ホームルームにて
「代表して、新入生代表の挨拶は一組のヨハン・フォン・ドライヤー君!」
首席が二人いる場合は、片方が代表挨拶を担うらしい。
指名された新入生代表は一組なので、祭壇からもっとも近い位置に座っていた。
ヨハン・フォン・ドライヤーはすらりと高い背に、まっすぐ伸びた背筋が印象的な青年だった。
祭壇の前に立つと、黒髪に赤い瞳を持つ、凜々しい青年だということがわかる。
彼はまっすぐ座席のほうを見ながら、立派に代表挨拶をこなしていた。
「続いて、神学校の生徒なる証、十字架飾りの授与を行う」
神学校の生徒である証である十字架飾り――。
手のひらよりも大きくずっしり重たいそれは、修行中だと示す枷という意味でもあるという。
シャルロード校長がベルベットが内張りされたケースから、十字架飾りを取りだす。
中心に真っ赤な宝石があしらわれており、十字架やチェーンは銀でできているように見えた。
あのような高価な品を首から提げておかなくてはならないとは。
二年間、耐えきれるだろうかと心配になる。
「新入生を代表して、ユリウス・フォン・アイスフェルト君、前へ!」
今度は彼が代表を務めるらしい。
シャルロード校長は頭を垂れるユリウスに、十字架飾りをかける。
振り返った彼の姿は宗教画のように耽美で、あまりにも美しかった。
誰もが、彼の姿に見とれていただろう。
立派な体躯を持ち、生命に溢れるような、太陽みたいなヨハン。
繊細で麗しく、今にも消えてしまいそうで儚い、月のようなユリウス。
首席コンビは対照的だと思った。
そのあと、新入生全員に十字架飾りが配られた。
木箱を開くと、中に入っていたのはくすんだ青い石があしらわれた物が納められている。
ユリウスの十字架飾りは銀のようにきらめいて美しかったのに、私のは銀鍍金に似た何かを塗って仕上げた物のようにしか思えない。
これはいったい――?
ホィンも不思議そうに十字架飾りを眺めていた。
けれども周囲を見渡す限り、違和感を覚えている者はごくごく一部のようだ。
私は思わず、ホィンと顔を見合わせる。
中心の青い石も、軽くコツコツ叩いてみたが宝石だとは思えない。
もしやガラス玉なのでは? なんて思ってしまう。
どうしてこうも、造りが違うのだろうか。
前にユリウスが座っていて、首元にチェーンが輝いているので、比べてしまう。
明らかに別物だろう。
戸惑っていたら、いつの間にか新入生の退場が始まっていた。
慌てて十字架飾りを首から提げておく。
枷になるような重さなんてまったくなく、これでいいのか、なんて思ってしまった。
そのまま教室まで案内される。
先導して歩くのは、ブラザー・マテオだった。
まさか彼が担任なのか。
なんて思っていたら、まさかの大正解だった。
彼はともに教室に入ってきて、担任だと自らを名乗る。
教室は広く、後方の席でも黒板が見えるよう、席は階段のようになっていた。
テーブルは二人で一つを使うようになっているようだ。
すでに席順は決まっているらしく、成績順とは違う並びらしい。
ホィンが不安そうな顔をしながら、前列の席に座っていた。
私は三列目の端っこの席だったのだが――隣にユリウス・フォン・アイスフェルトのが座っていたのでギョッとする。
彼も私に気付くと、片眉をピンと跳ね上げる。
「あの、初めまして。アルヴィ・フォン・バルテルです」
無視されるかも、と思っていたが――。
「ユリウス・フォン・アイスフェルト」
ぶっきらぼうだが反応してくれたので、ホッと胸を撫で下ろした。
席に座るも、なんだか落ち着かない。
隣に芸術品のような美貌がちらついているからに違いない。
そうこうしているうちに、ホームルームが始まる。
ブラザー・マテオが登場し、一人一人点呼を始めた。
五十人もいるとなると、一苦労だろう。
ただミサなどで声を出すことには慣れているのだろう。
ブラザー・マテオはスラスラと挙げ、最後の一人まできっちり読み上げた。
「まず、皆に伝えたいことがある。一人一人、十字架飾りを配ったかと思うが――赤い石が付いている者を優等生とし、青い石が付いている者を劣等生とする」
それを聞いたクラスメイト達は、自らの十字架飾りを手にし、呆然としているようだった。
けれどもその行動を見せているのは、青い石が填め込まれた十字架飾りを持つ劣等生だけ。
優等生は実に堂々としている。
私はエルヴィンから事前に聞いていたので、やはりな、という感想しかなかった。
ユリウスはさぞかし涼しい顔をしているだろう。
そう思っていたのだが……なぜか彼も劣等生に混ざって驚愕の表情を浮かべているではないか。
いったいどうして彼も驚いているのか。
わからなかった。
それはそうと、神学校側は徹底的に優等生と劣等生を区別しているようだ。
所属寮から制服、十字架飾りまで、差別と言っても過言ではないくらいの、優等生の優遇っぷりである。
たしか、優等生に選ばれるのは、アインホルン聖国の上流階級出身の貴族だとエルヴィンが言っていたような。
クラスにいる五名の優等生を確認してみる。
皆、佇まいが洗練されていて、余裕たっぷりな雰囲気である。育ちのよさをこれでもかと放っていた。
一方、劣等生は年齢よりも幼く見えるというか、安定安心の男子感があった。
貴族と庶民――優等生と劣等生の違いと言えばそれに尽きるのだろう。




