オブリガシオン王国にて
まさかエルヴィンがセシリアの夫に選ばれるなんて。
ホッとしたような、脱力したような。
アインホルン聖国の神学校に入学してまで、セシリアの王配を探しにいったのに……。
まあでも、私がアインホルン聖国に行かなければ、エルヴィンはこの国にやってこなかった。
終わりよければすべてよし、ということにしておこう。
「それで、一緒にいる彼はどなた?」
「彼は――ユリウス。神学校のクラスメイトで」
ユリウスは一歩前に出て、自らを名乗った。
「女王陛下、お初にお目にかかります。私はユリウス・フォン・アイスフェルト。アインホルン聖国のエーデル公爵家の者です」
「ユリウス・フォン・アイスフェルト――話はアルヴィエから聞いているわ」
ユリウスはどういうことなのか、という目で私を振り返る。
オブリガシオン王国まで連れてきてしまったのだ。
洗いざらい、彼に事情を話さないといけない。
「少し、彼と話す時間をいただいてもいいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
セシリアに伝えるべきことは山のようにあるものの、まずはユリウスに打ち明けないといけない。
私がなぜ、アインホルン聖国の神学校に入学し、ユリウスのことについてセシリアに報告していたのかと。
◇◇◇
突然オブリガシオン王国に連れてこられたユリウスは、思っていたよりも冷静だった。
「まさか兄はあの男のもとにいたとは……」
ラウル枢機卿を生き返らせるための素材として、屋敷に亡骸があったという。
「事件の翌日に、私はあの男の家に来るよう命じられたのだ」
ユリウスの意思で、校長の屋敷に向かったわけではなかったという。
「口封じが目的だったのだろう」
校長の屋敷で飲んだ茶に睡眠薬が混入されていたようで、ユリウスはすぐに気を失ったという。
「アルヴィがこなければ、今頃私はこの世にいなかっただろう」
すぐに行動に移してよかった、と心の奥底から思う。
「アルヴィが探していた者は」
「校長と共にいた男性です」
「そうか」
ラウル枢機卿は火に飲まれ、校長共々亡くなってしまった。
今頃アインホルン聖国は大騒動になっているだろう。
私の事情についても、打ち明けないといけない。
「その、何から説明すればいいことなのか」
まず、もっとも重要なことから告げる。
「私はアインホルン聖国の者ではありません。名前も仮のものです」
「知っている」
「え!?」
「私達は一度、この国で会っている」
「――!?」
一瞬、息が止まるかと思った。
ユリウスと会ったことがあるだって?
「いつ、どこで……その……」
「きっと覚えていないだろう。互いに子ども、また私は女の格好をしていた」
さらに驚いてしまう。
「母の遺骨を持って、オブリガシオン王国に行った話をしたことがあっただろう?」
「え、ええ」
「あのときだ」
私とユリウスが十一歳くらいの話だという。
「私は兄とはぐれ、首都で迷ってしまった」
人込みに呑み込まれただけでなく、ユリウスは怪しい男から誘拐されそうになったらしい。
「そんな私を助けてくれたのが、アルヴィだった」
「わ、私……!?」
なんでも騎士ごっこをしていた十一歳の私が、誘拐されかけたユリウスを救ったという。
そういえば、子どもの頃にそんな遊びをしていたような気がする。
兄の服を着て、木の剣を振り回し、街中に繰り出していたのだ。
私の黒歴史である……。
「名前を聞いたのだが、名乗る者ではない、と言って去っていったのだが、兄君らしき者が〝アルヴィ〟と呼んでいたので、覚えていた」
まさかの出会いに、頭を抱えてしまった。




