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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第二章 アインホルン聖国の神学校

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入学式

 神学校の制服に袖を通す。

 袖や裾には精緻な模様が入っていて、着るとずっしりとした重みを感じる。

 機動性を重視した騎士の装いとは大違いだ、なんて思ってしまった。

 袖口には太陽をモチーフにした刺繍が入っていた。

 所属寮が制服を見ただけでわかる仕様になっているようだ。

 なんとか着こなせただろうか。

 姿見がないのでいまいち自信がないのだが。


 パウウルは途中で、着方がわからないと騒ぎだす。

 手伝ってあげようとしたら、その前にヴェーバー家の三つ子の長男、フィンがパウウルのもとへやってきていたようだ。


「ここをこうして、こう着込む」

「おお、そうだったんだな! さすが、織物職人の息子だ――じゃなくて、お前の面倒見がいいんだな」


 きっとこれまで弟達の世話もしていたのだろう。しっかり者に育つわけだと思った。


「パウウル、準備はできましたか?」

「ああ、フィンのおかげでな!」


 制服姿がさまになっている。

 フィンとヘィン、ホィンも似合っていた。

 カーテンの外へ出ると、待っていたパウウル達が私をじっと見つめる。


「あの、何か変なところでもありましたか?」


 一階にある洗面所に行かないと、姿見はない。

 どこかおかしかっただろうか、なんて思っていたらホィンが顔を真っ赤にしながら褒めてくれた。


「と、とても似合っている! すごい!」


 ヘィンもこくこくと頷いていた。

 フィンも絶賛する。


「この服は着るのが難しいと思っていたんだけれど、君はとても着こなしが上手いね!」


 パウウルからは「舞台俳優みたいだ」と言ってもらう。


「舞台って言ってもお祭りのときに外でやってるやつしか見たことないけれど、俳優に負けないくらいかっこいいぜ」

「私にはもったいないお言葉です」


 そんな言葉を返すと、さすが貴族様、優雅だ……! なんて言われてしまった。

 まさかここまで褒めてもらえるとは。騎士隊で毎日制服を身につけていたからだろうか。

 何事をするにも、無駄になることはないのだな、と思ってしまった。

 そんな会話をしているうちに、廊下から寮母の声が聞こえる。


「あなた達、急がないと、入学式に遅れるわよ!」


 フライパンをカンカン鳴らしながら、急かしてくれる。


「行こうか」

「だな!」


 入学式が行われるのは、神学校のシンボルとも言われている礼拝堂だ。

 急いで向かっていると、私達の前を横切る生徒がいた。

 純白の制服の裾を、はらはらと優雅になびかせながら歩く姿。

 銀色の髪にアメシストみたいな澄んだ紫色の瞳を持つ、神秘的な男性。

 手足がすらりと長くて、本当にこの世に存在しているのかと疑いたくなるくらい綺麗だった。


「月寮の生徒だ……!」


 フィンがぽつりと呟く。袖口に刺繍されている月模様に気付いたようだ。

 歩みを止めて道を譲った。

 彼らは颯爽さっそうとした様子で、礼拝堂のほうへと向かっていく。


「あれ、制服の色が違うけれど、上級生なのか?」

「さあ?」

「しかし、違う生き物みたいにきれいだった」


 パウウルの言葉に、ヘィンとホィンもこくこくと頷く。


「なんか別の次元を生きているみたいだな。羨ましくなる」


 たしかに、そういう印象があった。堂々としていてかっこいいと思ってしまう。


 礼拝堂前に、クラスの振り分けが書かれていた。

 私はホィンと同じクラスだった。


「アルヴィが一緒のクラスなんだ。よかったぁ」


 ホィンは人見知りをするようで、クラスで上手くやれるか不安だったらしい。

 そんなホィンの緊張を解そうとしたのか、ヘィンがポケットに入れていた虫を見せる。

 するとホィンは絶叫しそうになるも、フィンが寸前で口を押さえて事なきを得た。


「二人とも、頼むから大人しくしていてくれ」


 そんな三つ子の様子を見ていたパウウルが、「兄弟仲がよくていいなあ」なんて呟いていた。


 クラス毎に列を作り、上級生の祝福の賛歌に合わせて入場するようだ。

 私とホィンは三組で列に加わる。ひとクラス五十人もいるので、かなりの大行列となっていた。

 成績順に並ぶようだが、ホィンは私の後ろだった。列の順番を見る限り、クラスの中でも真ん中よりやや上くらいの成績だったらしい。試験には自信があったのだが、点数以外での審査があったのかもしれない。

