これも愛
十字架飾りを刺した傷口から、大量の黒い液体が噴き出てきた。
あれが、吸血鬼たる彼らの〝血〟なのだろうか?
「アルヴィ、魔法が解けてる!」
触れただけで呪いがかかるという、おぞましい魔法が消えているという。
バルコニーへ繋がる扉を開いて外に出る。
すると、上空に黒い雲が渦巻き、中心に暗黒の魔法陣が浮かんでいた。
「なんだ、あれは……!」
ユリウスの疑問に答えたのは校長だった。
「……暗黒竜を召喚した! 私が傷ついたら、魔法が発動する仕組みだった」
「なっ!?」
暗黒竜というのは魔王の手先で、最低最悪の化身である。
勇者や聖女でさえ、暗黒竜相手に苦戦したという伝承が残っているのに……!
被害はここの屋敷だけに留まらないだろう。
「いったいどうしてそこまでするのですか?」
「すべてはラウルのため! 彼と共に、平和な世を生きる――かっ!?」
突然、校長の心臓に聖なる剣が突き出てきた。
「え!?」
意表を突かれ、驚きの声をあげてしまう。
「な……なぜ……!?」
校長が振り返る。
その先にいたのはラウル枢機卿だった。
ミイラのような姿になり、死んでいると思われていた。
けれどもなんらかの延命処置が行われていたのか。
ラウル枢機卿は生きていたのだ。
老人のようにしわくちゃな状態になったラウル枢機卿は、私達に訴える。
「に……にげ、ろ……!」
今のうちに、という言葉は空気みたいにヒューヒュー鳴るばかりだった。
口の動きだけで、察することができたのである。
いつの間にか、火の手が三階まで伸び、広いフロアまで迫っていた。
ラウル枢機卿は校長を抱き、火の海へ誘う。
「おい、止めろ! 私はまだ!」
「――」
ラウル枢機卿が何か耳元で囁いたのだろう。校長は抵抗しなくなる。
彼らを気にしている場合ではない。
暗黒竜を召喚する魔法陣は消えてなくなっていた。
ラウル枢機卿は全力で校長を止めてくれたのだろう。
彼の行動を無駄にしてはいけない、一刻も早く脱出しなければ。
ただ、ここは三階。どうやって脱出すべきか。
なんて考えていたら、父から預かっていた竜笛を思い出す。
懐から取りだして思いっきり吹いた。
すると、ワイバーンが召喚される。
「ユリウス、あの子に乗って脱出しましょう」
「ああ!」
神学校に戻るつもりだったが、ワイバーンが飛んでいったのは遠く離れた祖国。
気付けば、オブリガシオン王国に戻っていた。
どうしようか。
ユリウスをオブリガシオン王国に連れてきてしまった……。




