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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第四章 断食の夜に

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断食一日目

 ユリウスと約束している時間になったので、パウウルに「もうすぐ登校時間ですよ」と一声かけてから寮を出る。

 一階の食堂には、二時間前に起きることができなくて、朝食を食べていない生徒達が集まっていた。

 皆、お腹が空いたと嘆いている。

 パウウルを無理矢理起こしたことについて可哀想だったか、なんて思っていた。

 けれどもこうして空腹を嘆く者達を見ていたら、起こして正解だったのだと確信する。

 起床してから二時間も経ったら、目もすっきり覚めている。

 加えて、普段よりも調子がいいかもしれない。

 太陽が昇る前に目覚め、朝食を食べて二時間ほど胃を休ませるというのは、私にとってベストコンディションを作る流れだったのだ。


 今日もユリウスのほうが先に登校していた。


「アルヴィ、おはよう」

「おはようございます、ユリウス」


 いつもはしゃっきり目覚めているユリウスだったが、今日は目の下にくまができていて、どんよりしている。

 二時間早い鐘のせいで眠れなかったのかと聞くと、そうではないと言う。


「悪夢をみた」

「悪夢、ですか?」

「ああ」


 なんでも神学校の制服に身を包んだ見ず知らずの生徒から、詰め寄られる夢をみたという。


「普通の状態ではなかった」


 ミイラみたいに全身から血を抜かれたような姿をしていて、「騙したのはお前か!!」、「我々の体をどこにやった?」とひたすら質問攻めに遭ったらしい。


「いったいどうしてあんな夢をみたのか……ただの悪夢とは思えなかった」

「私も、そのように感じました」


 昨日、屋根裏で発見した骨をユリウスは持ち帰ったのだ。

 その影響で、そのような悪夢をみたのかもしれない。


「もしかしたら、昨日持ち帰った骨の持ち主が、ユリウスに助けを求めていたのでは?」「ああ……ありうる」


 もしかしたら骨の持ち主がきちんと埋葬されずに、ユリウスにどうにかするよう訴えていた可能性もある。


「こんなことになるのならば、霊廟に骨を安置しに行けばよかった」

「ええ。屋根裏よりも、霊廟のほうが心が穏やかになるかもしれないですね」


 ただ霊廟に入るには、聖術による解錠が必要となるだろう。

 もしかしたら神学校にいる誰かが関与している可能性があるので、ブラザーに相談するわけにもいかない。


「夢の中で〝我々の体をどこにやった〟と言っていたのも気になる」


 ああして隠された骨は、一人のものだけではないのだろう。


「ただでさえ調査しなければならないことがあるというのに、別の問題まで降りかかってくるなんて……!」


 例の骨は気持ちが穏やかになるよう、聖水漬けにしてきたという。


「聖水漬け、ですか?」

「ああ。桶になみなみと聖水を注いで、骨を沈めてきた。正直、それしか思いつかなかった」


 なんだか溺れそうで逆に苦しいのではと思ったものの、悪夢封じには効果があるのかもしれない。


「もう一度、屋根裏を調査する必要がありそうだが」

「ユリウス、今度は昼間にしましょう」

「もちろんだ」


 夜だったので、怖さも増し増しだったように思える。

 かといって昼間も屋根裏は薄暗くて、不気味なことに変わりはないだろうが。


「ユリウス、その、思ったのですが」

「どうした?」

「神学校でたまに行方知れずになる生徒がいる、という話がありましたけれど――」


 もしかしたら闇に葬られ、その亡骸は埋葬されることなく、校内のどこかに置き去りになっているのではないか。そんな推測を口にする。


「そんなわけがない。まず、家族が黙っていないだろう……」

「ええ、そう、ですよね」


 ただ、ハンス、ルーカス、マクシミリアンが突然いなくなった件と合わせて引っかかるのだ。

 ブラザー・マテオは彼らがいなくなった理由に触れず、その話題に触れようとする者がいたら罰すると言っていた。

 学校側が何か隠しているように思えてならないのだ。


「その辺のことは、休日にハンス、ルーカス、マクシミリアンから話を聞けば詳しいことが明らかになるだろう」

「そう、ですよね」


 憶測であれこれ考えないほうがいいのかもしれない。

 今は無念のあまり命を落とした者の魂が穏やかになるよう、ユリウスと共に祈りを捧げることしかできなかった。


 ◇◇◇


 断食一日目の教室は、潸々(さんさん)たるありさまだった。

 いつもより二時間早く起きることができたのは、クラスの中でも数名だったという。

 煉獄れんごくで罪を浄化される者が叫びをあげるような腹の音が、教室のいたる場所で響き渡っていた。

 朝食の時間に起きることができた者も、スープ一杯ではぜんぜん足りなかったようで、もうすでにお腹が空いたと訴えている。

 食べ物を金貨一枚で売ってくれ!! と叫ぶ者達もいた。

 もちろん冗談だろうが、目が本気にしか見えなかった。

 クラスメイト達の大半は、断食をするのは初めてなのだろう。

 普段、断食は聖職者と敬虔けいけんな信者しかしないという。

 これがあと九日も続くなんて……と絶望していた。

 禁欲的な神学校での日々の中で、食事しか楽しみがない者もいるという。それを奪うなんて酷い、と涙ながらに訴えている。

 そんなクラスメイトを見て気の毒に思いつつも、まだまだ元気なので大丈夫そうだな、と感じたのだった。

 ホームルームが始まる。

 いつも厳格なブラザー・マテオも断食期間に入って本調子ではないのでは? なんて思っていたものの、彼は驚くほどいつも通りだった。

 きっと断食を何度も経験しているので、慣れっこなのだろう。

 ブラザー・マテオが何か言うたびに、返事をするようにお腹の音が鳴っていた。

 笑いそうになるも、絶対に怒られるので我慢するしかない。

 クラスメイト達も同じようなことを考えているのだろう。ぶるぶる震えながら、笑わないように耐えているように思えた。

 ホームルームの終了を知らせる音が、福音のように聞こえてしまった。


 ブラザー・マテオが教室から出て行き、足音が聞こえなくなると、皆いっせいに笑い始める。

 ユリウスはいったい何がそんなにおかしいのか、と呆れた様子でいた。


 ただ、教室の中がわいわい賑やかなのは朝だけだった。

 時間が経つにつれて、お腹の音すら元気がなくなったように聞こえなくなる。

 昼休みになると、机に突っ伏して動かない者がほとんどだった。

 皆、断食の辛さをこれでもかと実感している。

 ユリウスは私の外出許可を取りに職員室に向かった。

 彼を待つ間、聖書に目を通す。

 便所に行って戻ってきたホィンが、いつもと異なる様子を教えにやってきた。


「アルヴィ、大変だよ。手洗い場にブラザーがいて、水を飲まないか監視していたんだ」

「徹底していますね」

「だよねえ。びっくりしたよ」


 便所の近くにある手洗い場は、池から引いた水を使っている。

 浄化していない水なので、飲料向きではない。 

 それでもいいから、と言ってこっそり飲む者がいたのだろう。

 ブラザー達も大変だな、と思ってしまった。


 ホィンと入れ替わるように、ユリウスが戻ってきた。


「どうでしたか?」

「ああ、問題ないようだ」


 いったいどういう理由で申請したのかと聞いたら、両親に兄弟ブリューダーができたと報告するためだと言ったという。


「すぐに許可を出してくれた」


 さすがユリウスである。

 そんなわけで次の休日はハンス、ルーカス、マクシミリアンの家を訪問し、彼らから話を聞くこととなった。

 

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