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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第三章 神学校の謎

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消えた者達の行方

 朝――起床を知らせる鐘の音と共に目を覚ます。

 急いで着替えをし、身なりを整えた。

 少し皺が寄っているシーツを伸ばし、ブランケットを畳んでおくのも忘れない。

 窓を開いて新鮮な空気を入れようかと思ったが、思いのほかひんやりとした風が流れてくる。

 日中は暖かだが、朝はまだまだ冷え込む。

 ただ、ひんやりした風は気持ちを浄化してくれるように感じて、個人的には嫌いではない。

 けれども隣から「くしゅん!」とくしゃみが聞こえたので、窓は閉めることにした。

 三つ子のフィン、ヘィン、ホィンはすでに起きているようで、何か言い合いをしながら着替えを始めたみたいだ。

 パウウルが朝が弱いようで、いまだ夢の中だった。

 このままでは遅刻してしまうと思い、声をかける。


「パウウル、朝ですよ」

「うーーーん、まだ、眠い」

「朝食抜きでもいいのですか?」

「それは……やだな」


 もそもそ起き上がって動き始めるパウウルを確認してから、私は洗顔と歯磨きをしにいく。

 私と同じペースで朝の準備をしている者は少ないようで、ゆっくり顔を洗ったり、歯を磨いたりすることができた。

 食堂に集まり、取り分け方式で朝食を確保する。

 メニューはパン粥にマッシュしたニンジン。

 神と食材に感謝の祈りを捧げたあと、どちらもありがたくいただいた。


 朝食の席でもハンス、ルーカス、マクシミリアンの三人の姿を探したものの、発見には至らず。

 ただ朝食の席は早く着いた者から食べ、退席していくので、人を探すのは困難だろう。

 教室に行けばひと目でわかることだ。

 そう思いつつ、早めに登校することとなった。


 早く来すぎたようで、校舎内の廊下は静寂に包まれていた。

 ここまで人の気配がないと、どこかで逢瀬を重ねている二人組がいるのではないか、なんて危惧してしまう。

 けれどもそれは杞憂きゆうだった。

 教室に行くと、人の姿を発見する。

 窓枠に手をかけ、外の様子を眺める後ろ姿。

 風が吹いて、銀色の髪がさらりと揺れる。

 振り向かなくてもわかる、ユリウスだった。

 驚かせないように教室の扉をそっと開くと、彼は振り返る。


「早いな」

「ええ……。いろいろと気になりまして」


 どうやらユリウスも私と同じように、ハンス、ルーカス、マクシミリアンのことが気になって早めにやってきたという。


「アルヴィ、気付いたか?」

「何を――」


 言いかけて気付く。

 教室に一歩入ったら、すぐに違和感を覚えた。

 机の配置が換わっていたのだ。

 私達の席は少し前に移動している。


「これは……机の数が減りましたね」

「そのようだ」

「三つ、でしょうか?」


 間違いなく、ハンス、ルーカス、マクシミリアンの三人が座っていた机が撤去されたのだろう。


「いえ、正確に言えば、減った机は二つですね」


 ここでは細長い机を二人一組で使うので、三つ出してしまったらクラスメイトの一人が座れなくなるだろう。


「どう思う?」

「退学処分、でしょうか?」

「普通の人はそう考えるだろう」


 ユリウスはただ退学したとは思えないという。


「他に理由が考えられるのでしょうか?」

「たとえば、神隠しとか」

「ええ……」

「かなり突拍子がないことを言ったつもりだったが、なぜ驚かない?」

「それは、昨日、ルームメイトが以前からも生徒が急にいなくなることがあったと先輩達が話していることを聞いてしまった、と言っていたものですから」

「やはり、そうなのか?」


 この噂話について、ユリウスは知らなかったらしい。

 詳しく聞きたいと言うが、これ以上知っている情報はない。

 きっと話を聞いていたヘィンも同様だろう。

 ユリウスはしばし考え込むような様子を見せている。

 何かよからぬ考えでも脳裏を過ったからか、首を横に振って小さく「やはり神隠しなのか……いいや、ありえないだろう」と呟いた。

 ここでつい、思い出した言葉を呟いてしまう。


「〝神の裁きディヴァイン・ジャッチメント〟?」


 ユリウスはハッとなり、どこでそれを知ったのかと詰め寄ってきた。


「いえ、私は、その、本で読んだことがありまして」

「本!? ああ、たしかに、聖書の十七巻、七十五ページに記載はあるが……」


 セシリアが愛読している神学校・真なる兄弟の絆〟について打ち明けようとしたのだが、〝神の裁きディヴァイン・ジャッチメント〟は聖書にも書かれてある言葉のようだ。


「〝神の裁きディヴァイン・ジャッチメント〟により、失踪する。この神学校で……」


 たしかに、ありえないことだと思ってしまう。


「すみません、非現実的なことを言ってしまい」

「いいや、非現実的なんかではない」


 ユリウスの額には珠の汗が浮かび、顔色も悪くなっていく。

 普通の状態ではない。

 また、倒れてしまうのではないか。

 そう思って座るように促すも、大丈夫だと言われてしまった。


「また、前みたいになるかも」

「アルヴィ、今は私の話を聞いてくれ」


 差し迫るような迫力で、ユリウスは訴える。

 いったいどうしたというのか?


「私の兄も、神学校で失踪したまま、今も見つかっていない」

「なっ――!?」  


 ユリウスの兄バルドルはブラザー・マテオのように、この神学校で働いていたという。

 自宅から通っていたようだが、いつも通り神学校へ出勤したあと、行方知れずとなったようだ。


「もう何年も調査をしているが、兄の行方は誰も知らない」


 どこぞの女と駆け落ちでもしたのではないか、と心ない人々が噂していたものの、ユリウスはありえないと言う。


「兄は家族を大事にしていた」


 結婚していて、妻子がある身だったという。

 妻となった女性とは政略結婚だったものの夫婦仲は良好で、子どもは目に入れても痛くないほど可愛がっていたらしい。


「誰よりも責任感が強く、真面目に生き、ささやかな暮らしを愛するような人だった。そんな兄が何も言わずにいなくなるわけがない……」


 すでに行方不明になってから三年の月日が経つという。

 ユリウスはいてもたってもいられず、神学校に自ら乗り出し、調査することにしたようだ。


「大丈夫ですか?」


 今にも倒れてしまいそうだったので、腕を引いて椅子に座らせる。

 彼は操り人形のように、素直にすとんと椅子に腰を下ろした。

 汗を拭うようにとハンカチを差しだした瞬間、ユリウスはハッと我に返ったように見えた。


「すまない」

「いいえ、洗えばいいだけですから」

「ハンカチのことではない」


 ユリウスは呆れた表情を浮かべつつ、はーーーーーーとこの世の深淵にまで届きそうなくらいの深いため息を吐いていた。


「兄については誰にも言うつもりなどなかったのに、アルヴィが聞き出すから」


 私が聞き出した話だっただろうか?

 ユリウスのほうから聞いてほしい、なんて言っていた気もするのだが。

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