校長の自宅へ
ヨハンから校長から話を聞く機会を作ることができた、という知らせが届く。
明日の放課後、時間を作ってくれたらしい。
何か情報を聞き出せるだろうか。
それとも、もみ消したようなうわべだけの話を聞くだけの機会となるのか。
ヨハンも同席してくれるというので、さすがに校長も甥の前でおかしな嘘は吐かないだろう。
ユリウスが登校しなくなってから、早くも十日経ったか。
クラスメイト達は気にも留めなくなっている。
ただ一人、ヘィンを除いて。
「ねえ、おかしいよね。十日も休んでいるのに、心配しなくていい病欠だなんて」
「ヘィン、その件については、触れないほうがいい」
ブラザー・マテオから変に目を付けたら大変だ。最悪、いなくなったクラスメイト達のように、存在をなかったものにされる可能性もあるのだ。
皆、それが怖くて、異変に気付かないふりをしているのかもしれない。
ヘィンにも皆と同じように、ユリウスのことは気にしないように言っておく。
こういう考えができるようになった自分に驚く。
アインホルン聖国での暮らしに染まってきている証拠だろう。
ユリウスについて調査したあとは、セシリアに命じられたとおり、早急に撤退しなければならない。
ようやく迎えた放課後――ヨハンと待ち合わせにしていた場所に彼は現れなかった。
代わりにやってきたのは、初めて目にするブラザー。
彼は校長の命令で、私を案内しにやってきたらしい。
ヨハンは急用ができて、同行できなくなったらしい。
馬車に乗るように言われ、それに従う。
校長は校内におらず、聖都シエルのタウンハウスにいるらしい。
先日の騒動を国の上層部に報告するため、神学校を離れていたそうだ。
馬車に乗っているブラザーはこちらが質問しない限り、喋ろうとしない。
ヨハンのことだって、聞かなければ説明しないつもりだったのだろう。
会話もないまま、校長の自宅へ向かったのだった。
馬車を走らせること一時間ほど――校長の自宅へ到着する。
タウンハウスであるものの、あるのは街中でなく、深い森に囲まれた郊外だった。
その代わりと言ってはなんだが、王弟でもありシャルロード公爵でもある校長の屋敷はとても大きく立派なものである。
敷地内も馬車を走らせることができるほど広く、玄関口の前で下ろされた。
ブラザーはそのまま馬車に残って走り去る。
普通、校長のところまで案内してくれるのではないか。
なんて思ったものの、自力でここまでやってくるのは大変だ。連れてきてくれただけでも、ありがたく思わなければならない。
ドアノッカーを鳴らすと、使用人が応対してくれた。
ヨハンの紹介でやってきたと言うと、中へ招き入れてくれる。
エントランスに入ってすぐに、ガラスの棺があった。
中には三十代前後の、聖衣に身を包む男性が眠っている。
よくできた蝋人形だろうが、こんなものを玄関に飾るなんてなかなか趣味が悪い。
バクバク跳ねる心臓を押さえながら、使用人のあとに続いた。
長い廊下をひたすら歩いて行く。
屋敷内は薄暗く、人の気配がまったくない。
客間に通され、しばし待つように言われた。
途中、メイドがやってきて飲み物を持ってきてくれたのだが、ワイングラスに注がれた液体はどろりとした赤。
血だ、と気付くのにそう時間はかからなかった。
おそらく私を吸血鬼だと思って持ってきたのだろう。
ひとます感謝し、メイドに下がってもらう。
一人になって、メイドが置いていった瓶を手に取った。
中にはたっぷりの血で満たされている。
いったいどこから提供された血なのか。
疑問に思っていたら、校長がやってきた。
立ち上がって頭を下げる。
ジャンフリード・フォン・シャルロード――入学式以来、その姿を目にした。
「アルヴィ・フォン・バルテル、よく来た」
校長はにっこり微笑み、私を歓迎してくれた。




