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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第二章 アインホルン聖国の神学校

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裏庭にて

 まさか今回の件にユリウスが……というか、優等生シュトレーバーから兄弟ブリューダーに選ばれる件が絡んでいると気付かれるとは。

 勘が鋭いというか、なんというか。

 普通の人だったら見逃しているだろう。


「どうしてわかったのか、という顔をしているな」

「ええ、まあ……正解です」


 私はそんなにわかりやすいのだろうか。

 もっとポーカーフェイスを極めなければ、と思ってしまう。


「お前が、というよりは、あの三人の行動だな」


 なんでも朝のホームルームのさい、ブラザー・マテオが優等生シュトレーバーに話しかけるな、と注意喚起を行った。

 そのとき、私に恨みがましい眼差しを向けていたのが、ハンス、ルーカス、マクシミリアンの三人だったようだ。


「ブラザー・マテオが三人の不在について、何も触れなかったこともおかしいと思った」


 なんとユリウスは職員室まで行ってブラザー・マテオを問い詰めにいったという。

 けれども返ってきたのは「お前が気にすることではない」という、突き返すような言葉だった。


「どうしたものか……と思いながら教室に戻ってきたら、お前が裏庭にあいつらを探しに行くと話していたから」

「そうだったのですね」


 私がいなくとも、ユリウスは例の三人組の不在について調べていたようだ。

 帰宅を促す鐘が鳴り響く。

 太陽はあかね色に染まり、傾き始めていた。

 早めに行って帰ってこなければ。

 校舎の裏にくるりと回り込むと、そこには裏庭が広がっている。

 昼間よりも薄暗くなり、どこか不気味な雰囲気になっていた。

 ユリウスは気にすることなく、ずんずんと迷いのない足取りで進んでいる。

 けれども途中でぴたりと足を止めた。


「待て、人の気配がある」

「――!」


 どこかこそこそしている後ろ姿だったという。

 見つけたのは神学校の制服に身を包んだ二人組の姿。

 私とユリウスはとっさに木の陰に隠れる。

 ここから見えるシルエットを確認する限り、探し人とは思えなかったのだが――。


「あれはいったい、何をしている?」


 ユリウスは眉間に皺を寄せ、二人の挙動を見つめていたが、途中でハッとなる。


「二学年の生徒のようだな」


 制服を着こなすこなれた姿でわかったという。

 二つの影は人目をはばかるような挙動を見せる。

 それはまるで恋人同士の逢瀬みたいで――。

 なんて考えていたら、突然抱き合ったように見えたのでギョッとする。

 具合が悪くなって、片方が片方を助けているようには見えない。

 完全に、抱き合っているようだった。

 そして、しばし見つめ合っていたかと思っていたら、顔を近づけて口づけを交わす。


「なっ――!?」


 思わず声をあげてしまいそうになったが、私の口をユリウスが慌てて手で覆った。

 目の前の二人は熱く愛し合っているように見えた。

 ここでセシリアが熱中していた小説〝神学校・真なる兄弟の絆〟について思い出す。

 そういえば小説内では、恋人同士になったら〝高潔なる兄弟エーデル・ブリューダー〟になれると話していたような。

 彼らがそうなのだろうか?

 なんて考えていたら、ユリウスが私の腕を叩いて遠くを指差す。

 そこにはもう一組の寄り添う生徒達を発見した。

 彼らだけではない。

 複数の生徒達が裏庭に集まって、逢瀬を楽しんでいるようだった。

 放課後の裏庭はそういう場所だったらしい。

 次の瞬間、先ほどまで遠くにいた二学年の生徒がこちらへ迫っていることに気付く。

 どうやら帰ろうとしているらしい。

 このままでは鉢合わせしてしまう。

 隠れる場所なんてなかった。

 どうすればいいのか、なんて思っていたらユリウスが私の体を引き寄せる。

 まるで恋人同士のように体を密着させ、ジッと見つめてきた。

 次の瞬間、私達の姿を目撃されてしまう。

 二学年の生徒は「失礼」と言って小走りでいなくなった。


 どうらやここにいる人達と同じように、恋人同士の逢瀬に見えるよう演技をしてくれたようだ。

 ずいぶんと大胆な作戦に出てくれたものだ。

 感謝しようとユリウスを見たら、顔が真っ赤なのに気付く。

 なんて色っぽく、艶やかなのか――なんて考えかけてハッと我に返る。


「ああ、申し訳ありません」

「いや、いい。というか、謝らないといけないのは私のほうだ。突然すまなかった」

「いいえ、おかげさまで覗きが露見ろけんせずに済みましたから」


 これだけの人達がいたら、ハンス、ルーカス、マクシミリアンがどこかに潜伏しているとは思えなかった。


「他の生徒とこれ以上鉢合わせしないように、撤退したほうがよさそうですね」

「そうだな」


 二回目の帰宅を促す鐘が鳴り響く。

 そろそろ帰らないと、夕食を食べ損ねてしまいそうだ。


 夕陽を背に、トボトボ寮を目指して歩いて行く。

 ユリウスは何か考え込んでいる様子だった。

 放課後にああして逢瀬を楽しんでいる姿が衝撃だったのだろうか。

 私もセシリアに聞いていなかったら、たいそう驚いていたかもしれない。


 ユリウスは途中でぴたりと立ち止まり、私に問いかける。


「先ほど見た光景を、お前はどう思う?」

「私ですか? いや、なんと言いますか、初めて見たのですが、さまざまな世界があるのだな、と。話に聞いてはいたので、そこまで驚きはしませんでした」


 愛の形はさまざまだ。それを咎める権利なんぞない。

 けれども彼らは未来の聖職者である。

 恋や愛に溺れている場合ではないので、あのように隠れて逢瀬を楽しんでいたのだろう。


「アルヴィ、お前は知っていたのだな」

「ええ、まあ……」

「誰から聞いた?」

「その、いとこから」


 〝いとこ〟というのはセシリアのことだが、ユリウスは深く聞いてこなかった。

 彼に対して嘘を吐くのはどうにも苦手なので、安堵してしまう。


「今日、見たことは誰にも言うな。国の重要機密だからな」


 それは〝高潔なる兄弟エーデル・ブリューダー〟という関係に、何か深い事情があることを示唆しているのだろうか。

 もちろん、ルームメイト達に面白おかしく話すつもりはなかった。

 わかったと返事をすると、ユリウスは安堵の表情を見せる。

 そこから会話もなく、歩いて行った。

 暗くなる前に、ユリウスとは寮の前で別れたのだった。



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