は一つ。」
「何でしょう?」
「我々に協力することだ。」
商人は少し考えた。
そして――
「分かりました。」
「よし!」
シュヴァルツは満足そうに笑った。
「では、その商品は持って帰るといい。」
「ありがとうございます。」
商人は深々と頭を下げた。
そして商品を受け取る。
数時間後——
「殿下! 例の商人と連絡が取れません!」
「何だと?」
「屋敷にもいません!」
「市場にも?」
「はい!」
「では、商品は?」
「すべて持ち逃げされたようです!」
「…………。」
「徹底的に調べ上げろ。逃げるとは許さん。」
その頃、リディアの執務室では——
「これがヴァイスの殿下からいただいた物です。どうしたら良いか分かりかねるため、ご相談したく……。」
例の商人はリディアに相談を持ちかけていた。
「なるほど。これは、あなたの物です。好きなようにすると良いですわ。」
「しかし……私は、ヴァイスの殿下に協力すると申し上げました。これを持って逃げたとなれば、約束を破ったことになるのでは……。」
「まあ、何を心配しているのです?」
リディアは不思議そうに首を傾げた。
「あなたは『協力する』と約束したのでしょう?」
「はい。」
「でしたら、何も問題ありませんわ。」
「…………?」
「その商品を売って、ヴァイスの商人たちと取引を広げて差し上げればよろしいのです。これは、取引を広げる『協力』です。」
「……なるほど。」
「殿下との約束は破っておりませんでしょう?」
「確かに……。」
商人は納得したように頷いた。
「では、ありがたく使わせていただきます。」
そして数日後——
「あの商人の行方は分かったのか?」
「どうやら、王都の別の商人と取引しているようです。」
「なぜだ?」
「どうやら、我々から受け取った商品を元手に荒稼ぎを始めたようで……。」
「ふふふ……なるほど。我々から受け取った商品を売って利益を得ているのだな。つまり、我々との取引を望んでいるということだ。」
シュヴァルツは声高らかに笑った。
「これで我々への忠誠も、さぞ深まったことだろう。」
すると側近が、
「ただ……。」
「何だ?」
「利益の全ては、商人の懐に入っているようですが。」
「当然だ。」
「……よろしいのですか?」
「商人とはそういうものだ。利益を与えれば、必然的に関係を維持しようとする。何も問題はない。」
「なるほど……。」
「これで、商人も落ちた。次は文官を落とすぞ。」
「しかし殿下、もう金がありません。」
「金など必要ない。」
「では、何を餌にするのですか?」
「……知識だ。」
「我々の行政制度を見せてやればいい。タリアン王国の文官は、現在の政治に不満を抱いている。効率的な行政制度を見せれば、必ず興味を示す。」
「なるほど……。」
そして、文官との面会——。
「これがヴァイス王国の行政制度だ。」
「…………これは、興味深い。」
「こちらの制度を導入すれば、地方行政にかかる人員を減らせる。」
「なるほど……。」
「さらに、この統計処理方法を使えば税収の予測精度も上げられる。」
文官が食いつく。
「この制度について、もう少し詳しく教えていただけますか?」
「もちろんだ。」
「こちらの部署は、どのような権限を持っているのでしょう?」
「それは――」
「予算配分は?」
「…………」
と質問を続ける。
シュヴァルツは、熱心に質問コーナーを続ける文官たちを見て、自国の制度を高く評価していると感じた。
「これで貴族、軍人、商人、文官……すべてこちらの手中だ。タリアン王国は、もう終わりだ。」
数日後——
「お嬢さま、文官から行政改革のお願いが届いております。」
「どうしてですの?」
「どうやら、ヴァイス側から行政制度について大量の情報を提供されたそうです。」
「まあ。」
「しかも、こちらから質問するたびに、向こうが嬉々として説明してくれたとか。」
リディアが少し黙る。
「……ふふっ。」
「お嬢さま?」
「シュヴァルツ殿下は、本当に親切な方ですわね。」
「…………。」
「こちらから尋ねてもいないことまで教えてくださるなんて。」
「つまり……?」
「ヴァイス王国の行政制度が、かなり見えてきましたわ。」
「はい。」
「では、次の段階へ進みましょう。」




