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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第二章 アインホルン聖国の神学校

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おかしなこと

 ヨハンがせっかく助けてくれても、教室に戻ったらハンス、ルーカス、マクシミリアンの三人が待っている。

 どうしたものか……なんて考えつつ教室に入った。

 心の準備をしていたのに、彼らが私に詰め寄ることはなかった。

 代わりにやってきたのは、ホィンだった。


「ねえ、アルヴィ、大丈夫だった!? なんか、同じクラスの三人組から呼びだしを受けたって話を聞いたんだけれど」

「ええ、問題ありませんでした」

「ケガとかない?」

「ええ、このとおり」

「よかったぁ~」


 教室を見渡してみたものの、例の三人組の姿は見つけられなかった。

 もしや、ヨハンに追いかけられると思ってどこかに隠れているとか?

 それともサボタージュするために授業に出ないつもりなのか。

 焦って逃げるあまり、溝に嵌まって出られなくなっている……というのはありえないか。

 心配している間に、授業開始を知らせる鐘が鳴った。

 急いで席に座る。

 麗しきお隣さん、ユリウスは聖術の書物を読んでいるようだった。

 ただ文字を追うために目を伏せているだけだというのに美しい。

 彼のこの圧倒的な存在感が、彼らの正常な思考を惑わしたというのか。

 いいや、違う。

 ユリウスの美しさはまったく関係ない。

 神学校の優等生シュトレーバー劣等生フェアザーガーの区別と、兄弟ブリューダーのシステムが彼らをおかしくさせたのだろう。

 これからはクラスメイト達のやっかみを買わないように、ユリウスと喋らないようにしなくては。

 そう想っていたのに、ユリウスは私に話しかけてくる。


「何かあったのか?」

「い、いいえ、何も」

「嘘吐け。クラスの奴らから呼びだしを受けたと言っていただろうが」


 どうやらホィンとの会話を聞かれていたらしい。


「どうしてそのような事態になったのか?」

「いや、私の態度が生意気だったみたいで」

「どこがだ?」

「そのー、私は無作法者ですので、知らぬ間に何か失礼を働いてしまったのかもしれません」

「何を言っているんだ。アルヴィの所作や礼儀作法はこのクラス……いいや、学年の中でも秀でているように感じた。無作法者なわけあるか」


 そんなふうに思われていたなんて驚きである。

 振る舞いについては、セシリアの傍に立つに相応しい者になれるよう、日々叩き込んできたものだった。

 これまでの努力を気付いてもらえるなんて光栄だ――なんて感激している場合ではなかった。


「まあ、いい。そういうしようもないことをするときには、特に理由なんてないのだろう」


 そういうことにしておこう、と深々と頷いておく。

 これでユリウスの尋問めいた質問攻撃から逃れられると思っていたのだが――。


「して、お前を呼びだしたのは誰だ?」

「そ、それは……」


 遠い目をしただけだったが、ユリウスに見抜かれてしまう。


「この教室にはいない者達だな」

「え!?」

「三人、いないようだ」


 こうしてクラスメイト全員が席についていると、空席が目立ってしまう。

 ユリウスは目ざとく気付いたようだ。


「いないのは、ハンス、ルーカス、マクシミリアンの三人か」


 驚いた。クラスメイトの席順と名前までもすでに把握しているなんて。

 私なんてクラスメイトの名前を三分の一記憶しているか、しないないかくらいなのに。


「その三人で間違いないか」

「よくわかりましたね」

「お前は顔に全部出るからな」


 それはセシリアにも言われたことがあった。

 さすがに彼女が即位してからは指摘されていなかったものの、少し気が緩んでいたのかもしれない。


「あいつら……あとで問い詰めてやるから安心しろ」

「いえいえいえ、もう解決したことですので」

「もしや、奴らはすでに始末したのか?」

「ま、まさか! そんなことをしていたら、私は今頃ここにはいませんよ」


 罰則を通り越して、退学処分になっていただろう。


「だったらどうしてあいつらはいないんだ?」


 ユリウスがそう問いかける。

 それは私も知りたい。なんて答えようとした瞬間、ブラザー・マテオがやってきた。

 教室を見回したあと、信じがたいことを口にする。


「全員揃っているな。授業を始める」


 明らかに教室の席が三つも空いている。

 ハンス、ルーカス、マクシミリアンがいないのに、ブラザー・マテオは平然と授業を始めるというのだ。

 クラスメイト達も気付いてザワザワし始めたものの、ブラザー・マテオは拳を勢いよく教壇に叩きつけ、皆を黙らせた。


「次、余計な会話をした者は、教室から出て行ってもらう」


 有無を言わさないような強い物言いで、授業を開始した。

 結局、例の三人が戻ってくることはなかった。

 ホームルームでも触れられることはなく、神学校での一日が終わってしまう。

 ホィンもハンス、ルーカス、マクシミリアンの三人がいないことに気付いたようだ。


「ねえ、大丈夫なのかな?」

「少し気になります。裏庭を見に行こうと思っているのですが、ホィンは先に寮に戻っておいてくれますか?」

「え、一人で調べに行くの?」

「ええ」

「僕も……」

「大丈夫」


 無関係のホィンを巻き込むわけにはいかない。

 そう思ってお断りしておく。


「心配だよ」

「でしたら、私が夕食の時間までもしも戻ってこなかったときに、寮母に報告する役目を担ってくれますか?」

「そんなのでいいの?」

「ええ。ありがたいです」

「わかった」


 ホィンは素直に私の申し出を引き受けてくれた。

 暗くならないうちに行って、寮に戻らなければ。

 なんて思いつつ教室から出て行くと、廊下にユリウスがいた。

 にっこり微笑みかけて「また明日」なんて言ってすれ違おうとしたのに、引き留められてしまう。


「おい」

「何か?」

「私も行く」

「どちらに?」

「お前の行くところに」

「どうしてですか?」

「私が無関係とは思えないからだ」


 またまた! と言いたかったのに、どうしてか彼の前で嘘を吐くことができなかった。

 ホィンの前ではいい感じに誤魔化すことができたというのに。

 ユリウスはあまりにも勘が鋭い、なんて思っていたのだが――。


「やはり、そうだったのか」

「え……もしかして、引っかけました?」

「そうでもしないと、お前は本当のことを話さないだろうが」


 騙されたーーーーー!!!! と叫びたくなる。


「早くしないと、日が暮れてしまう。急ぐぞ」

「は、はあ」


 一人で調べに行くはずだったのに、どうしてかユリウスが同行することとなった。

 

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