 列の前方に、先ほど見かけた白い制服姿の生徒がいた。

 あの制服を着ているのは上級生ではなく、月寮の生徒達のようだ。

 まさか寮ごとに制服が違うなんて。凝っているな、としみじみ思った。


  一組にはパウウルとフィン、二組にはヘィンがいる。

 ヘィンは私達のほうを見ながら変な顔をして、笑わせようとしていた。

 笑いたくなるのを我慢するあまりお腹が痛くなるので、勘弁してほしい。

 ホィンはぶるぶる肩を揺らしていたが、もしも笑いそうになったらフィンがしていたように口を塞がないといけないな、なんて思ってしまった。


 礼拝堂の鐘が鳴り響く。

 近くで聞くと、より迫力を感じる。

 ホィンは大きな音が苦手だからか、耳を両手で塞いで泣きそうな顔になっていた。

 そんな彼に大丈夫だからと声をかけておく。

 すると、ホィンは小さな声で「アルヴィ、お母さんみたい」と言われてしまった。

 自分と同じ十九歳の子を持ったつもりはなかったのだが……。


 上級生の賛美歌が聞こえてきた。

 一組から入場していく。

 いたずらっ子でお調子者のヘィンも、式典が始まれば真面目な表情で挑むようだ。

 ホィンは転ばないか心配していたようだ。大丈夫だと励ましておく。

 ついに私達が入場する出番だ。真っ赤な絨毯が敷かれた礼拝堂を歩いて行く。

 入ってすぐに、巨大なステンドグラスが目に飛び込む。

 片手に槍のような十字架を持ち、背中に漆黒の翼を持つ美男子の姿が描かれていた。

 地面は赤く、空には月が高く昇り、美男子は太陽を踏みつけている。

 不思議な構図だと思いつつ、まじまじ見つめてしまった。

 祭壇を囲むように、神父様が並んでいる。

 ブラザー・マテオの姿も発見したからか、自然と背筋が伸びてしまった。

 後方の席には上級生がいて、新入生は前方の席に座るようだ。

 ちょうど前の席に、先ほど見かけた銀髪の青年の姿を発見する。

 どうやら同じクラスだったらしい。

 銀の髪は信じられないくらいさらさらで、透けるような白い肌はどんな手入れをして保っているのか。聞いてみたくなる。

 なんて思っていたら、いきなり彼が私を振り返ったのでギョッとする。

 目が合うと、ジロリと睨むように見てきた。

 心の声を読まれてしまったか! なんて思ったが、そんなことはないのだろう。

 きっと私の視線を感じて、背筋がゾッとしたのかもしれない。

 敵意はないですよ、とアピールするためににっこり微笑んでおく。

 すると、ぷいっと顔を逸らしたのだった。


 最後に登場したのは、神学校の校長であるジャンフリード・フォン・シャルロード。

 年齢は四十代半ばくらいだろうか。

 美貌の中年という言葉が相応しい、品のある顔立ちをしていた。

 シャルロード校長は入学生達に神の教えを説き、清く正しい聖職者になるように祈りを捧げてくれた。

 続いて上級生の挨拶が行われる。

 眼鏡をかけていて神経質そうな雰囲気の、生徒長が歓迎の言葉を読み上げた。

 続いて、新入生代表の挨拶が行われる。

 新入生代表の挨拶を担うのは、成績上位者だという。

 しかしながら今回は二名、同じ得点を取った生徒がいたらしい。


「一人は一組のヨハン・フォン・ドライヤー君、もう一人は三組のユリウス・フォン・アイスフェルト君」


 どうやら私の前に座る青年は、ユリウスというらしい。

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