010.編集された心理
翌日。リディアは、ヴァイスに目を付けられた者たちを王城へ呼び寄せた。
「皆さんにお願いがありますわ。」
集まった貴族、軍人、文官、商人たちは、困惑した表情でリディアを見る。
「これから簡単なインタビューをいたします。私が質問しますので、こちらが指定した内容で答えてください。それだけですわ。」
一人の貴族が眉をひそめた。
「……本当に、それだけでいいのか?」
「ええ。」
リディアはにっこりと微笑む。
「もちろん、嫌でしたらお断りいただいて構いませんわ。」
「報酬は?」
商人が尋ねる。
「ご希望の額をお支払いいたします。」
「……こちらの言い値で?」
「はい。」
商人は少し考えた後、笑った。
「だったら、やるぞ。」
「私も構わん。」
「私もだ。」
こうして、リディアによる新たな「フェイク映像」の撮影が始まった。
もちろん、映像そのものは偽物ではない。
カメラは本物。出演者も本人。発言も本人の声によるものだ。
ただし――
何を言わせるかだけは、リディアが決めていた。
まずは貴族。
「ヴァイス王国との経済協力について、どうお考えですか?」
「……ヴァイスとの協力も、悪くないと思っています。」
次に軍人。
「ヴァイスから軍事的な支援を受けることについては?」
「条件次第では、協力を検討してもよいでしょう。」
文官には、
「現在のタリアン王国の政治について、率直なご意見を。」
「……正直、タリアン王国の政治にはうんざりしています。」
そして商人。
「ヴァイス王国との交易についてはいかがでしょう?」
「ヴァイス市場には、以前から興味があります。」
一通り撮影を終えると、側近が映像を確認した。
「お嬢様……見事なものですね。」
「そうでしょう?」
「しかし、これは本当に大丈夫なのですか?」
「何がですの?」
「皆さん、確かにお嬢様の指示通りに発言しています。ですが、実際にはヴァイスに協力するつもりなどありませんよね?」
「もちろんですわ。」
リディアは当然のように答えた。
「皆さんには、こちらの撮影に協力していただいただけですもの。」
「では、この映像をヴァイス殿下が見たら……」
リディアは完成した映像を眺めながら、楽しそうに微笑んだ。
「きっと、こう思うでしょうね。」
そして、シュヴァルツの真似をするように低い声を作る。
「やはり、我々の工作は成功している!」
側近たちは思わず吹き出した。
「ふふっ……。」
リディアも楽しそうに笑う。
「では、これを送って差し上げましょう。」
場所が変わって、ここはシュヴァルツの執務室——
『ダイヤモンド会員のご契約ありがとうございます。
最新動画公開のお知らせです。
本動画は2分間のサンプルつきです。ご購入いただくと全ての動画をご視聴いただけます。
【タリアン王国に不満を持つ人たち】
王国に対する不満を持った人たちに独自インタビュー』
「…………。」
「この動画は本物だろうな。」
「さ……さぁ、見てみないことには何とも言えません。」
「サンプルがあるようだから、早速見せてみろ。」
「はっ!」
技術者が動画を再生する。
『ヴァイス王国との経済協力について、どうお考えですか?
……ヴァイスとの協力も、悪くないと思っています。』
サンプルはここまでのようです。
「どこかに録画に使ったカメラがあるはずだ。改竄されていないか至急確認しろ。」
「はっ!」
数時間後——
「改竄の確認が終わりました。録画内容を編集した痕跡は見付かりませんでした。」
「と言うことは、本物ということだな。」
「そう考えても差し支えないかと。」
「よし、早速購入しろ。今度こそ出し抜いてやる。」
「恐れながら申し上げます。態々買わなくても、カメラの映像を盗めば良いのでは?」
「何を言うか。映像を盗んだ事がヤツらに知られてみろ。それが原因で外交問題に発展した方が面倒だ。だから、監視の行き届くバックドアから侵入しているのではないか。」
「そ……そうですね。私の考えが足りませんでした。直ちに購入して参ります。」
さらに数時間後——
「例の動画を入手いたしました。早速再生します。」
「おう、早く再生しろ。どんな内容か考えただけでもゾクゾクするわ。」
貴族——
「ヴァイス王国との経済協力について、どうお考えですか?」
「……ヴァイスとの協力も、悪くないと思っています。」
軍人——
「ヴァイスから軍事的な支援を受けることについては?」
「条件次第では、協力を検討してもよいでしょう。」
文官——
「現在のタリアン王国の政治について、率直なご意見を。」
「……正直、タリアン王国の政治にはうんざりしています。」
商人——
「ヴァイス王国との交易についてはいかがでしょう?」
「ヴァイス市場には、以前から興味があります。」
「…………。」
「みろ、どいつも我が国に協力すると言っているぞ。」
シュヴァルツは高笑いしながら喜んだ。
「ですが、工作員の話では、誰一人賛同しなかったとの事ですが。」
「時間が経って、心理的に協力する方へ揺れてきたのだろう。もう一押しすれば必ず崩せる。」
「しかし殿下……『協力する』とは誰も言っておりません。」
「だからこそだ。言葉の裏を読み取ってみろ。明確に『協力する』と言えば、タリアン王国に反逆者として捕らえられる可能性がある。だから彼らは、あえて曖昧な表現を使っている。つまり、彼らは我々に期待しているのだ。」
「な……なるほど。」
「やはり、我々の工作は成功している!」




