放課後
屋根裏の調査もしたいところだが、二日連続でルームメイト達に心配をかけるのは申し訳ない。
集団生活を送る太陽寮の事情をユリウスも理解してくれた。
そんなわけで、屋根裏の再調査は外出をする日に行うこととなった。
外出ついでに、ユリウスの知人だという医者に骨を見てもらう予定だ。
そこで人骨か、それとも動物の骨が判断してもらえるだろう。
休日で調査が一気に進みそうだ。
◇◇◇
帰りのホームルームが始まる頃には、皆の顔色は土色となり、生気が抜け落ちたような表情だった。
私も例に漏れず少し顔色が悪かったようで、ユリウスに大丈夫かと聞かれる。
「お腹が空いてはいますが、極限ではないです」
母と断食を行ったし、騎士隊の任務でも忙しさのあまり食事を取る時間がないこともあった。こんなものか、というのが正直な感想である。
ユリウスは十二歳の頃から聖職者見習いとなり、もう何年も断食を経験している。
さすがの落ち着きっぷりだと思った。
他のクラスメイト達は、初めて断食に挑む者がほとんどである。
このあと太陽が沈むのを待てば、待望の食事だ。それまでなんとか頑張ってほしい。
ユリウスとも今日は調査せず、まっすぐ帰ろうという話になった。
「アルヴィ、一緒に帰ろう」
「はい、喜んで!」
こうして皆が帰る時間に、共に下校するのは初めてではないだろうか。
もしかしたら他の生徒達から視線を浴びるかもしれない、なんて思っていたものの、皆、重たい足を引きずって帰っているように見えた。
彼らは今、空腹のあまり他人を気にしている場合ではないのだろう。
変に注目を浴びなくてよかった、なんて考えていたら、背後から声がかかる。
「お前達か! 入学早々に兄弟になって、イチャイチャしているとかいう噂の新入生は!」
振り返った先にいたのは、髪を短く刈り上げた、体格が立派な生徒。
装いの違いから二学年の先輩だとわかる。
赤い宝石が付いた十字架飾りを首から提げているので、優等生で間違いない。
腕組みしながら威圧するように見下ろし、何か物申したいような様子でいる。
ユリウスに知り合いか、と問いかけるような視線を送るも、首を横に振っていた。
「失礼。先輩とこうして話すのは初めてのように思えるのだが、何か用事だろうか?」
ユリウスが丁寧に問いかけたものの、何か癇にさわったようで、顔を真っ赤にして怒り始めた。
「貴様!! この俺を知らないとは、何事だ!!」
ユリウスは面倒な人に絡まれた、と言わんばかりの顔で見てくる。
「俺の名は、レオン・フォン・ホフマンだ! 歴史あるホフマン家を知らないとは言わせないぞ!」
ユリウスが私の耳元で囁く。国内でも比較的大きな商家の一族だと。
「我がホフマン家がいなければ、この国の流通はまともに回らない! つまり、ホフマン家のおかげで、日々、暮らして行けるのだ!」
なんの話をしているのやら……。
早く本題へ入ってほしいが、こういう相手に物申すと逆上してしまうので、黙っておくほうがいいのだ。
なんて思っていたものの、ユリウスはストレートに聞いてしまう。
「そんなことよりも、いったいどのような用事があって呼び止めたのだろうか?」
「そ、そんなことだと!?」
「私達も暇ではないので、早く言ってくれないだろうか?」
なんというか、強い……。
額に青筋が浮かんでいる相手に、はっきりと物申すことができるなんて。
「はっきり言ってやる!! お前らが入学早々兄弟となり、常に一緒にいてイチャついている姿が見るに堪えないと、二学年で噂になっているのだ!!」
「別に、戯れ合っていなかったと思うが」
「うるさい!! 男同士のくせに、恋人同士のように寄り添って見苦しい!!」
偏ったことを言い始めたので、私も物申してしまった。
「あの、愛の在り方は人それぞれで、他人が侵してもいい領域ではないと思うのですが」
「なんだと!?」
「聖書に神からの言葉もあるでしょう。愛はいかなる形であれ、人々を救うと」
正しい愛の在り方を神は定めていない。
つまり仮に私達が恋人同士であっても、先輩にこうして咎められる理由にはならないのだ。
さらにユリウスが止めを差すような一言をぶつける。
「こうして文句を言いたくなったのは、先輩は愛を知らないからでは?」
「な、なんだと!?」
「婚約者はいるのだろうか? 兄弟でもいい。近しい存在がいれば、愛を常日頃から感じ取ることもできるだろうが。その様子だと、どちらもいないのだろうな」
「なっ、なっ、なななな……!」
図星を突いてしまったのかもしれない。
先輩は顔を真っ赤にし、ぶるぶると震え始める。
「まあ、私達は恋人同士ではないがな。まだ友人関係だ」
そんなわけなので、二学年で噂になっていることは否定しておいてほしい。
ユリウスはそう言って、先輩の前から去る。
私も一礼し、ユリウスのあとに続いた。
先輩が何か背後で叫んでいたものの、ユリウスは「負け犬の遠吠えだ」なんて言っていた。




