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女王陛下の婿探し~専属騎士だけれど、隣国の神学校へ男装し未来の夫を探しに行けと命じられました~  作者: 江本マシメサ
第二章 アインホルン聖国の神学校

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ヨハン・フォン・ドライヤー

 ヨハンは着地し、しゃがみ込んでいた体勢からゆっくり立ち上がる。


「な、なんだよ!!」

「文句でもあんのか!?」

「あ、あっちに行け!!」

「……邪魔、うるさい」


 地を這うような低い声だった。

 彼らが言葉を返す間もなく、ヨハンはぎゅっと拳を握った。

 ただ下ろした状態の手を強く握っただけなのに、ハンス、ルーカス、マクシミリアンの三人は逃げていってしまった。


 はーーーーー、と深く長いため息をつくヨハンに、声をかける。


「すみません、お邪魔をしてしまって」

「平気?」

「え、ええ!」


 どうやら助けてくれたらしい。言葉が少なくぶっきらぼうな印象があるが、なんて優しいお方なのか。

 成績優秀で見目麗しく、心優しいなんて、完璧な男性――。

 なんて考えてふと気付く。

 彼こそがセシリアの未来の夫に相応しい人物なのではないか、と。

 セシリアが掲げた理想の夫について思い返し、彼に当てはめてみよう。


  その一、筋肉質でないこと。

  体格と身のこなしを見る限り筋肉量はそこそこありそうだが、服を着ていたらわからない。ブリアックのような服の上からでもわかる、筋肉質なタイプではないのでぜんぜん問題ないだろう。


 その二、女遊びを好まないこと。

 これについては調査を重ねる必要がある。


 その三、できれば長男以下。

 これも要調査だ。


 その四、傲慢でないこと。

 彼はまったく傲り高ぶり、他人を見下すタイプとは思えなかった。


 その五、女兄弟がいること。

 これについても調査しなければ。


 その六、優しいこと。

 見ず知らずの私を助けてくれたのだ。優しいに決まっている。


 その七、几帳面であること。

 制服をきちんと着こなしているようなので、そこそこ几帳面だろう。


 その八、他人にも自分にも厳しく律していること。

 まだ詳しく彼の人となりを知っているわけではないが、そういうタイプのように思えた。


 その九、極めて優秀であること。

 神学校の首席である。優秀でしかない。


 その十、読書が好きなこと

 優秀である人は、本を好んでいることが多い。でもわからないので、調査しなければ。


 少し接しただけだが、セシリアが重要だと思っている条件はすべて満たしているように思えた。

 すぐにでもスカウトして、セシリアのもとへと連れて帰りたい。

 しかしながら彼の人生は彼のものである。

 この国にいたくない理由や、結婚相手が見つからないなど、やむを得ない事情がなければおおっぴらに誘えない。

 ただ、こういう人は職場でも、結婚相手としてでも、引く手あまただろう。


「どこか痛い? 殴られた?」


 ヨハンが心配そうに私を覗き込んでいたので、ハッと我に返る。

 ついつい思考の波に呑み込まれていたようだ。


「いいえ、なんでも! 助けてくださり、ありがとうございました!」

「別に、いい」


 弱い者いじめが嫌いだから。

 そう、ヨハンは言ってくれた。

 正義感も強いようで、なんて素敵な男性ひとなんだ! と思ってしまう。


「それはそうと、どうして木の上で眠っていたのですか?」

「人、追いかけてくる。うるさい」


 ヨハンを追いかけてくる人というのは、彼と〝兄弟ブリューダー〟になりたい劣等生フェアザーガーのことだろう。


「みんな、怖い」

「私も劣等生フェアザーガーですが、同感です」


 ここでヨハンはハッと何かに気付いたようだ。


「君、劣等生フェアザーガー?」

「ええ、そうですよ」

優等生シュトレーバーかと思った」


 青いガラスの石が填め込まれた十字架飾りローゼン・クランツを首から下げていたのだが、気付いていなかったらしい。


「そう、劣等生フェアザーガー


 彼も入学して早々、酷い目に遭っているのだろう。

 劣等生フェアザーガーの全員が全員、優等生シュトレーバーと〝兄弟ブリューダー〟になりたいわけではない。

 それをわかってもらえたら、少しは過ごしやすくなるだろうか?

 なんて思ったものの、優等生シュトレーバーとお近づきになりたい劣等生フェアザーガー達の勢いがすごすぎて、少数派の意見なんて参考にならないだろう。


 ヨハンについて調査するため、ぜひとも友達になりたかったが、ガツガツと彼の領域に踏み込むべきではない。

 今日のところは引き下がって、また後日、偶然を装ってお近づきになりたい。

 ここで予鈴よれいが鳴り響く。

 不審に思われることなく、去ることができる絶好のタイミングだ。


「ああ、急がないと次の授業が始まりますね」


 では、と言おうとした瞬間、引き留められる。


「待って」

「は、はい?」

「名前、何?」

「私の、ですか?」

「そう」


 まさか名前を聞かれるとは思いもしなかった。

 落ち着いて、間違えないようにアインホルン聖国での偽名を名乗る。


「アルヴィ、アルヴィ・フォン・バルテルです」

「アルヴィ、覚えた」

「光栄です」

「俺は……名乗る程の者ではない」


 ヨハンはそう言って、走ってこの場を去って行った。

 名乗る程の者ではないとは?

 すでに全校生徒の前に立っておきながら、何を言っているのか。

 よくわからないが、面白い男だ、と思うようにした。


 

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