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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第五章 すべての謎が繋がるとき

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特別な

 ヨハンと来るつもりだったのに、一人で校長を前にすることになるなんて。

 緊張するが、しっかり情報を聞き出さないといけない。


「ヨハンから話を聞いている」


 どうやらヨハンは、ユリウスについて話をしてくれていたらしい。


「ヨハンが君を兄弟ブリューダーに望んでいるようだね」

「いえ、その件は……」


 私はユリウスの兄弟ブリューダーだ。関係は今も続いている。

 ヨハンの申し出を受けることはできない。


「どうやら君は、〝神の涙〟と呼ばれる存在らしい」

「神の涙、ですか?」

「ああ。我々にとって大きな力をもたらし、千人に一人もいない希有な存在なんだ」


 神の涙を持つ者は特別な甘い匂いを発しているという。


「レオン・フォン・ホフマンも、君を狙っていたようだな」

「彼は、その、大丈夫だったのですか?」

「まあ、死んではいない。ただ、復学は難しいだろう」


 ここだと思って、ユリウスについて聞いてみる。


「ユリウスは数日休んでいるようなのですが、どういう状態なんでしょうか?」

「ああ、彼は退学となるだろう」

「退学、ですか?」

「残念ながら、君と彼の兄弟ブリューダーの関係も解消になる」


 いったいなぜ? と聞いたものの、理由は明らかにされていないという。

 別れもなしに、突然いなくなるなんてありえない。


「君のことはヨハンが気に入っているようだが、神の涙を発見したのは久しぶりだった」


 校長は遠い目をしながら話している。

 まるで私が目の前にいることを忘れているかのように。


「実に二十余年ぶりか……。彼……ラウル以来だ」

「――!?」


 まさかここでラウル枢機卿の名を聞くことになるとは。


「ラウル枢機卿をご存じなのですか?」


 問いかける声が震える。

 校長は淡い笑みを浮かべながら、私の疑問に答えた。


「彼は私の〝高潔なる兄弟エーデル・ブリューダー〟だよ」


 どくん!! と胸が大きく脈打つ。

 まさかこことラウル枢機卿が繋がっていたなんて。


「なぜ、君がラウルのことを知っている?」

「は、母方が、オブリガシオン王国の者ですので……」


 ラウル枢機卿はオブリガシオン王国での尊敬すべき聖職者である。そう説明すれば、校長も納得してくれた。


「そうか……。彼はどこにいても、正しい男性ひとだったのか」


 その口ぶりはまるで、初恋を語るような、甘い響きがあった。

 私の気のせいである可能性があるが。


「これも何かの縁。さらに、神の思し召しなのだろう」


 校長は立ち上がり、ついてくるように言う。


「ここから先は、誰も立ち入りを許可したことがない。君は特別だ」


 いったいどこに案内するというのか。

 頭の隅で警鐘がカンカン鳴っていたものの、どうしてか校長の言葉に体が従ってしまう。

 階段を上り、長い廊下を進んでいくと、鎖で施錠された扉の前に行き着く。

 それは校長が手をかざすと、鎖は朽ちたようにバラバラになって落ちた。

 扉の向こう側には、ガラスの棺がずらりと立てかけられていた。

 エントランスにあったのと同じ物だろう。

 中に入っている人は、相変わらず精巧で本物みたいだった。


「あの、校長先生、ここにある棺は……?」


 校長は振り返り、にっこり微笑みながら言った。


「彼らはラウルを復活させるために必要な〝血〟だよ」

「え……?」

「吸血鬼として復活した者の多くは飢えている。空腹のままでいさせるのは、気の毒だろう?」


 いったい何を言っているのか。

 棺の中に、ありえない存在を発見してしまった。


「ユリウス!?」


 眠り姫のように、ユリウスが棺の中で眠っていた。


「彼は、どうしてここに!?」

「こちらに探りを入れてきたから、邪魔だと思ってね」

「なっ――」

「兄弟仲よく、こうして並べているんだ。幸せだろう」


 あろうことか、行方不明となっていたユリウスの兄もここにいたようだ。


「すべてはラウルを生き返らせるため。その悲願は、神の涙である君が血を捧げることによって叶うのだ」


 ガラスの棺が並ぶ部屋の奥に、両開きの扉があった。

 そこを開くと寝室に行き着く。

 ここにも大量の棺がある。違いといえば、ガラス製ではなく、中身がわからない木製の物であることくらいか。

 部屋の中心には大きな寝台があり、誰かが眠っているように見えた。


「ラウル、客だ。君と同じ、神の涙なんだよ」


 校長が口にした言葉が信じられなくて、自ら確認にいく。

 横たわっていたのは、ミイラのように干からびた存在。

 これがラウル枢機卿だなんて、信じたくない。

 けれども身に纏う服装は、枢機卿ガーディナルを象徴するような深紅の聖衣だった。


「あ……の、ラウル枢機卿は、どうしてこのような姿に?」

「彼は私の申し出を拒否したんだ」

「申し出?」

「ああ……。この国で、共に生きようという願いを。できないというから――彼の血を飲み干してしまった」


 ゾッと背筋が寒くなる。

 ラウル枢機卿は病死でも、事故死でもない。

 殺されたのだ。

 そしてその亡骸をこの男が盗んだ。


「酷い……。どうしてそのようなことができたのですか?」

「酷いのは彼のほうだ。長年、手紙を送っていたのに、あれこれ理由をつけて会うことすら拒否していたから」


 ラウル枢機卿は彼の狂気に気付いていたのかもしれない。


「彼はこうして長年眠りに就いていたが、それも終わりだ。神の涙である君が血を捧げることによって、彼は吸血鬼として生まれ変わる。特別な存在になるんだ!」 

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