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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第四章 断食の夜に

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診療所へ

 聖都シエルは断食期間中だからか、大通りの食堂のほとんどは閉店し、人通りも少なくなっていた。


「国民の中で断食を行うのは聖職者や敬虔けいけんな信者など、ほんの一部なんだがな。国の方針として示されているから、営業したくてもできない状況なんだろう」


 閉店しているように見せかけて、裏で営業しているお店もあるという。

 裏口から入って、こっそり注文するらしい。

 いろいろ大変なんだな、と思ってしまう。


 馬車は大通りを抜け、ギリギリ通れるくらいの狭い道を過ぎ、石畳がでこぼこな下町に到着する。


「ここからは歩きになる」

「わかりました」


 馬車が走行できるほど道が広くないらしい。

 狭い道では子ども達が歩いていたが、ユリウスの姿を発見するとギョッとし、悲鳴を上げて逃げていった。

 そんな様子を見て、ユリウスはため息をひとつ零す。


「あの、先ほどの子ども達はいったい……?」

「貴族に搾取さくしゅされると思ったのだろう」


 その昔、なんでも貴族が労働力を得るために、下町の子を拐かす事件があったらしい。


「ホフマン家が関わった事件も、貴族全体がやっていると思い込んでいる者も多いようで、このとおり避けられている」

「そういうわけだったのですね」


 遠くからも子どもの声で「貴族がやってきた! 窓を閉めて!」なんて声が聞こえてくる。ユリウスは切なげな表情を浮かべ、目的地まで向かった。


 行き着いた先は、診療所の看板を掲げる建物。

 壁には蔓がびっしり這っていて、扉は外れかけている。窓から見える中の様子も薄暗く、機能している建物とは思えない。

 ユリウスは慣れた様子で扉を開くと、中へと入っていく。


「先生、いるか?」

「はいは~い、いますよお」


 のんびりとした返事が奥の部屋から聞こえた。


「その声は、ユリウス君かな?」

「ああ、そうだ」


 ずんずん奥へと入る。

 内部はかなり老朽化しているようだ。床は湿気をたっぷり吸っているからか、歩いているとボヨンボヨンという妙な弾力があった。

 診察室らしき部屋には、ボサボサ頭に無精髭を生やした、白衣姿の男性がいた。

 年齢はよくわからない。

 若くも見えるし、年老いたようにも見える。

 年齢不詳というやつだろう。

 ユリウスが先生と呼ぶ男性は私を見るなり、パチパチと手を叩いて喜び始めた。


「わあ、ユリウス君が恋人を連れてくるなんて!! 今夜はお祝いだあ!!」

「まだ恋人じゃない!!」


 まだとは? と思ったものの、きっと聞き違いだろう。

 今はその発言を気にしている場合ではなかった。


「じゃあ、恋人候補を紹介しに来てくれたの?」

「そんなわけあるか! 今日、紹介したいのはこいつらだ!」


 ユリウスはそう言って背負っていた包みを先生の前に置き、結びを開いて見せる。

 はらり、と布の下から登場したのは、頭蓋骨と腕と思わしき骨。


「ぎゃあ!!」


 突然だったからか、先生は跳び上がって驚いていた。

 もっと出しようがあったのでは……と思ってしまう。

 すぐにユリウスがごめんなさいと謝ってしまった。


「いや、いいけれど、びっっくりしたあ! これ、どこで貰ってきたの?」

「神学校の校舎の屋根裏にあった。これだけではない。他にも大量にある」

「ひえええええええ……!」


 先生は戦々恐々とした様子で頭蓋骨と骨を覗き込む。


「うわあ、これ、うわあ……」

「何かわかるのか?」

「これね、うーーん、きちんと魔法で解析しないとわからないけれど、全身の血を抜かれて死んだご遺体だと思うよ」

「なっ――!?」


 先生は腕の骨を手に取り、机に向かって軽く叩きつける。

 すると、あっさり砕けて折れてしまった。


「普通の骨だったら、こんなに簡単に折れやしないんだ」


 先生は引き出しから同じような骨を取りだす。


「これもね、人の骨なんだけれど」

「どうして机にあるんだ?」

「処刑された罪人の骨だよ。競売にかけられていたんだよねえ。献体として競り落としたんだよお」


 ユリウスの顔は思いっきり引きつっていた。

 私は人々の健康のために必要なのだろう、と自らに言い聞かせ、なるべく顔に出さないようにする。


「魔力が骨にまったく残っていない証拠だよ」

「魔力、ですか」

「そう! この国では聖力って呼ばれているかなあ」


 ここでユリウスが先生の紹介をしてくれる。


「彼はクーリィ・ジャム。アインホルン聖国では珍しい〝魔法医〟だ」


 魔法医、という存在を初めて知った。

 なんでも魔法医というのは魔法の力で診断し、魔法薬を処方してケガや病を癒やす存在だという。


「祖国から亡命したあと、行き倒れているところを、ユリウス君に助けてもらったんだよね」


 この建物も、ユリウスが買い与えたものだという。


「もっとまともな建物にしたほうがいいって言ったんだが、ここにしたいと聞かなくって」

「いやあ、もう二度と忙しくなりたくないから」


 なんでも祖国では患者が国中から殺到し、寝る暇もないくらいだったという。


「ここでの穏やかな暮らしを提供してくれたユリウス君には、感謝しかないよ~」

「おおげさな」

「謙遜しないで」


 話が逸れてしまった。


「この頭蓋骨と骨は、詳しく解析したいから、預かってもいいのかな?」

「ああ、むしろ預かってほしいと頭を下げようとしていたところだ」


 あの日から、ユリウスは毎晩のように悪夢をみていたという。


「悪夢かあ……。まあ、死んだあと、こんな姿で放置されたら、怒りたくなる気持ちもわかるよねえ」


 頭蓋骨の数から、相当な人数のご遺体があることがわかる。

 ユリウスがみた悪夢で、ミイラみたいに全身の血を抜かれたような姿をした者から、〝我々の体をどこにやった〟と訴えられた話を思い出す。

 あれは複数体の亡くなった魂が、救いを求めるメッセージだったのかもしれない。


「まあ、この国はいろいろご事情があるようだから……。問題は誰がやったのか、だよねえ」

「ああ……」


 もしかしたら屋根裏に、行方不明となった者の亡骸があるのではないか。

 ユリウスの兄バルドルも……なんて思ったものの、言い出すことはできなかった。


「何はともあれ、骨を調べることが先決かな。何かわかったら、魔法で手紙を飛ばすから」

「ああ、頼む」


 ひとまず先生に解析を任せ、私達は診療所をあとにしたのだった。

 

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